雨
に濡れる街。
車の
ヘッドライトが、暗闇に雨の筋を浮かび上がらせる。
何台も、
何台も、
同じようにして。
小走りに道をかけていく人、
傘をさし、ゆっくり街へ吸い込まれていく人。
みなが、
雨に遮られる、無言の世界。
街灯はちかちかと
明滅を繰り返し、小さな虫さえ近づかない。
何かの
明かりがぽとりと落ちた。投げ捨てられた煙草の
火。
雨
にあらがいきれずに悔しいと、紫煙に叫ぶ。
ガシュッ
「…つまらねぇ。」
月
さえ隠れる重厚な雲に、鳥
さえ羽ばたかぬ狭い空。
[咢、もうそろそろ帰ろうよ…。]
己の中のもう1人の者の言葉が、脳内に反響する。
「うるせぇんだよ亜紀人、黙ってろ。」
[アギト…。]
「どうせてめぇはあのクソアマに逢いてぇだけだろ。」
[クソアマって…のコトをそんな風に言わないでよ!]
「ほぉ、オレにたてつこうってのか。」
[っ…は、
絶対守るって決めたんだ。]
咢の眉根がひそめられる。
「亜紀人、お前いつから…。」
「あ、アギト発見!」
「な…。」
A・Tを履いた
真っ赤な傘の少女は、咢の姿を見てそう叫んだ。
「あんだ、くそアマ。犯られに来たのか?」
「アキトは〜?」
汚い言葉を浴びせ掛け怯ませようとする咢をはさらっとかわし、更に近づく。
「オレは女だろうが容赦しねぇぜ。それ以上近づいたら
ブッ殺す。」[アギト!]
「どうしてかな、アギト。」
「ああ?」
「どうして君は強いのに、
牙を剥くの?私なんか、1秒で粉に出来る『牙』の王の君が、どうして手負いの獣のように、威嚇するの?」
悲
しみも、怒りも、同情も、恐れさえ。何も映さない、虚空の瞳。
「道を追い、上り詰め、王となったから?前に何もないのが怖い?」
「…。」
「
追われる、恐ろしさ?」
ガジュッ、と
地が抉れるような音を立ててA・Tを走らせ、一気にの元へ行く。華奢な咢…亜紀人…の指が、それより更に華奢なの喉元を押さえる
「それ以上その口動かしやがったら、締めんぞ。」
ギリッ、と噛み締めた
唇に、牙のように尖った犬歯が血の紅を施す。
「一騎当千…だけど、君は
脆い鎧しか身に纏っていない。だから、どんなに武器が強くても、もっと強い兵が懐に忍び込んだとき、君はあっけないんだよ。」
「うるせぇ!」
[やめて、アギト!にだけは手を出さないで!!]
「南 樹…。
君の、恐れ…。」「黙れ!!黙れぇっ!!」
雨
の音がすべてを消し去る。哀しい獣の慟哭を
。
「……。」
「…ごほっ…今度、アギトに伝えておいてよ。私を黙らせるなら、もっと色気ある
黙らせ方にして、ってね。」
亜紀人は、の身体をそっと抱きしめた。酷く
冷え切ったその体を抱いて、ますます胸が締めつけられた。
「…ごめん。」
「どうしてアキトが謝るの?」
「君を、守れないから。
好きなのに…。」「ありがとう、アキト。…でも、そうすると、私も謝らなくちゃ。」
「え?」
「…私、
アギトもアキトと同じくらい好きだもん。ごめんね?」
亜紀人は静かに首を横に振った。
道路の水溜りをはじいて行く車の音は、咢のA・Tの音とよく似ていた。
「
上手く、想いを伝えられないんだ。」「僕も、そうだよ。…アギト、今は不貞寝してる。」
「…時間はかかるかもしれない、けど、私、頑張るよ?アギトに、
想いが通じるように。」「大丈夫…だって、後ろ姿だけで、僕らを『どっち』か判断できたんだから。」
(お兄ちゃんでさえ、出来なかった事を。)
自分は貴方を
水の底から引き上げるための、ロープでいい。「彼」のように、「
鳥」になる事は叶わないけれど。貴方と空とを繋ぐ、ロープになれれば、いい。
「
大好きだよ。」
押し潰すようなこの
雨雲を抜けて、永久に広がる青空の元へ。
大好きな貴方を、
導く。
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後足掻き
いえーい、自己満足!!(笑)亜紀人と咢の話を書きたくて書き始め、抽象的に進めて
いったら、最後まで抽象的で終わりました。(ダメじゃん)
えーっと、言い訳すると長くなりそうなんでやめます(苦笑)好き好きにとってください。
2004・2・25 月堂 亜泉 捧
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