九州行きが決まった次の日曜日。
俺はに誘われて、少し遠出をした。
場所は秘密だと言って、切符を渡したの手が震えていた。
明日の見える丘
「…それでね、ちょうどその時先生が来てさ〜、すっごくおかしかったんだよ〜!」
いつも通りには俺に話しかける、が、
その声に沈んだ色を隠せないのは、俺も気付いていた。
最近、少しずつ傾いてきた太陽が、電車の中に眩しい光を注ぐ。
の横顔にそれは降り注いで、また…哀しげな表情に見せる。
「…って、聞いてる?」
「ああ…。」
「国光は無反応だからなぁ〜。」
「すまん。」
「あ、謝んなくてもいいんだけどさ。」
何となく、沈黙。
ガタガタと電車が音を立てる。
少しずつ都心から離れていき、田畑が多く見られる場所を、電車は走る。
「…ねぇ、九州ってどんなトコ?」
俺は驚いた。
の事だから、そんな事は聞かずにいると思っていた。
だから俺も極力その話題を避けていた。
「さあな。ただ、俺の行くところは多少…繁華街とは離れると聞いたがな。」
「そうなんだ。嬉しい?」
「何故だ?」
「だって、国光は自然大好きじゃない。癒されるね。」
「…そうかもな。」
「よかった。」
それで、早く治れば…。
の口がそう動いたのを、俺は見て見ぬふりをした。
* * *
『…お降りの際は、足元にお気を付けください…。』
「大丈夫か、?」
「うん、平気平気。よっ…とぉ。」
都心とは違う整備の行き届かない駅のホームは、電車の出入り口と段差があった。
の手を取って、降りるのを手伝ってやる。
「ご到着〜っ。んー、っと。」
伸びをしてから、俺の手を何気なく取る。
「さて、行きましょか、国光さん。」
「どこにだ?」
「だから、それを言っちゃダメなんですよぉっ。私に任せて、ね?」
「…ああ、分かった。」
田畑の畦道を、舗装していない道を、細い道を、と歩く。
虫の声や、人の声、それらは頻繁に聞こえるのに、騒がしくはない。
ゆったりとした時の流れるそこを、と歩いていた。
「んーと、確かこの道を右に行って…。」
「(確か…?)…道はあっているのか?」
「ん。大丈夫だよ。」
「その根拠のない自信が、俺は不安なんだが。」
「平気だってば。あ、ほら、合ってるもん。」
の指が指し示したのは、一つの看板。
「…光の丘公園?」
「うん。」
は俺の手を引いて、その公園の敷地内に入って行く。
子供用の簡素な遊具に、ベンチがぽつぽつとあるその公園。
地元の人しかこないその公園は、耳が痛くなるほどの静かさに包まれていた。
ブランコに腰を下ろした。俺はその周りの柵に寄りかかる。
がブランコをこぐと、キイッ、と鉄の擦れる音。
柵は錆付いていて、俺の手に独特の匂いを残す。
「ここが、最終目的地か?」
「んー、あと一歩かな?」
「一歩?」
「うん、もうちょっと。」
腕時計を確認して、ブランコから飛び降りる。
「じゃ、行きますか。」
は再び俺の手を取って歩き出す。
その握る手が、また少し、震えていた。
少し力を入れて握り返すと、驚いたようにこちらを振り返り、微笑んだ。
「…行こ。」
「ああ。」
* * *
が連れて来たのは、公園の高台。
いわく、ここは『丘』なんだそうだが。
「ここ…なんで知ってるかって言うとね、昔、お父さんとお母さんに連れて来てもらった
事があるんだ。」
申し訳程度に置かれたベンチに腰を下ろす。
「それでね、素敵な話を聞いたの。…ここは少しだけ、場所が高いでしょう?
だから、ここは一番初めに『明日が見える』んだって。…そんな事ないのにね。だって、
ほかにはもっと高い場所だってあるのに。でも、私は信じた。」
は思いきり手を伸ばし、空に翳して、
「だからね、嫌なことがあっても、ここに来れば大丈夫って思ってた。
明日が見えるから、明日には、違う何かが起きるって。」
「…?」
上を向いているの瞳から、すうっと雫が零れる。
「だからね、私はここで祈りたいの。明日には、何か違う事が起こるようにって。
明日の明日かもしれないし、そのずっと先の明日かもしれないけど。
国光が、ちゃんと元気に帰ってくるようにって。」
太陽が、赤みを帯びる。
沈み行く太陽の反対には、静かに昇り来る月が待っている。
「『明日』を、待ってるからね。」
「分かった…約束だ。」
赤みを帯びた太陽の光に照らされた、の涙に誓う。
「必ず、またこの場所で、共に『明日』を見よう。」
いくつ、月と太陽が入れ替わるか分からない明日。
明日の見える丘で、君と逢おう。
***FIN***
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後足掻き
お祝い…というか嫌がらせ?手塚ドリです。ごっ…ごめんなさい。ホント出来悪いですよ。
一万打&一周年記念という事で枉賀ちゃんに進呈しました(大迷惑)。枉賀ちゃんの
HP題名普通に使っちゃってますし(汗)スランプ半脱出作品なのは秘密☆
何だかまだスランプ抜けきってないですね。納得いってませんよ、はい。
もっと素敵なドリを書けるように努力しませう。はい。
2003・11・3 月堂 亜泉 捧
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