「何故また来た?其方は天狗を忌み嫌っているのではないのか?」

 

 

確かにそうだ。

 

私の母の敵なのだから、私は天狗を殺したいほど憎んでいた。

 

けれど。

 

 

「貴方は、意味もなく人を殺すように見えないから。」

 

 

彼が本当に私の母を殺したのか。

 

もし、殺したのだとしたら、理由は何なのか。

 

理由を知りたい。

 

 

真実を詳らかにしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あやかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時をかける能力は、いくら鬼といえど不可能だ。」

「そうなの?」

「鬼とて万能ではない。」

 

そりゃそうよね、と小さく納得してみる。

物の怪だって、陽の元で活動出来ないように、弱点もあれば得手不得手もあるのだろう。

 

母が殺されたあの日、何があったのか知りたかったけれど、流石にそういう狡はできないみたい。

 

「もしそのような力があるとしたならば、龍神の神子ぐらいのものだな。」

「龍神の…神子。」

 

それは大昔からこの世界に語り継がれている、伝説。

この世界に危機が訪れた時、異世界からやって来る、神聖なる「神子」。

この世界を守護する龍神の加護を得たその神子は、不思議な力で悪霊や鬼を退治し、この世に

安寧をもたらすという人物だ。

 

「私はこの世界しか知らないし、周りにもそんな人はいないからなぁ…やっぱり地道に

 調べて行くしかないのよね。」

 

自分で呟いてみて、何だかおかしくなった。

 

今まで、流されるように自分の居場所を見つけていた。

自分の力では、何もしたことがないと…最近ようやく気付いたのだ。

 

「よし、まずは聞き込みよね。でも…もう随分前の事だし、覚えてる人がいるかどうか…。」

 

意を決して言った台詞に、今まで黙っていたリズヴァーンがしゃべり始めた。

 

「…お前が正面から言って教えてもらえるかどうか。」

「どうして?」

「お前に一番最初『お前の母を殺したのは天狗だ』と言った奴は誰だ。」

「えっ…?えっと…親戚の叔父さんだけど…。」

「その叔父というのが一番怪しいとは思わないのか?

 …何故叔父は『天狗に殺された』と断言したのだ。今や天狗などそう目にするものでもあるまい。」

 

考えてみればそうだ。

殺されるにしても、普通の「人」でよかったはずだ。

母が死んだことで気が動転し、憎しみの矛先を与えられたことで思考することをやめてしまった。

 

「犯人捜しをさせないために、『天狗』なんて途方もないウソをついた…。という事?」

「そう考えるのが妥当だろうな。」

 

私は馬鹿だ。

そんな簡単な事に、何故今まで一度も気づかなかったのか。

 

ただ、無意味に天狗を憎み、理不尽に世を嘆いた。

 

「行くぞ。」

「えっ、行くってどこに…。」

 

身をすっぽり覆われる外套に包まれ、初めてリズヴァーンに触れる。

そのぬくもりは、人と寸分違う事なく…むしろ、長いこと人との触れ合いをしていなかった私には、

涙が出てしまいそうな、暖かさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、何なんだ今更…。」

 

髪が薄くなりだしたのを密かに気にしている男は、苛立ち髪をかきむしる癖を何とか抑え、

大きなため息でやり過ごす。

男の様子を見た女が、少し怪訝そうに窺う。

 

「あなた、どうしたの?」

「あの菓子店に追いやった娘の事さ。」

「ああ、あの子…何かあったの?もう仕事もあって、うちに頼ることはないでしょう?」

 

そっと女は自分の旦那である男に茶を差しだす。

 

「わからん。今更、母親の死んだことについてしつこく聞いてきおって…。

 全く、誰に何を吹き込まれたんだか、迷惑な話だ。」

「…大丈夫かしら。あの家の財産は結構なものだったんでしょう?」

「まぁ、そんなに多かったわけでもないがな。娘に残すために小さく貯めていたんだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが真実の様だぞ。」

 

リズヴァーンが抑揚のない声で私に告げる。

 

「…そうね。」

「真実を知ったが、お前はどうするんだ。」

「…今更、あの人たちに何をしたって、お母さんが帰ってくるわけじゃないわ。」

「そうか。」

 

そう短く返事すると、リズヴァーンは叔父さんの家の戸口へ向かった。

 

「リズヴァーン、何を…?」

「私の髪をひと房置いておく。…鬼の髪が落ちている家は凶事があると、人の迷信では言う。」

 

腰に差した一振りの刀で、その綺麗な髪をひと房切る。

玄関先に置かれたそれは、私には凶事どころか慶事を呼びそうに見えた。

 

それほどに美しい黄金色だったから。

 

「…リズヴァーンは、鬼じゃないわ。鬼というのは…叔父さんたちのような人の事を言うのよ。」

「…そうか。」

 

 

その一言は、よく聞く返事だったけれど…

 

どこか表情が、今までに見たこともないくらい優しげに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

そんなわけでやっぱり前後編で収まりきらなかったのでもう一本書きます(汗)

先生は恋愛に発展するまでが大変だと思うの。霧や霞食ってそうな天狗さんですから。

 

そんなわけで完結編は甘くなってくれることを期待して…頑張って書きます。はい。

 

  2009・5・29  月堂 亜泉   捧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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