私の冬の楽しみ。

その一つはバレンタインディ。

 

 

あ、誰かにあげるとかそういうコトじゃなくてね。

 

 

「あはははは!」

「何を大爆笑してるんですか、。」

「だっ、だって、そんなコトになる人っているんだ〜と思ってさ、あはは、ははっ!

 すっごいっ、漫画の世界だよ〜!」

 

おなか痛い…!ふ、腹筋割れるっ!

下駄箱開けたらチョコの津波が起こる、なんて!

生で見れるのは貴重よねっ!

 

「そんな所で笑っているなら、ちょっとは手伝ってくださいよ。」

「へいへい。あー、面白かった。」

「笑い事じゃありませんよ。持ち帰るの大変なんですから。まして今日は雨なんて…。」

 

ぶつぶつと文句を言いながら拾い出す観月。

私も観月の隣に屈んで、可愛いラッピングをしたり、リボンを付けたり、

メッセージカードをつけたりしたそれらを拾う。

 

みんなやっぱ、少しでも気を引こうと色々工夫してるんだなぁ。

 

なんて、他人事みたいだね。

自分の彼氏にこれだけのチョコが送られてくることに嫉妬も危機感もないわけじゃ

ないんだけど、ここまでだといっそ清々しいと言うか…。

 

「にしてもさ、これだけの量のものを全部食べるの?」

「いいえ。まさか、一人きりで食べられるわけがないじゃないですか。

 適当に寮のみんなへあげますよ。」

「うわー…かわいそーに。」

「だからって捨てるわけにも、全て食べるわけにもいかないでしょう?」

「そりゃーね。」

「どれか食べます?」

 

ひょい、と手元にあったものの一つを手に取って、私の方へ差し出す。

私は丁寧にその手を押し返して、

 

「これ以上女子の怨みを買いたかないわよ」

 

最後の一つを拾って、私は勢いをつけて立ち上がる。

 

「さ、帰ろうよ。」

 

 

 

 

 

 

 SWEET&HEART

 

 

 

 

 

 

 

帰ると言ったって、私も観月も寮生だから、ほんの数分で着いてしまうんだけれど。

 

「おっじゃま〜♪」

 

もう慣れ親しんだ観月の部屋。ぴしっと整えられたベッドにダイブする。

 

「埃がたつでしょう。もう少し大人しくしてください。」

「はーい。」

 

ころん、と仰向けに寝転がって、クリーム色の天井を眺める。

 

。」

「ん〜?なあに?」

 

私は相変わらず天井を見つめながら答える。

 

からはないんですか?」

「はい?」

「バレンタインの、プレゼント。」

 

何のコトかな〜、と寝返りをうつと、ぎしっとベッドが軋んだ。

 

「い゛っ!?」

「聞いてますか…?。」

 

少し鼻にかかる甘い、低めの声が耳元を舐める。

 

「ぎゃーっ、襲われるぅーっ!」

「人聞きの悪いコト言わないでください。」

「人聞きの悪いコト言われるような事しないでクダサイ〜ッ。」

 

くっくっ、と喉で押し殺すような笑いが後ろから聞こえる。

こんにゃろー、人を何だと思ってんだっ。

 

、はい。」

「何よぉ?」

 

ひょい、と目の前に吊り下げられていたのは、綺麗な包み。

 

「だから、そんな事をしたら女子に怨まれるってば。」

「僕のですよ?」

「は?」

 

訳が分からず上体を起こす。

観月はいつもの皮肉な笑いじゃなくて、ふんわりとした自然な笑みで、

 

「だから、僕からのバレンタイン・プレゼントですってば。」

「アンタ、男でしょ。なんでバレンタインに送るのよ。」

「本来、バレンタインはカードや花などを家族や恋人同士で、感謝や好意を持って

 交換するものなんですよ。日本は製菓会社やその他もろもろの影響で、

 女子が男子に想いをチョコで伝える、と変わってしまっているんですがね。

 ホワイトデーなんかは日本にしかありませんし。」

「ヘえ〜…。」

 

何でこいつはこんな知識を知ってるかなぁ?どっから仕入れてるのかさっぱり分からん。

 

「で、これは僕からのです。受け取ってください。」

 

言われるままに、私は観月からそれを受け取る。

包みを剥がして中を開けて、私は驚いた。

 

「これっ…!」

「よく出来ているでしょう?が喜んでくれると思って、これにしたんです。」

 

中には、様々な色のチョコレートで出来た、フラワーアレンジメントが入っていた。

食べてしまうのが惜しくなるほど、綺麗な作品。

 

「い、いいの?」

「勿論。貴女の為に買ったんですから。…で、からは?」

「…こんなに立派なもの見せられた後じゃ、遜色しちゃうよ?」

「そんな事ありませんよ。バレンタインで一番喜ばれるのは、『気持ち』ですから。」

 

私は、カバンの中を探る。

割れないようにタオルで何重にもくるんであったそれを観月にそっと渡す。

上手く出来た、つもりだけど、不器用な私だからどうか分からない。

 

でも、観月が包みを開けた瞬間の表情を見たら、そんなちっぽけな悩みは吹き飛んだ。

 

、ありがとう。すごく嬉しいですよ。」

 

いつもは皮肉った笑みが出るはずが、今日はそれが影を潜めている。

その代わり、胸が締め付けられるほどの優しい表情を私に向けてくる。

 

「大切に、全部食べさせてもらいますからね。」

「っ、食中毒起こしても知らないよ?」

の作ったものなら大丈夫ですよ。」

「やめてよ、私の作ったもので観月が倒れたら洒落にならないんだから。」

 

にっこり観月は微笑んで、私を抱き寄せる。

観月の鼓動が聞こえる。

 

とくん、とくん…と、私よりも速いスピードで。

 

心地よくて、暖かくて、私は目を閉じる。

 

「…溶ける…。」

「え?」

 

 

 

 

 

……溶けて、しまうように…心地いい、愛しい、人の…腕の中。

 

 

 

 

 

「好きですよ、。」

 

 

 

 

「やめてよ、恥ずかしい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

外の雨は、ホワイトチョコよりずっと白い雪に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

       バレンタインって…なんだろう…。

月堂、縁の無い物は書けません(笑)だって貰う側だし。(チョコは貰いませんけど。)

そうそう、本文中の観月ちゃんの薀蓄は本当ですよ。ちなみに、セント・バレンタインの

命日…なんですよ。殉教死されたんですね。神様の命日に恋愛がどうのこうの言ってる

日本人も、神様から見たらさぞ滑稽に映るんでしょうね〜。まあ、そんなこと言ったら

いろんな行事がそうなるんですけどね〜。日本は多文化で実に面白い国ですね。

 2004・2・13 月堂 亜泉 捧

 

 

 

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