君の一瞬が欲しい

 

 

 

「あああーっ!」

 

廊下に響く叫び声。

次の瞬間、前にいた人の頭の上に大量の紙がバサバサと落ちる。

その光景はさながら、雲に隠される太陽。

 

「ご…ごめん、千石…。」

 

くるっと振りかえってにっこり笑う千石。

 

「だーいじょうぶ☆ちゃんに逢えるなら、こんなのでも全然平気♪」

「何を言ってんのアンタわ。」

「うーん、ちゃんに謝ってもらえるなんて、俺ってラッキー♪」

「人の話を聞け、千石!」

 

いつでもにこにこしてて、本気なんだか冗談なんだか分からない。

おまけにこんな奴に限って、もてる。

うちの学校の女子の趣味は、よく分からん…泣かされた女の子もいっぱいいるってのに。

 

「それよりさ、悪いけどちょっと、拾うの手伝って。」

「何これ?」

「校内新聞。今月分のをさっき刷ってきたの。」

 

とんとん、と新聞を揃えて抱える。

 

「おおっ、テニス部載ってるじゃーん!!」

「それはね。今月の一番大きな行事だったから。」

 

千石を一面に載せるのは気が引けた…ってのはオフレコ。

 

「うんうん、きれーに撮れてるじゃん?」

「あったりまえでしょ?が撮ってくれたんだもの。」

 

写真部にいる親友の働きを、自分の事の様に胸を張って答える。

 

「そうだったのかぁ、でもそれだったら、俺はちゃんに撮って欲しかったなぁ。」

「…ハイ?」

「好きな人にサイコーの瞬間撮ってもらうのって、幸せじゃん?だ、か、ら。」

 

私は外国人よろしく肩を竦めて、

 

「…寝言は寝てから言いなさい。」

「あっ、ひどっ、俺は本気だよ?」

「…はいはい。私はこれからこれの配布と掲示に行かなきゃならないの。

 千石だって部活でしょ?さ、行った行った。」

 

私は手で千石を追いやって、大量の新聞を腕に抱えて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントに…本気なんだよ?ちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーと…あっ、ここ先月張り忘れてる〜…。」

 

紙が所々切れて、何度か張り直した跡がある先々月の新聞。

そして、その記事は…テニス部の事に関してだった。

 

『山吹中学男子テニス部、地区大会を突破!決勝戦はパーフェクト・ゲーム!!』

 

誇らしげに、そんな煽り文句が踊っている。

 

確か、この記事の担当は2年生で、千石のフリークだったはず。

記事を読み返すと、千石の凄さについて延々と書かれている。

そしてもちろん、使われているのも千石の写真。決勝のショットを決めた瞬間の顔。

 

 

いつもの軟派な顔とは全然違って、きりりとした、『勝負』をしている男の子の表情。

 

 

私の知らない千石が、そこにいる。

 

 

 

何故か、急に見ているのがイヤになって、新しい新聞に張りかえる。

 

 

「痛っ…!」

 

うっかり、画鋲を自分の指に刺してしまう。じわっ、と血が滲む。

 

錆びている画鋲だ。下手に放っておくと破傷風とかにもなりかねない。

一応大事をとって、保健室に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あららー、ずいぶんザックリやっちゃったわね〜。」

 

ほえほえしているんだけど結構天然ブラックな保健の先生は、私の指の傷口を見て

のんびりとそう言った。

 

「はい…ついぼーっとしてたら。」

「まあ、珍しい。真面目なさんがぼうっとしてるだなんて。ひょっとして、恋患い?」

 

その時ポンと頭の中に出てきたのは、先々月の新聞の写真。

 

千石の、真剣な表情だった。

 

 

「そんな事無いですッ!!」

「そんなに力いっぱい否定しなくても〜…先生は、恋愛は自由だと思うわよ?」

「だからっ、そんなんじゃないんですってば!」

 

そうなの〜、とにこにこ微笑んで、私の指に処置を施している。

ぜ、絶対誤解してるよ…。

 

 

「先生〜♪」

 

どう誤解を解こうか思案しているところへ、ご機嫌で暢気な声が外から入ってきた。

 

「あら、千石君、いらっしゃい。今日は何の用かしら?」

「先生に逢いに♪」

 

やっぱりそんな事だろうと、呆れ気味のため息をつこうとしたとき、

 

「…と言いたいトコなんだけどね、ちゃんの姿が見えたからさっ。」

「そうだったのね。そうそう、さん。千石君てば、保健室に来てはさんの話

 ばかりするのよ〜?これはよっぽど好きなのねって、いつも思うの。」

 

は…?

私の話、ばっかり?

 

「いいわね〜、若いって。先生もそんな恋愛がしたいわ。」

「やだなぁ先生、先生だってまだまだ若いじゃない。」

「やだ、千石君は口が上手いんだから。」

 

二人が話してるのは分かってるくせに、私の頭の中はパニック状態。

 

…千石は、女たらしで、そういうことだっていっぱい言ってるはず、なのに…。

 

 

 

 

どうしてこんなに胸がドキドキするんだろう…?

 

 

 

 

「はい、さん。これでOKよ。」

「え…あっ、ありがとうございます、それじゃ、私、まだ仕事があるんで、失礼します。」

 

私はまるで、逃げるように保健室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃーん、ちゃんってばー!待ってよっ。」

 

後ろから騒がしく駆けて来たのは千石。

 

「…何?アンタ部活でしょ?早く行きなよ。」

「そんな寂しいコト言わないでよ〜。」

 

千石はくるっと私の前に回りこんで、

 

「正直に聞かせて欲しいな、ちゃんの気持ち。」

「は?」

 

質問の意図は分かっているくせに、自分の口は素直に動かない。

 

心臓は今にも飛び出そうなほど高鳴ってる。

 

 

自分の気持ちも…自覚して、しまった。

 

 

 

 

「仕方がないなぁ。ま、そういう意地っ張りなところも魅力なんだけどね。」

「何言って…ッ…。」

 

 

忘れてた。

こいつがかなりのやり手だってコト。

 

 

 

 

「…好きだよ、。」

 

 

 

 

色素の薄い瞳が私を捕らえる。

 

窓辺から射し込む光に髪が照らされて、

 

 

 

 

 

 

ああ…太陽だ、と思う。

 

 

 

 

「…清純…。」

 

 

 

 

 

 

 

翌月、新聞の記事担当は私だった。

 

その見出しは、『山吹中男子テニス部健闘、都大会ベスト4入り』

記事の写真は、満面の笑みを浮かべてVサインをしている、千石の写真だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

========================================

後足掻き

うわぁ…すんばらしい駄作が出来あがった(汗)千石さん誕生日おめでとうドリです。

誕生日には触れないドリですが。(単に誕生日でネタが出なかった…げふんごふっ

えーっと、これは最初、跡部で書き始めたんですけど、スランプに陥ってほったらかしに

してたのを引っ張ってきました。結局スランプ出てないだろうって言う感じ…。

万年スランプ(ダメじゃん)…感想はBBSに頂けると喜びます。苦情も…覚悟(汗)

 2003・11・25 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送