青海波の文様をした暖簾をくぐる。

 

少し薄暗い中は、もう馴染み。

 

 

 

 

迷いもせずに奥へと進む。

 

 

 

 

その時、俺の肩にどすん、と衝撃が走った。

 

 

 

 

「遅かったじゃんよっ、孫市。」

 

肩車をするような格好で俺の上に乗っかっているのは、

 

「いいから降りろ、重いぜ。」

「ヒドォッ!!女性に優しくじゃないの、あんたの信条は!」

「お前は女と認めねー。もっと美しくて可憐なら認めるがなぁ?」

 

俺の上からすたっと着地し、胸を張って答える。

 

「美しく可憐じゃない!」

「へいへい。親父、今日も頼むぜ。」

「無視すんな〜!!孫市ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   小

    玉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは江戸の商人街。腕はあるが貧しい商人たちが何となく溜まり出して出来た場所の

おかげで、安くていいものが揃うと評判だ。

 

その中で俺が通うのはこの鉄砲鍛冶を専門に扱う店。

職人の親父が一人に、丁稚代わりの娘一人の小さな所だが、腕は確かだ。

 

「まったく、親父も何とか言わないのか?あんなんじゃ嫁の貰い手もつかんだろ?」

「まぁなぁ、ちいとがさつに育て過ぎちまったが仕方ねえ。母親が居なくて

 男親だけで育っちまった分、どうにも女らしさに欠けてねぇ。」

 

苦笑しながら、手を休めることなく親父は作業を進める。

 

「でも、いざとなったら孫市殿が側室にでも貰ってやってよ。」

「はは、もう少し色気が出たら考えてもいいけどなぁ。」

 

女らしさには欠けるが、十分魅力はある。

器量もいいし、嫁にしたいという奴は後々出てくるかもしれない。

 

「孫市、ちょいと市に付き合いなよ!どうせ銃が直らなきゃ暇だろ?」

「…仕方ない、親父の作業をはかどらせるためにもお守りに行って来るぜ。」

「はっはっは、よろしく頼むよ。」

 

江戸の町の市は京の市と比べて活気がある。

 

京の奴らに言わせれば「野蛮」なのだが、俺にとっては「生きてる」感じがする。

 

京の奴はだいたい、昔の栄光にとらわれているのが多い。

こんな、いつ何がどうひっくり返るかわからない不安定な世の中でさえ。

 

 

 

 

 

「孫市、早く早く!」

「そう急かすなよ。」

 

少し前のほうで、人込みの中から手を振る

嬉しそうな笑顔が、沈みかけていた俺の思考を上へと引き上げる。

 

「全く子供だぜ。こんなにはしゃぐだなんて。」

「ぶうっ。…でも、楽しいんだもん、しょーがないじゃん?」

 

にこっ、と笑うと顔を覗かせる八重歯。

幼さが残るが、十分惹きつけられる笑顔。

 

俺は何となく頬を掻きながら市のほうに目を向けた。

 

 

「…う〜ん。」

 

ふと気付くと、少し先の露店でが迷っている風に首を傾げていた。

 

 

その露店には美しい色の櫛や簪が所狭しと並べられていた。

その中の一つに、の視線は注がれている。

 

 

 

 

ぱっと目を引く赤地に、鮮やかな黄の菊が描かれたとんぼ玉のついた簪。

 

 

 

の濡れたような艶のある黒髪によく映えそうな簪だった。

 

?」

「え?あっ、ま、孫市。」

「それ、欲しいのか?」

「あはは、まさか!私、こんなの似合わないしさ!いこいこっ。」

 

嘘をつくのが下手くそ…。

 

 

 

 

 

 

「早く〜!!置いてっちゃうぞ〜!?」

 

 

置いてかれて大騒ぎするのはどっちだか…。

俺は笑いを隠して、小さな案内人の後ろをついていく。

 

 

 

「まったく〜、ゆっくり歩き過ぎ〜!!どうせ女の人に見とれてたんでしょ〜。」

「ああ、とっておきの別嬪さんを見つけたんでな。」

 

それを聞くと、は見るからに不機嫌な顔をして

 

「あっ、そーですかっ!」

 

長い黒髪で弧を描きながら身を翻す。

 

 

「赤き頬に、金の瞳を持つ別嬪さんだ。

 

 

 

 ただ…それ以上の別嬪さんにつけなきゃ、意味がないけどな。」

 

 

 

 

俺はの髪をくるっと捻って上げ、そこに簪を挿す。

 

「…え??」

 

当然後ろの見えないは何が何だかわからず、くるくるとその場を回る。

 

「何してんだ。」

「え、だっ、だって!!」

 

近場の商店の硝子戸に自分の後ろ姿を映し、合わせ鏡にする。

 

「…孫市、これ…今さっきの…!?」

「珍しいな。がこういうモンを欲しがるなんて。」

 

にやりと笑って見せると、には珍しくもごもご話し始める。

 

「だって…何か、凄い綺麗だったから…。お父さんが作る鉄砲玉によく似てるし、

 

 ……大きさが、丁度…孫市の銃の鉄砲玉の大きさだから…。」

 

 

相変わらず、色気のない解答…。

 

 

 

 

そうは思いながら、俺はを抱きしめずにいられなかった。

 

 

 

 

「ま、まっ、孫市、ちょっと!!恥ずかしいよ、道の往来で……!」

 

 

小さくもがくを制するように強く抱きしめる。

そのうち諦めたのか、そっと力が抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守ってやる。

この乱世の中から。

 

 

 

綺麗だと言ってくれた、この銃の弾丸で。

 

 

 

傷つけるのではなく、守ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

========================================

後足掻き

まず…。孫市ファンすみません!!(平謝り)すっごい、驚くべき書きにくさでした。

何か口調がいまいち掴めない…多分やりこんでないせい(死)もっと勉強せな…。

時代背景とか設定とかかなり無視してますね。まあ許してください(苦笑)

絶対リベンジしてやる〜…お題で。(笑)

 2004・5・3 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送