昔、お母さんが夜毎聞かせてくれた夢物語。

継母や義姉にいじめられていた灰被りの娘が、魔女の助けでお城の舞踏会へ行き

最後には王子様と結婚する話。

 

 

美しさを継母に妬まれた姫が森で小人と出会い暮らして、

継母の毒リンゴで死んだところへ王子様がやってきて、キスで目覚める話。

 

 

それは、私の望むものじゃない。

 

だって、私は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Cinderella Story

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いわよ。」

 

彼を迎えるのにもっともいい言葉。

だって、私は「待たされた」んじゃないから。

 

「すまん。…待たせたな。」

「違う!」

「…?」

 

やっぱり、彼はわかっていなかった。

だから、私はそっと告げる。

 

「違うわ。待たされたんじゃない。貴方がやっと、追い付いたのよ。」

 

 

ほんの少し。彼らしく、仏頂面を少しだけ反応させてから、微笑んだ。

その笑顔は、私にしか引き出せない。きっと。

 

「…そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼、手塚 国光と出会ったのは、私が2年で青学に編入してきた時の事だった。

 

「手塚 国光だ。よろしく。」

 

到底よろしくとも思えない隣の席の仏頂面に、私は思いきり吹き出していた。

もちろん、その日に噂は広がって、鳴り物入りの編入生となったのだけど…。

 

生徒会長、学級委員、ついでに所属するテニス部部長。

随分な信頼だなぁ、なんてぼんやり思った。

その分、負けたくないと思った。

 

 

私は昔からそうだった。

男の子に助けられるのなんて真っ平。

私は自分の事は全て自分でやりたい、って思う子供だった。

 

だからかもしれない。

昔から、物語に出てくるお姫様は好きじゃなかった。

正確に言えば、絶対自分がなりたくないと思った。

だって、美しさだけで守られるのを、助けられるのを待っているんだから。

 

 

私がもし灰被りの娘なら、その家を飛び出して別の生きる道を選んだ。

私がもし森に置き去りにされた姫なら、騙されて毒リンゴを口になんてしない。

 

 

は負けず嫌いだな。」

「負けず嫌いだなんて言ったの、手塚が初めて。みんな、お前は捻くれてる、とか

 可愛げがないっていうもの。」

「…まあ、少しは極端過ぎるかも知れんな。」

 

2年後期の生徒会選挙で、私は副会長になった。

本当は会長になりたかったのに、「女子は副会長」っていう暗黙の了解で。

その文句をつらつらと手塚に述べていた。

 

「極端!?女性蔑視よ。私はけして手塚に劣ってるなんて思ったことないもの。

 私が会長になったって、手塚以上の働きをして見せるわよ。」

「そうか…なら、現状でどこまでその力を見せられるか、やってみるといい。

 そうすれば、いつかはみな認めてくれるだろう、女子が会長でもな。」

 

 

だから、なったの。あくまで、「代理」のついた会長だけど。

貴方の居ない間、貴方の居ない分を、私は務めた。

 

目まぐるしい予定を、分刻みとは言わなくても、それぐらいのスピードでこなして。

貴方が残したものの全てを、私は踏襲して、超えてやった。

 

これで、貴方も私を認めざるを得なくなる。

 

貴方の後をついて行く、仰々しいドレスを着た姫ではなく。

白銀の鎧を身にまとう、ジャンヌ・ダルクのような女騎士となって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…模様変えをしたのか?随分広くなっているようだが。」

「全然。私が全部片付けたのよ。書類も、綺麗に整理して…パソコンも幅を取るから、

 予算に組み込んでもらって、コンパクトでサーバーの容量が多いやつに変えて。」

 

そして、「会長」の席にはきちんと、彼の名前のカード。

そう、結局、私はその席に座ることがなかった。

 

全て副会長の席に座ってした。

 

だからって、もう、彼の後ろを黙ってついて行くわけじゃない。

私が誰よりも、認めて欲しかった人物は、この人なのだから。

女だとか、そういうのを後に回して。

「私」を。「 」という人物を認めて欲しかった。

 

「どう?私を少しは認める気になったかしら?」

「…。」

 

彼は、躊躇いがちに私を呼んでから、思っても見ない行動に出た。

 

「…よく、頑張ってくれたな。」

 

包みこむ、大きくて暖かい感覚。髪を撫でる、力強くて優しい掌。

背中に回された、切なくなるくらいに淡い腕の感覚。

 

「て…づか……。」

 

いつもの私なら、振り払ったかもしれない。

だって、これじゃまるで、守られてるお姫様そのもののような…状態。

 

 

 

なのに、なのに身体が言う事を聞いてくれない。

 

 

 

もっと、その温もりに触れたいと、頭のどこかで何かが叫んでいる。

 

 

 

「……。」

 

 

 

ぎこちなく、私の名前を呼んだ彼の声が、私の何かを崩していった。

たった十数年だけど、十数年かけて築いていった私の何かを、いとも簡単に。

 

私は、彷徨っていた両手を、彼の背中に回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日からは、彼の隣を白馬で駆けて行く騎士になる。

 

それでも、今一時だけは…か弱い振りをして、お姫様になるのも、いいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

忘れていた一言を、涙声で告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

…えーっと…。微妙に書き方を忘れてる(爆)つか、手塚が…!こ、こんな事するかぁ…?

とか焦りつつ書いてしまった…。とりあえず、何かが乗り移ったという事で(ぇ)

今回はTata Youngの曲から。「Cinderella」は一番気にいった曲です。

BGMで延々かけてました。ちなみに私の好きな姫はおやゆび姫です。(どうでもいい)

あののらりくらりと流されていく生き方が何とも私らしくて好きです(笑)

 

 2004・12・19 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

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