俺の携帯が鳴る。たいした音じゃないけど寝起きには煩い。

着メロとかに興味のない俺は、クラシカルな電子音の呼び出し音。

 

「…っあー…。」

 

瞼が開かないくらいの眠気と格闘しながら、手探りで携帯を掴もうとする。

パタパタと手を動かしても、一向に音源がつかめない。

 

たしか昨日の夜、枕元で充電しておいたはず。

 

「ん…?」

 

無理やりに瞼を開け、気力で顔を上げると、

 

ストラップを持って徐々に俺の手から距離を取ろうとする奴の姿が。

 

 

 

「皐月(サツキ)ぃっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

選ぶべき運命

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『朝から元気だね〜、裕映(ユエ)クン。』

「元気じゃねーよ、ったく…だいたい緑風(ミカゼ)、お前もこんな朝早く起こすな!」

 

不機嫌全開で叫んでやっても相手は余裕。のらりくらりとかわしてしまう。

いつもの事だが寝起きに余計腹立つ態度だ。

 

『俺はもう朝食も取ったもーん。というわけで本日もお仕事頑張ろー。

 紅夜(アカヤ)を向かわせたからヨロシク。』

「あ゛!?ちょっと待て、緑風っ!」

 

制止も聞かずに勝手に言う事だけ言って切ってしまうのはいつものことだ。

 

「ねえ裕映。紅夜ってばもう下に来てるわよ。」

 

先ほど俺に酷く低レベルの悪戯を仕掛けた俺の従姉、皐月は暢気に窓の下を指差した。

 

「メシどころか着替えてもねーっつの!」

 

こうしてせっかちな早起き兄弟のおかげで、

今日も一日がものすごいスピードで回転し始めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんに悪ぅございました。うちは神社やさかい、毎朝仕事がようさんあるんよ。

 せやから早ぅ起きるんが普通なんや。」

 

女物の巫女装束に少し色素の薄い栗色の短髪。ちょっと遠目からじゃ女に見える美少年。

柔和な関西弁を使う紅夜だが、実のところ性格はめちゃくちゃブラック。

多分…いや、絶対Sだ。

 

「へーいへい…意地悪ぃの……。」

「そない人聞き悪いこと…素直に謝っとうやない。」

 

ものっ凄くにこやかな、目を細めた優しそうな笑みを浮かべる紅夜。

その笑顔が嘘くさいんだよ…。

 

 

ったく、食えない奴…。

 

 

 

 

俺の仕事というのは、超常現象的なもので、悪魔祓いやら霊払いやらをやる仕事だ。

19年生きてきて、霊感とやらは微塵もなかったんだが、とある事件をきっかけに

霊感が異常な高まりをしてしまった。

 

そのおかげで色々厄介なことが起こってしまうがために、紅夜は俺の存在に気づき

そういった仕事をすることで有り余る能力を活用するよう勧めてきた。

 

『僕の名は神護 紅夜。ここの神社で男巫女しとります。よろしゅうに。』

 

あの時、そう声をかけてきた紅夜についていってしまった俺の明暗は暗に傾いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てなわけで、食べながら聞いて。

 今回の浄の対象は厄介なんだけど、ヒトに憑依した悪霊の祓いね。」

 

俺の真正面でにこにこと笑顔を浮かべているのは神護緑風。紅夜の実の兄だ。

 

少し垂れ目がちだがすっと通った鼻梁といい、シャープな顔立ちでなかなかの美青年。

喋り方はちゃらくていい加減そうな感じでも、色々考えてる。その分底意地悪い。

 

 

…まぁ根っこの性格は良く似た兄弟だ。

 

 

一応気は使ったらしく、緑風手製の朝食を食べながら(結構旨かったりする)

今日の仕事の説明を聞く。

 

「俺が行ってもいいんだけど、ちょっと忙しくてさ〜。」

「単にめんどくさがってるだけだろ?」

「人聞き悪いなぁ〜。ちゃんとサポートには行くからさ。それまで紅夜に任せるし。

 それに、裕映クンの実力なら大丈夫だと…。」

「さっき厄介だっつったのはどの口だ?」

「やーん、揚げ足取るなんてぇ。」

 

ちょっと箸で刺してやりたい衝動に駆られながらも、ぐっと堪えて

先を促すように顎をくいっと動かした。

 

緑風は相変わらず飄々とした様子をを崩さずに詳しい説明に入った。

 

「神様にもさ、疫神とかいるでしょ?それと同じで、諸刃の剣的な諸霊がいるわけよ。

 小さな祠に祭られてたお稲荷さんとかさ〜、放置されるとやっぱ疫神になるし。

 今回の霊もそんな感じで、多分個人的に祭られてた霊が忘れられてて、

 そのうちに悪霊になっちゃって、関連の人々を呪ってるんだ。」

 

そこで緑風は一息つくと、一枚の写真を取り出した。

写真には一人の少女が微笑んで写っていた。

 

「このヒトが、今回の浄の対象となる遠野 水澄(トオノ ミスミ)さんね。

 結構可愛い子でしょ?可愛い子だとやっぱ助け甲斐あるよね〜。」

 

ワンレンの肩を撫でる程度の髪は薄い茶色で、陽に透けると輝きそうだ。

瞳はアーモンド形で少しきつめなはずなのに、長い睫が程よい紗を作って和らげている。

僅かに口角を上げて微笑む姿は、確かに女性らしく可愛らしい。

 

「でね、彼女が厄介な理由として、彼女にも多少能力があるってとこかなぁ。」

「霊関係で?」

「ん〜、どっちかって言うと神関係かな〜?彼女の家、信仰の厚い家みたいで。

 そこら辺の神社の神主以上の力を持ってるかもしれないんだ。

 まだ覚醒していない可能性は多分にある、って事。」

「つまりは、その眠れる力を悪霊が利用してるって事か?」

「ご名答。さっすが〜。」

 

にっこりと口角を上げて笑うと、緑風は玉串を持って来た。

 

「これは天鈿女(アマノウズメ)に祭られるための玉串なんだけど。

 これには隠された力を引き出す力が宿ってるんだよ。今回には必要だと思うから。」

「天鈿女…は、確か隠れた天照大御神(アマテラスオオミカミ)を天の岩戸から

 引き出したうちの一柱だったな。」

「おっ、勉強が身についててよい事ですよ、裕映クン。」

 

うざったい教師よろしくそう言って見せた緑風。

食事が終わって箸を置いた俺は返事をする事なく玉串を受け取った。

 

「ほな、僕が案内しますよって。」

 

巫女服から洋服に着替えた紅夜。「浄」の際に動きにくいのは困ると洋服を着るのだが、

巫女服の際に受ける、まるで女の子のような印象ががらりと変わって見える。

優しい顔立ちの女顔に見えるが、それなりの格好をすれば(少し年齢は下がるものの)

なかなか見目の良い少年になる。

 

「それじゃあ裕映クン、『彼』と仲良くね?お仕事がんばっていってらっしゃ〜い。」

 

気楽に手を振って見送る緑風にキッと鋭く視線を送って、

俺は紅夜の運転する車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

オリジSS、1話UPです。これは夢で見た話に色々付け加えたものの一つです。

神護兄弟が好きでナリメなど色んなトコに使ってます。それから、水澄ちゃんはまた

別の話でも出てくる女の子だったりもします(笑)寄せ集め的…?

話の分野としては自分の好きな霊的サイキック、古事記アレンジ(何だそれ)で、

バンバン古事記出していきます(笑)

 

 2007・5・8 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

  

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