偶然ってすごいと思う瞬間を、僕は体験した。 

 

 

偶然の運命。

 

横断歩道が青になる。

焦れていた人々が一斉に歩き出す中を、僕も少し早足で歩いていた。

と、誰かの肩がぶつかる。

 

「きゃあっ!」

 

僕のテニスバッグが肩から落ちる。彼女もテニスバッグを落としたらしい。

 

「すみません。大丈夫ですか?」

 

僕は謝って、人込みの中急いでテニスバックを拾う。

 

「大丈夫です、すいませんでした。」

 

テニスバッグを拾って恥ずかしそうに早口で言うと、その少女は走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「不二、遅い。」

 

僕がテニスコートに行くと、真っ先にそう言ってきたのは手塚だった。

 

「ごめん、ちょっと色々あって。で…グラウンド何周?」

「20周だ。」

 

ちゃんと理由を話しても20周は堅かったかな。乾もデータノートに書き込んでるし。

英二もそこまで笑う事ないのに…。

 

「走らされてやんのっ。」

 

からかい口調で僕の後ろから走ってきたのは、幼馴染みの。陸上部なんだけど、

よく僕らがグラウンドを走っているから、内情はよく知っている。

 

「遅れて来たから。手塚ってば容赦ないんだよね。」

 

苦笑いすると、は大仰にため息をつく。

 

「で、何でお遅れになられたんですの?」

「何その口調。」

「いいから。何したの?」

「…女の子とぶつかったんだ。」

「んまっ!それで周助ちゃんはその子に一目ボレしてずっと口説いていたと!!」

「何でそこでそうなるんだい?」

「レディーキラー周助の歴戦を見てて。」

「…あのねえ…。」

 

偶然、彼女の持っていたテニスバッグと僕のテニスバックが同じだったから、間違えて

持ってきちゃったんだ。途中で気付いたんだけど、追いかけても見つからなくて。

 

「で、諦めて部活へ行く事にしたんだ。」

「ふーん。じゃあ今日はどうするの?ラケット。」

「もう一本あるから、それは問題ないんだけど。ただ、その落とした子が誰か分からない

 から、どうしようかなって困ってるんだ。」

「そっか。ラケット持ってたってことはテニス部員でしょ?どんな制服だった?」

 

僕はしっかり見なかったけれど、うろ覚えの特徴を挙げていった。

 

「あ、わかった。それ六花中よ。六花中なら友達がテニス部員に居るから、聞いてあげる。」

「本当?助かるよ、。」

「どーいたしまして。じゃ、先行くねー。」

 

は茶化していたけど、確かに可愛い子だった。

しっかり制服を覚えていないのも、そのせいかもしれない。

もしあの子が見つかったら、もう1度逢える…と思うと、少しだけ嬉しかった。

とにかく、の一報を待たないと。

 

僕も、残りをこなすために、黙々と走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩、コレですか?」

「あ、うん。ありがとう。」

 

部室に置きっぱなしの、OGたちのラケットのうち一本を借りる。

 

「しかし、ついてませんね、先輩。ラケット間違えるなんて。」

「そうでもないのよー。その男の子ね、結構かっこよかったんだ。それに、多分あれは

 青学の人だよ。」

「うわあ。じゃあもしもう1度逢えたらラッキーですね!」

「うーん、でもまあ…ラケットが帰ってくるか謎だし。」

 

でも、出来れば逢いたいなぁ、なんて。うちの学校なんかじゃお目にかかれないような、

カッコイイ人だったし。

 

と、ポケットに入れておいた携帯がバイブをする。

発信者を見ると、

 

「あれ?ちゃん…。」

 

そう言えばちゃん、青学だっけ…とか思いつつ電話に出る。

 

「もしもし?」

≪もしもし、ちゃん?ちょっと聞きたい事があるんだけどさ。≫

「うん、何?」

ちゃん、確かテニス部だよね。でさ、テニス部の中で今日、ラケット間違えて

 持って来ちゃった子とかいる?≫

 

え?って感じで一瞬時が止まる。

それは…その…多分。

 

「それ、私…。」

≪ええっ、うそぉ!?≫

「…ホント。青学の男の子とぶつかっちゃって。」

≪なーんだ、だったら話は早いわ。いや、うちの友達でさ、そいつ。

 じゃあさ、今日部活終了後…そーだな、5時ごろ、空いてる?≫

「うん、何もないよ。」

≪なら、青春台公園に来てくれる?≫

「うん、分かった。…じゃね。」

 

ぷちっ、と電話を切ると、急に体の力が抜けて座り込んでしまった。

 

先輩?」

「へーき、へーき。」

 

ただラケットを返してもらうだけなのに、こんなにドキドキするのって、何でなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかの友達がそうだとはね。まあ、助かったけど。」

 

P.M.5:00ちょっと前。僕はと青春台公園にいた。

緊張するって言うのも変だけど、僕は不思議にそわそわしていた。

 

「でも良かったじゃない。ちゃん、可愛いでしょ?」

「どういう意味?」

「さーてね。あ、ちゃーん!!こっちこっち!」

 

向こうからテニスバックを持ってくる少女がいた。

間違いなく、彼女だった。

 

急に心臓がドキドキと早鐘を打ちはじめた。

相手には聞こえないはずなのに、僕は無意識にそれを隠そうとしていた。

 

「初めまして…じゃない…ですね。こんばんは。」

「こんばんは。」

「ぷっ、なに二人とも緊張してんのよ。ほら、ラケット交換会。」

「うん。…はい、どうぞ。」

「どうぞ…すいませんでした。」

「あ、いや、僕も間違えたから悪いんだし…。」

「いえ、でも私が…。」

「はいはいはい。もーその辺で。」

 

不毛な会話になりそうだったところをが止める。

 

「気になってるならズバッと言えば?じゃ、私、人の恋路にまで首突っ込むほど

 お節介じゃないので。じゃねー☆」

…!!」

 

困った…というのが正直なところ。

でも、こういうのもありかな、と思って僕は意を決する。

 

「…好きです。」

「えっ…?」

「一目ボレ…って言うと軽々しいかもしれないけど…。でも、さんの内面を知っても、

 絶対好きでいられる自信が…なぜかあるんだ。だから…付き合ってくれませんか?」

「……はい。」

 

 

 

僕らのラケットは今でも、同じテニスバッグ。

でももう、間違える事はない。

が、それぞれ色違いの小さなリボンを、バッグのファスナーにつけたから。

 

「お揃いだね。」

 

と嬉しそうに微笑んで言った彼女を好きになったのは、やっぱり間違いじゃなかった。

そう思う自分がいる。

 

 

 

偶然が生んだ、運命の出会い。

少し、運命に感謝してみようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

不二。ふじこ。なんか人気なので書いてみました。全く関わりない人とくっつけてみた

かったんです。誰にしようかと考えていたのに、不二に落ち着いてしまいました…。

まあ、いいんですけど。親友ちゃん大活躍の巻(汗)こうでもしないと話が…っ。

別に出させなくても良かったんですけど、そうすると不二が一人でべらべら喋る事になる

ので…そいつはいただけねーな、いただけねーよと言うわけで。(なぜか桃。)

苦情等々BBSまで……(苦笑)。

 2003・3・8 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

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