小さく漏れ聞こえてくる、音楽。
いつも無表情で聞いているが、微かに聞こえるそのリズムはかなりテンポのいいものだ。
はじまりのきょく。
「何を聞いているんだ?」
ふと気になって、そう声をかける。
少しの間があってから、彼はヘッドフォンを外した。
「聞きますか?」
小首を傾げて尋ねる様は、年よりも幼く、それなのに魅力的に見える。
「いや、いい。ただ、どんな曲を聴くのかと思っただけだ。」
「うーん…結構雑食なんで、何でも聞きますよ。気に入ったのがあれば洋楽でも。
あ、でも演歌はさすがに聴かないですけど。」
「ある意味が演歌を聴いていたら面白いな。」
そう返すと、クスクスっと楽しそうに笑いだす。
は無口で無表情だと誤解されがちだが、本来は表情豊かなのだ。
ただ、普通の人よりもそれが控えめなだけだ。
「真田先輩はどんな曲聞くんですか?」
「俺か?まぁ…そんなに聞く方じゃないからな。たまに聞くとしたらやはりテンポのいい曲だな。」
「あぁ、ボクシングする時に気合を高めるとか?」
「よくわかったな。」
「真田先輩の事なら、わかります。」
さらっ、と。
さほど意識されないまま発せられたその言葉に、ドクッと心臓が跳ねる。
真田がこんな風に心臓を高鳴らせていることなど、は知らない。
「わざと」知らないふりをしてやり過ごすから。
変に精神修行をしているようなものだが、こんなにもに参ってしまっていることを知られたくない、
男の妙なプライドがある。
別に男が好きなわけではない。周りに寄ってたかって何かにつけてきゃあきゃあ騒ぎ立てる女子は辟易するが、
街を歩いていれば可愛い子に目も行く。付き合いがなかったわけでもない。
ただ、は男女の何かを超えた…有り体に言えば、性別を超えた美しさ。
男であろうが女であろうが気にならなくなる魅力にあふれた人物なのだ。
「じゃあこれなんかいいかな。俺もこれは気に入ってるけど。」
少し俯き加減でプレイヤーをいじっていたが、ふと顔を上げる。
ヘッドフォンを片方よこして、どう?と言いたげに小首をかしげる。
真田はそれを受け取ると自分の耳に掛ける。と同時にテンポのいい曲が流れ始める。
「どうですか?」
「結構いいテンポだな。これなら練習がはかどりそうだ。」
「じゃあ、先輩にこの曲あげますよ。俺この曲ならCD持ってるんで。」
「そうか、ありがとうな。」
そう言ってから曲に意識を傾けようとすると、ほんの少しコードが揺れる。
「…?」
幾許か開いていた二人の距離がぐっと縮まる。
「嫌だったら、言ってください。」
寄り添うように座る。その鼓動まで伝わってくる距離感。
の鼓動は…真田と同じくらい早鐘を打っていた。
「…。」
「え?真田先ぱ……。」
続く言葉は遮られた。
一瞬だったのかも知れないその時が、とてつもなく長い時間のように感じられた。
「先輩…。」
「これでは、嫌とも言えないな。…悪い。」
「謝らないでください。」
日焼けしにくい性質だというの白い肌がうっすらと頬から朱を散らしたように色づく。
そして、一瞬触れ合い…離れていく。
「嫌じゃなかった…んで。」
すっかり音楽はただのBGMになってしまったが、そんなことはもはや気にならなくなっていた。
後日…
「真田先輩。またいい曲見つけたんです。聞きますか?」
「ああ。いいぞ。俺の部屋でいいか?」
「…はい。」
は嬉しそうに微笑んだ。
真田もそれにつられ、嬉しそうに微笑みかけた。
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後足掻き
今気づいた…。名前変換ないやんけ(死)し、仕方ない。思ったよりいちゃつかなかったもんだから(え)
しかしあのにぶにぶ真田さんはちょっと主人公の方から押してあげないと積極的になれんような気がする。
ボクサーだからストイックって言い訳が通じないくらいだよね。
つ、次こそ頑張る…(泣)
2009・1・24 月堂 亜泉 捧
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