なんで友人やってるんだろうとか思いつつも、

こいつから離れられません。

眼鏡の奥の優しい瞳を、知った私は。

 

 

 

離れられない、理由

 

 

 

家庭科室。忘れ物をしたからと入ってみると、妙に大きな音を立てるミキサー。

その前に含み笑いをしつつ立っているのは、見慣れた後ろ姿の乾 貞治。

2件隣の幼馴染のこいつは、ちょっと(凄く?)変わり者。

 

「何やってんの。」

「ああ、か。」

 

めちゃくちゃ渋い重低音。小さな頃のエンジェルボイスはどこに影を潜めたんだか。

 

「微妙に含み笑いしてるから怖いよ、あんた。」

 

そう言うと、きらっと眼鏡が逆光する。

こいつ、絶対逆光操ってるね。

 

「乾汁の準備。」

 

ひょいとミキサーの中を覗けば、妙に粘着質な物体。

色は…もう…人知を超えてるって言うか…。

何を混ぜたらそんな色になるんだ?自然の物で出来そうな色じゃないぞ??

 

「どうりで。ホント楽しそうに作るよねぇ。」

「…そうか?」

「私、乾汁ってどんな味なのか分からないんだけど、ソーゼツにまずいんでしょ?この間

 1年に泣きつかれたよ?いつか死んじゃうって。」

 

私は帰宅部なんだけど、最近ボランティアでテニス部のマネージャーっぽいものをしてる。

 

「飲んでみるか?試しに。」

「遠慮。舌麻痺してるんじゃないの?…もう少し味に工夫とかすればいいのに。」

「それをしたら、意味がなくなるんだよ。」

 

なんでよ?…あ、バツにならないからとか?

 

「ところで…。」

「何?」

「髪切っただろう。」

「え?」

 

確かに切りましたよ、ええ。

でもさぁ、ホントにほんのちょっとだよ?すそ揃えたくらいだし。

友達も言われるまで気付かなかったって言うくらい。

 

「よく分かったね。」

「まあ、だてに毎日見ていないからな。」

「…。」

 

こういうのって不意打ちで来られると困るんだけど。

あんたなんか好みじゃないのに。

私はもっと可愛い感じの子が好きなのに。

ほら、リョーマ君とか、あの辺り。

 

なのに、どうして?

 

こんなに…好きなんだろう?

 

 

 

 

 

 

「貞治君、どうしていつも眼鏡なの?」

 

ほんとに小さい頃。そう言った事がある。

 

「目が悪くてね、物が見えにくいんだ。」

 

その頃の貞治はまだまだ小さくて、声も甲高かった。

 

「ええっ?じゃあ、はずしたら見えなくなっちゃうの?」

「うん、ぼやけちゃって。」

「じゃあ、私も見えなくなっちゃうの?」

「大丈夫。すごく近くにいれば、見えるから。」

「じゃあ、ずっと側にいるね!!」

 

 

 

 

 

 

 

「私最近、貞治の眼鏡外したトコ、見た事ないかもしれない。」

 

そう聞いたのは、中学入学すぐの頃。

 

「そう?」

 

成長期に入った貞治は私を見下ろすぐらいだった。

 

「はずしてみてよ。」

「いいけど、驚かないようにね?」

「なんで驚くのよ。」

 

貞治は眼鏡を外すと同時に、私にキスをした。

 

「!!!」

 

混乱の中、貞治の顔を見ると。

 

どきりとするくらい、優しい顔で私を見ていて…。

 

可愛らしい『男の子』だった貞治の顔は、端正な『男の人』になっていた。

 

それ以来…不覚にも貞治に片思いしているのだ。

 

 

「…貞治のバカ。」

「この間の定期テストで、の遥か上にいた俺に対して言う台詞じゃないな。」

 

分かってます。

そうだよ、ほんとにバカなの私。

 

「バカ。」

 

もう一度、いう。

貞治に対してなのか、私に対してなのか分からなかった。

 

「口でバカと蔑んでも、なにもならないぞ。」

「なによ、貞治…。」

 

ずいっ、と目の前に出されたコップ。

中の液体は乾汁じゃなくて、だった。

 

「好きだろう?。」

 

笑う口元。

一瞬、眼鏡の奥の瞳が見える。

 

やっぱり、あの優しい瞳をしていた。

 

「ありがたくいただいておくよ。」

 

を飲みながら、ちらりと貞治の方を見やる。

またいそいそと、乾汁の改良をしているみたいだけど。

 

 

こいつは、気付いているんだろう。

1センチぐらいしか変わらない髪の変化に気付いて、

言ってもいない好みを知っているこの男が。

 

私の想いだけ、気付かないなんて変だもん。

 

 

私はをゆっくり飲んで、

むかつくけど…

大好きなやつと、一緒にいた。

 

 

 

 

 

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後足掻き

暴挙を起こした私…。告白してねえよ、どっちも!!でも、告白しない方が自然かと

思って、今回はこういう形を取りました。実は二人とも好きなんだろうなあ。ただ互い

に思いを伝える事はなく、それでも一緒にいる。秘めた恋って綺麗だと思うので。

(日本人的恋愛美学ですが。)私は思いっきりキモい乾さんが書きたい。でも、

私が書くとそんなにキモくならない…。やっぱベタベタギャグでもやりましょうか。

その前に修行じゃ…。

 2003・1・13 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

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