Heart Warmer

 

 

 

「侑士さん、侑士さん。」

 

俺の部屋をノックするのは、

 

「何や、どないしたん、ちゃん。」

 

 。今俺の下宿しているところの娘さん。

東京の女の子っちゅうんは、めっちゃきつい思っててんけど、そのイメージからは

外れる、大人しゅうて優しい子。

 

「今日の夕飯、お母さんが遅くなるから私が作るんだけど、何がいい?」

 

ここの奥さんは看護士。家を開ける事が珍しくない。

家事はだいたいをちゃんがやってしまう。というか、やらなあかんねやけど。

 

「せやなぁ…。何があるん?」

「それがね、何もないような状態だから、侑士さんに希望とって今から買い物に行こう

 かと思ってたの。」

 

ふと右手を見ると、可愛らしいピンク色の財布が握られていた。

 

「せやったんか。ほなら、俺も行くわ。一緒に行ったら食べたいもん見つかるかもしれん。」

「あ、本当?じゃあ、玄関で待ってるね。」

 

俺はドアを閉め、出かける準備を整える。とはいえ、髪を梳かすぐらいやけど。

 

 

 

 

「あ、準備できた?」

「ああ。なんや雨降りそうやし、早めにいこか。」

「うん。じゃあ、お父さん、行ってくるねー。」

 

その言葉を聞いたおじさんの声が家の奥から聞こえる。

 

「おお、気をつけて行ってこいよ。侑士君、を頼むよ−。」

「分かってますて。心配せえへんでも大丈夫や、おじさん。」

「お父さん、心配性なんだから…。」

 

二人で苦笑しながら、近所のスーパーへと足を運んだ。

 

 

「何がいいかなぁ…。今日は少し寒いし。温かいものの方がいい?」

「そやな。」

 

店内を回りながら、ついでに他の買い物もしているちゃん。

と、少しだけ身体を震わせた。

 

「ん?どないした?寒い?」

「ちょっと冷気が。」

 

生鮮食品のところは、ケースの冷気が強く、半袖では少し肌寒いらしい。

俺は寒さ暑さに強いほうやから、何ともないねんけど。

 

「大丈夫か?」

「うん、平気平気。」

「強がんなや。ほら、さぶいぼたっとうやん。」

 

ちゃんの細い、日焼けのしていない真っ白な腕に触れる。

 

「侑士さん、手暖かいんだね。」

「そうか?んー、でも、手暖かいっちゅーことは、心が冷たいんかな?よお言うやん?

 手が冷たい人は心が暖かい、て。」

「それは違うと思うけど…。私、侑士さんは優しいって思うもん。」

「何で?俺、優しないってよぉ言われるんけどな。」

「うーん…。優しさは受け取るほうが感じるものだから、侑士さんの優しさが受け止め

 られないと分からない、とか…ああ、何だかよく分からないや。」

 

言葉が見つからなくてあわあわしているちゃん。

あ〜…ほんま可愛えなぁ…こういうとこ。

ちゃんは特に美人てわけでもないけど…何ちゅーか…せや、愛嬌があるんやな。

 

「うーん。俺にもよう分からんけど。でも、ちゃんにそういってもらえるのは

 嬉しいわ。」

「そうなの?」

「もちろん。こーんな可愛え子に誉めてもらうんや、悪い気はせえへんよ。」

「ええっ!?」

 

驚いて顔を真っ赤にする。

 

「っ…くっくっ、もー、最高やちゃん。」

「かっ、からかったの!?」

「そないなつもりはないでー?」

 

よしよし、と頭一つ小さいちゃんの頭をなでると、

 

「侑士さんっ!」

 

ぺしっ、と肩を軽く叩くちゃん。

こういう感じ、何やええなぁ。とか思てしまう。

 

 

 

――アリガトウゴザイマシタ――

出入り口の機械がそう告げる。

 

「あ、小雨…。」

 

傘を差すまでもないにしろ、雨が降ってきた。

 

「ほな、走ろか?」

「そうだね、行こう、侑士さん。」

 

俺はちゃんからほとんどの荷物をもらって、走り出す。

ほんの少しの距離や、こんなん部活に比べたらむっちゃ楽。

 

 

「そういや…なあ、ちゃん?」

「何?」

 

少し弾んだ声で返事が返ってくる。

 

「前々から思ててん、何でちゃん、俺を『さん』づけやの?」

「えーと…変?」

「んー、他は普通やん、せやから目立ってまうんよ。」

「そっかぁ…でも、それで馴れちゃったから…。」

 

家が見えてきた。

俺は立ち止まって、

 

「せやったら、まあ、ええんよ。

 …自分の夫を呼ぶんにさんづけする人、おるしな。」

「侑士さん!?」

 

大きな瞳が零れそうなほど見開かれる。

その姿がまた可愛らしい。

 

俺は一歩ちゃんに近づいて、瞼にキスを落とす。

 

「!!」

「…美味しい料理、俺のために作ってくれるんやろ?

 さ、家まであと少しやし… 行くで、。」

 

 

まだ驚いているの手を引き、俺は家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

の手はもともと冷えてるほうやし、雨も降って来とうから、ますます冷たい。

 

 

 

 

せやけど、なんやろ?

 

 

 

 

 

 

この、くすぐったい…心の暖かさは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

久々に忍足を書きました。うーん…どうなんだろう??でも、主人公に「侑士さん」と

呼ばせたかった(変)。下宿はおそらくしてないんだろうなぁ…。むしろ一人暮し。

でもそうするとこの話、根底から覆る(苦笑)まあ、この忍足さんはヒロイン宅に

下宿してるという事でご勘弁ください。というか、腕が落ちたなぁ。

 2003・9・10 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

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