ひとつなぎ

 

 

「ふわぁぁ〜…。いい天気だわ〜…。」

 

少しずつ湿り気を帯びながらも、不快じゃない初夏の風。

私は教会の裏手に寝転がってそう漏らす。

瑞々しい柔らかな青葉が肌をくすぐり、暖かい日差しが全身を包み込む。

 

そんな日に、教会で荘厳なミサを聞くより、ゆっくり寝ていたほうがよっぽどいい。

こんな私が、バリバリミッション系の聖ルドルフ学院中に在籍しているって言うのが

変なんだけど。親が校名の響きだけで決めるんだもん。

 

あの親にして私あり、みたいな。

 

 

 

 

にしても、ホントにいい天気だなぁ…こういうときは、歌いたくなるんだよね。

 

 

「空を見上げ歌え…空の彼方の…かの人想い…いざ去らん…故郷の地…」

「「人繋ぎの…空を見ながら…。」」

 

同じフレーズを少し低い声が歌う。

ビックリして振り返ると、

 

「げ、観月。」

「人を見て『げ』とはなんです?失礼な人ですね。」

 

観月 はじめ。3年。

今現在この学校での首席をとっているヤツ。

成績優秀、品行方正、眉目秀麗…ってな感じの美しい四字熟語の並ぶ、

先生の覚えもめでたい優等生。

 

 

…多分、ある意味先生から覚えられてる劣等生の私が気にくわないんだろうなぁ。

 

 

ま、いい子ちゃんはこっちだって願い下げだけど。

 

 

さん。今何の時間だか分かってますよね?」

 

同級生に敬語って厭味か?

って思ってたけど最近、これがコイツの普段からの口調なんだって知った。

私はそれとは程遠いぞんざいな口調で、

 

「分かってる。ミサの時間。」

「どうして出席しないんです?ここまで来てるんですから、中に入ればいいのに。」

 

 

…余計なお世話だ。

 

 

「アンタこそ、ミサに出なくていいの?」

「僕は貴女を探すよう牧師に頼まれたんですよ。」

「あ、そ。」

 

 

私はまた寝転がって空を見上げる。

 

 

「…いい天気ですね…このごろずっとぐずついてましたから、何だか眩しいですね。」

 

観月はそう言って、教会の壁に寄り掛かって座った。

 

「…アンタ、私を連れ戻しに来たんじゃないの?」

「いえ。僕は探してこいと言われただけで、連れ戻してこいとは言われてませんから。」

 

飄々とそう言いのけた後、少し間を置く。

 

 

 

私が深呼吸をする。

 

 

 

それとほぼ同時に伸びをしながら、

 

「それに…ミサなどというものにもいい加減飽き飽きしていましたからね。」

 

私は半身を起こして、

 

「アンタって…」

「観月、です。僕はアンタという名前じゃありません。」

「…観月って、もっと信仰深いと思ってた。」

 

私がそう呟くと、観月は微笑った。

 

「神に祈って、何かを待ち続けるなんて合理的じゃありませんからね。

 僕の性に合いませんよ。」

「…ふーん、意外。」

「そうですか。」

 

 

 

 

ふと思った。

 

もし今、この状況を先生達が見たら、驚くだろうなー。

 

学年の首席である生徒と、ブラックリスト入りの劣等生が一緒にいるわけだから。

 

「そういや、アンタ…じゃない。観月さ、よくあの歌知ってたね。」

「はい?」

「さっき私が歌ってた歌。」

「あぁ…前に聞いた覚えがあったもので。」

 

「…『ひとつなぎ』って題名の曲で、凄く短いんだけどさ。気に入ってる曲の一つ。」

 

 

 

 

 

愛する人を追い求め、故郷を捨てて、行く当てない旅に出る。

 

 

でも、空がひとつなぎのものであるように、きっと空が『人繋ぎ』をしてくれる。

 

 

 

「…僕は、愚かだと思いますけどね。」

「は?」

「空が縁を繋いでくれるはずはないじゃないですか。もちろん、それは神だって。

 

 縁は自ら繋いでいくものです。」

 

 

 

そこで一拍おいて、

 

 

 

「もし空が、

 神が、

 もしくは別の何かが。

 

 

 僕の望む縁を繋いでくれるなら、僕はこんなにも辛くないはずだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が言いたいのかは分からない。

 

だけどその言葉達は、真っ直ぐ私に向かって飛んで来た。

 

 

 

 

 

 

 

拒めない強さで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「観…」

 

 

私の言葉を遮って、教会の鐘が鳴る。

 

それを合図に、入口が騒がしくなる。

 

 

「…では、僕はお先に失礼します。帰りのHRにはきちんと出席してくださいね。」

 

 

人の波に紛れていく、観月の姿。

 

 

 

 

 

 

変わらぬ景色、風。

 

 

 

 

だけど。

 

 

 

 

 

何かが違うと、もう一人の私が叫んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

降りてきたあぁっ!!やっと神さん降臨のようです。携帯でガチガチ打って前編が出来

あがりました。所要時間は40分。ありがとうファンブック!ホントに助かる。(笑)

告ってはいないですが、この1話でも十分かなーとも思ったので。もし思いついたら

続編書こうかなと。創作意欲めっちゃ沸いてます。テスト前のくせに…。

 2003・12・6 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

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