満ちた愛の行方

 

 

 

 

 

 

 

 

オールドラント、マルクト帝国領、ケテルブルク。

帝都グランコクマから北西にあるこの雪国は、今日も雪が降り積もっていた。

その街の一角、小さな家に二人は居た。

 

「っは…ぁ…ジェイド…。」

 

熱く濡れた吐息が、その薄い唇から漏れる。

 

「何ですか?ルーク。」

「も…無理…っ。」

 

緩く首を振ると、汗ばんだ肌に深紅の髪が張り付く。

 

「おや、そうですか。意外と体力がないんですね。」

「…っるせー…んっ…!」

「色気がないですねぇ。もう少し愛らしい言葉が言えないのですか?」

 

ケテルブルク知事家所有の一軒家ではあるが、殆ど使われていない為、

生活に必要と思われる家具らしい家具はベッド程度しかない。

ジェイドはケテルブルクに滞在する際、ここを利用している。

 

酷く殺風景なこの家で抱き合うのは、もう幾度目になるだろうか。

 

 

「はぁっ…おま…ホントやな性格っ。」

「そんなに褒めないで下さいよ。」

「褒めてね…っんぁ!」

 

怒鳴ろうと口を大きく開くのを見計らって、相手の嬌声を出させる。

彼は既に潤みきった瞳で睨みつけ抵抗を試みる。

 

彼が誕生してからの『七年間』、屋敷の中に軟禁され、ただただ甘やかされて育った彼。

それを劇的に変えたのは自分にも一因がある。

 

しかし。

 

「貴方も、私を変えたんですよ?」

「何…が…っ…?」

「上流階級の、外見だけ綺麗に飾ったお人形の貴方を抱く日が来るなんて、

 想像もつきませんでしたからね。」

「うっ…。悪かったなっ…。」

 

微かに抵抗する様子が失せたのを見て、私はその唇を奪う。

 

「…今は…人形ではなくなりましたからね。」

「ん…ジェイドが、優しいと…気味悪い。」

「おや、失礼な事を言いますね。私はいつだって優しいじゃないですか。」

「胡散臭い。何か裏がありそう。」

「…ほう…。」

「んぁっ…!ばっ、ちょっと待った…!」

「待ちません。」

 

思考に甘く白いヴェールをかける、相手の吐息。

まるでこのケテルブルクの雪のように、淡く、美しい。

 

雪は、嫌な事を思い出させる。

らしくもなく、神の前に跪いて祈りを捧げ、贖罪してしまいそうになる。

 

それが恐くて、ここに来るたびに彼の温もりを欲してしまうのか。

 

彼も、自分がケテルブルクに行く事が分かると、すぐにやってくる。

気遣われる事、干渉される事など好きではなかったはずなのに。

 

「っはぁ…。」

 

乱れた息を整えるように大きく呼吸をしながら、ルークは外を見つめた。

 

「…もぉ動きたくねー…。」

「今日は泊まるのではなかったですか?」

「そーなんだけどさ…明日。帰るのたりー。」

「アルビオールで迎えに来てもらえばいいではないですか。アルビオールの2号機は

 シェリダンから正式に『ファブレ子爵』へ譲渡されたのでしょう?」

「…どうも引っかかる言い方するな…。」

「すみません、根が正直なもので。」

「……これで帰ったらまた公務に拘束されるし、ジェイドだって仕事があるんだろ?」

 

遠まわしにだが、分かりやすく離れたくはないと言うルーク。

自分にはないものを、彼は持っている。

 

いつだか読んだ本に、遺伝子的にパートナーには自分に欠けているものを求め、

子孫をより優秀な血統にするとの研究が載っていた。

だから、自分にないものを見ると人は嫉妬し、または憧れや好意を持つのだと。

 

「本当に貴方は厄介ですね。」

 

そう呟けば、意味を誤解したルークが噛みついてくる。

心底ルークに参っているなどと、素直に言えないジェイドであるのに。

 

「…ま、いーや。後先考えてもどうにもなんねーし。今はのんびりする。」

「その方がいいでしょう。わざわざ普段使わない頭を使って、

 体力を消耗する事はありませんからね。」

 

また皮肉混じりのジェイドの言葉にルークは睨みつける。

けれど、ルークが怒鳴らなかったのは、その深紅の髪を長い指が優しく梳いていたから。

 

3年経って伸びていた髪をまたナイフで乱雑に切ったルークの髪を、

綺麗に切り揃え、優しく梳いたのはこの指だった。

 

「…ルーク。」

 

「……ん…―?」

 

その手の優しさにまどろみ、呼びかけに不明瞭に返事をするルークを見て、

ジェイドは小さく微笑んだ。

 

それはそれは、優しい表情で。

 

 

「貴方が居なかった3年間を思えば…少しの辛抱は出来ますよ。

 …いつか、迎えに行きますから。」

 

「んー…アルビオール…で、行くから…。」

 

 

 

蘇芳色の瞳に深紅の髪が映る。

 

 

 

 

外は深々と積もる雪。

 

 

 

白い部屋に、ただ二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛の存在など信じられない二人が、愛で満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

本当はもっと裏チックになる予定だったのですが、意外に綺麗に纏まったり(笑)

さて、この小説も曲がメインです。うふふふふ…分かる人にはわかーる。

今日のブログにでも書きますです。それにしてもジェイド、ホントに素直じゃないなぁ…。

でも、もっと気の効いた(?)皮肉が言いたいのに…。

おばかさんは皮肉屋になれないのですな。賢くなりたいよぉぉぅ…(泣)

 

 2007・8・27 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

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