Hold Out

 

 

 

部室から響く轟音。

 

「うるさい、いい加減にせえ!こんの分からずや!!」

「分からずやなのはどっちだよ!」

「お前に決まってるやろ!」

「ふざけんな、この自己中!」

「その言葉そっくりそのままお前に返したるわ!!

 もーお前なんかとやってられへんわ!!」

「こっちから願い下げだ、お前なんか!!!」

 

俺は怒りに任せ、部室を飛び出した。

 

 

 

「あー…もう、ほんま腹立つわ、岳人のあほんだら…。」

 

イライラしながらそう吐き捨てる。

 

基本、悪いのはあいつなんや。

確かに俺かて全部が全部正しいとは言えへんけど、非は確実にあっちの方が多い。

 

 

放置してあった俺のラケットを拾い上げ、ボールを壁に思いっきり打ち込む。

すごい勢いで返って来たそれを、また打ち返す。

他の部員さえ寄せつけないくらいに、殺気立っていたと思う。

バックスピンをかけて、手元に戻す。

丁度俺の目の前で止まったボールを拾い上げた時、後ろから声がかかった。

 

「ずいぶんとご機嫌ななめだね、侑士。」

 

テニスウエアを着た女子がそこに立っていた。

 

…。」

 

俺の彼女でもある、 。氷帝学園の女子テニス部に所属している。

 

「ひょっとして、あの喧嘩…聞いてたんか。」

「うーん、すごい怒鳴り声だったからね。ウチの部室にまで聞こえてたよ?」

「そか…。」

 

何となく申し訳ない気持ちと、恥ずかしい気持ちが混同して去来する。

俺が黙っていると、

 

「侑士、ちょっと中庭までいかない?」

「え、、部活はどないすんねん。」

「大丈夫、大丈夫。女子は男子ほど厳しくないから。行こう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半ばに引き摺られるような状態で中庭までやってきた俺。

 

ついこの前まで春めいていた中庭が、今ではすっかり初夏の装いを見せていた。

新緑の木々が葉を伸ばし、風が吹くたびにさざめく。

次々と芽吹く若葉が、日の光を受けて翠に輝く。

 

 

そう言えば、景色なんてここ最近、しっかり見てへんかったなぁ…。

 

 

感慨深く見ていると、が缶ジュースを持ってやってきた。

缶の表面には水滴がついている。もうそんなに気温が上がってきているのかと驚く。

 

「はい。」

「あ、金…。」

 

ごそごそとポケットを探る俺を制止させる。

 

「いいって、私のオゴリ。ここまで強引に連れてきちゃったの私だし、気にしないで。」

 

芝生に腰を下ろすと、潰れた雑草の青臭い匂いがした。

 

 

「私ってさ、ヤな女だなーってさっきしみじみ自覚しちゃった。」

「何でや?お前はこーして俺を連れ出してくれて…。」

「…そうじゃなくて。」

 

ジュースを一口飲んでから、は意を決したように話しはじめた。

 

「最近こうやって一緒にいる時間、極端に減ったでしょ?まあ、大会近いから仕方ない

 事だって分かってるんだけど…。」

「寂しかったんか?」

 

プシュッ、と小さく音を立てて缶が空く。

 

「うーん、それもあるし…。向日とさ、ずっと一緒にいるでしょ?ダブルスぺアだから。

 それも仕方ない事だって頭では分かってるんだけど、気持ちがついて行かなくてさ。

 だから今日、二人が喧嘩してるのを聞いて、ざまあみろ、なんて思っちゃって。」

 

ついつい、の顔を凝視してしまった。

 

「…ごめんね、こんな事考えちゃって。」

「何言うとんねん。…俺はめっちゃ嬉しかったで、今の言葉聞いて。」

「え?」

がほんまに俺の事思っててくれたんやなーって思うと、な。

 …いや、俺に喜ぶ資格なんかあらへんのかもな。

 いくら大会近いからて、に寂しい思いさせて。彼氏失格なんとちゃうかな…。」

「そんな…そんな事ないよ、私が勝手に苛立ってただけだし…。」

 

慌てて否定し始めるが、もうごっつ可愛くてしゃあない。

ほんまに俺、が好きやねんなぁ…。

 

「な、。手ぇ出して。」

「何で?」

「ええから。ほら。」

 

そっとの手を取る。

白く華奢で、俺の手にすっぽりおさまるくらいの小さな手。

 

、寂しなったら俺に言いや。遠慮する事なんてあらへん。お前は俺の一番大事な

 人なんや。どんなに疲れとっても、といたらそんなもん吹っ飛んでまう。

 せやからな…。」

 

そっと手の甲にキスを落とす。

 

 

「自分の手見たら、思い出してや。」

 

 

真っ赤な顔をしているが、こくんと頷く。

 

「さて、俺もう行かなな。部活途中でほっぽり出して飛び出してきたようなもんやから。

 あ、ジュースごっそーさん。」

 

俺が行こうとすると、後ろからくんっ、と腕を引っ張られた。

 

「侑士。」

「ん?何や?」

 

 

 

手の甲に、柔らかな唇の感触が伝わる。

 

 

!?」

「侑士も、寂しくなったり、辛くなったら、私の所に来てね…?」

 

その時、俺は多分すごく幸せそうに笑っていたと思う。

 

 

「ああ、わかっとる。約束や。」

 

 

さっきまでのイライラは、嘘みたいに吹っ飛んでいた。

 

この爽やかな風に吹き飛ばされたように。

 

 

 

愛しい人に見送られ、俺はすっきりした気持ちで部室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

おっしーおっしーおしおしたーり。(謎)だーもう…。話はすらすら書けるんだけどっ…。

最後が…(いつも言ってる)というか、向日と何で喧嘩したんでしょうかねぇ…。

とりあえず考えてみたものの、考え付かなかったので書きませんでした。別にCPじゃ

ないからミソについて細かく書くこともないかなっと。題名は「差し出す。」

握手などする際に差し出す事を言うそうな。(いい加減)で、あの王子様ちゅーに。

何がしたかったのかわからん突発はダメですなー…。もっと頑張ろう…。

 2003・3・23 月堂 亜泉 捧

 

 

 

  

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