カンッ、カラララ…

手から弾かれ、物凄い音を立ててラケットが飛んでいく。

 

「あっちゃー。」

「ちょっ、大丈夫!?!」

 

今現在、体育の時間。種目はテニス。

丁度打ち合いをしていた友人のが心配して、こちらへ走り寄ってくる。

 

「あはははっ、平気平気。」

 

私は微笑ってそう答える。

後ろへと飛んで行ったラケットを拾おうと振り返る。と、

 

「はい。」

「え?あ、ありがと…。」

 

後ろに立っていたのは不二 周助くん。

クラスメイトなんだけど、あんまり話したコトはない。

 

何故かというと、不二くんは女の子達に人気だから。フリークがいっぱいいるし…。

 

っていうか、がまさにそれだし、今も完全に不二くんしか目に入っていない。

…たまに他校の生徒まで不二くんに逢いに来るらしい。

だから、単なるクラスメイトの私が関わる機会なんて無いに均しいわけ。

 

さん、テニス上手いね。ひょっとしてやったことある?」

 

にっこりと優しい微笑み。

これだけ素敵ならばなるほど、女の子にもてるわけだ。

 

「え?あ、うん…ちょっとだけ、お兄ちゃんに教わったから。」

「そうだったんだ。フォームに癖が無くて、すごく綺麗だよ。」

 

その綺麗な不二くんに褒められて、照れ臭く思いながらラケットを受け取る。

 

その時、不二くんははっと目を見開いた。

 

さん、どうしたの、その手!」

「あ、大丈夫、いつものコトだから。」

 

私は、つい癖で爪を噛んでしまう。いつからかは忘れたけど。

それで勢い余って噛み切っては指から血を出してたりする…。

…さっきラケットを弾かれたのも、実はそのせいだったり。

 

「ダメだよ、ほったらかしにしちゃ。せっかく細くて綺麗な手してるんだから。」

 

困ったような…少し哀愁を帯びた、人を惹きつける表情。

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、掴まれた。

 

 

 

 

 

心を、ぎゅっと。

 

 

 

 

 

 

何も言えず立ちすくんでいると、

 

 

「おーい、不二ーっ。何してんだよぉっ!」

「あ、ごめん英二。それじゃあね。…ちゃんと、保健室に行くんだよ?」

 

駆け足で向こうへ行く不二くんの後ろ姿を何とも無く見送る。

 

「すっごいじゃん、っ!あの不二くんに話し掛けられて!羨ましい〜!

 それに心配までされてるし!」

「…うん。」

 

 

 

この時から。

不二くんを、

 

 

 

ただのクラスメイトの一人、

 

 

 

 

学校内で女の子にもててる人、

 

 

 

 

そういった意識が飛び去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IDOL + L

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不二 周助、青春学園中等部3年6組、2月29日生まれの魚座、B型。テニス部。

 身長167cm、右利きで、趣味は写真、サボテン収集。得意科目は古典で、

 好みの色はベージュ。…ざっとこんなトコかしら?」

「…感服いたしますわ、ちゃん。」

 

私は保健室でバンソウコウを指に巻きつけながらそう答える。

 

「ばかねぇ、ファンだったらそれくらい知ってて当たり前よ。」

「はあ…さいですか。」

「なによぉっ!色恋沙汰に関しては無関心のが珍しく不二くんのコト聞いてきたから、

 丹念に教えてあげようと思ったのに。」

「ああ、はいはい。アリガトね。」

「心こもってなーいっ!」

 

だって、私が知りたいのはそういううわべのコトじゃないんだもん。

あの、瞳に沈んだ悲しみの色。

それが気になってる。

 

それから…。

 

「もしかして、。不二くんに惚れたとかじゃないわよね。」

「なっ…!?」

 

私の一瞬のスキを逃さず、ずいっと私に攻め寄る。

 

「あら、アヤシイ。その動揺の仕方。さあ、正直に言ったほうが楽よ?」

「お、怒らない?」

「怒らないわよ。さっさと言わないと怒るけど。」

「…わかんないのよ。」

「は?」

「分からないの。彼が好きなのかどうか。」

「アンタの気持ちでしょ、アンタがわかんなくてどうすんのよ。」

「うん、そうなんだけどさ…。」

 

何だか、私の見ている不二くんは、本当の不二くんなのかどうか自信が持てない。

みんなの偏見(と言ったらなんだけど)とかに左右されて見ていないだろうか。

だから、はっきり不二くんが好き、と言えない。

 

「はあ…小難しい事考えてるわね、あんたらしく。」

「小難しい事って…。」

「そんな事だから、こんな指になっちゃうんでしょ。ほら、こっちの手も出して。」

 

私は文句を言いたいのを我慢して頬を膨らませつつ、に指を突き出した。

 

 

でも、気になってしまうんだもの。

彼に張りついた、ペルソナ・スマイル…。

 

 

 

 

何が彼を、そうさせているのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。」

「ボーっとしてると危ないよ?」

「え……ひゃあっ!!」

 

目の前には階段。

もう少し声をかけられるのが遅かったら落ちていたと思うと、ぞっとする。

 

「大丈夫?さん。」

 

不二くんだった。彼は相変わらずの笑顔で、そう声をかけた。

 

「うん、大丈夫…。」

「大丈夫そうには見えないんだけどね?」

「え、そんな事無いんだけど…。」

「…少し、屋上まで付き合ってもらえるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不二くんに誘われてやってきた屋上。

風は微風。暑くも寒くもない、すごしやすい空気。

 

 

「ごめんね、突然こんなところへ連れてきちゃって。」

「ううん。気にしないで。…でも、どうして私をここへ?」

 

尋ねると不二くんは一瞬言葉を飲み込んでから、

 

「うん…何となく、さんなら受け入れてくれるかなって、そんな予感がしたんだ。」

「…。」

 

給水塔の壁に並んで寄りかかって、空を見る。

 

「アイドル…って英単語のつづり、分かる?」

「え?うん…I・D・O・L…だよね。」

「そう。でも、僕にはもう一つ『L』がつく。」

 

I・D・O・L・L…?

あ…。

 

 

人形。

 

 

 

 

―――――― I DOLL  ―――――

 

 

 

 

 

 

「人形は、笑った人形なら、笑んだ顔以外に出来ない。どんな感情を内に秘めててもね。

 アイドルは、LIKEの『L』を着せられる度、人形になる。」

 

 

だから…。

 

だから、あんなに哀しい色が、瞳に沈んでいたんだ。

 

だから、ずっとペルソナ・スマイルを浮かべていたんだ。

 

 

 

「じゃあ、不二くん。私が、その『L』を貰っちゃ…ダメかな?」

 

私の提案に驚いた様子を見せる不二くん。それは、本当の彼の表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見て見て、だいぶ爪が伸びてきたでしょう?」

「うん、本当だ。約束、ちゃんと守ってるね。」

「…うん。」

「フフ…照れなくてもいいのに。…相変わらず、綺麗な手だよ。」

 

不二くんは私の手を取って、指先にそっとキスを落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…好きだよ、…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

ひゃっほーい、駄文だぁ〜。(壊)すいません、ホント。不二には珍しく難産でした。

書ききっちゃった感があるのかな、自分の中に(苦笑)。えっと、今回書きたかったのは

「IDOLL」の部分です。ある小説に書いてあったのが印象的で、使いたかったんです。

あ、ちなみに、「IDOL」でも、「偶像」という意味があります。つか、不二様は

手フェチなんですね(ファンブックより)S&T2軽やかに無視だね!統一してくれ…。

 2004・1・22 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

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