「…本日の書類はこちらにて終わりです。

 以後の公務は晩餐にてルルノイエ貴族との会談が予定されております。」

「分かった。では、晩餐になったら呼んでくれ。私は自室に戻る。」

 

公務と公務の間の一時。最近は自由な時間が本当に限られていた。

戦争のさなかでも当然内政は執らなくてはならない。

むしろ、戦にかかる費用や徴兵の程度など、余計に内政は手がかかってしまう。

 

「…ふぅ…。」

 

自然と重いため息をついてしまう。

 

気分転換のはずが、また考え込んでしまっている。

何気なく、視線をふっと外に向ける。

 

「あ…。」

 

美しい庭園が、夕日に照らされている。

そこには一人の庭師がいた。

 

「…ようやく咲いてくれましたね…。」

 

ルルノイエの庭師は代々女性が務めている。

城塞都市であるルルノイエは、全体的に機能的である為無機質な印象がある。

それを和らげ、少しでも安らげるように庭には贅を凝らしている。

癒される庭作りには女性の繊細な感性がよいだろうという理由だ。

 

「あら…貴方は少し元気がないわね…少し水捌けが悪いのかしら。」

 

今の庭師は、代々の庭師の中でも最年少。僕と同じ年だというのだから驚く。

彼女の作る庭はシンプルながら美しい、素晴らしいものだ。

 

毎日植物に声をかけ、必要な世話をこまめにしていく。

本当に植物が好きなのだと分かる、生き生きした表情。

 

 

「…!」

 

僕の視線に気付いたのか、彼女は会釈をする。

庭師の服装は無論汚れてもいいような質素なものだ。

 

僕と同じ年くらいなら、もっと美しい服や宝石、化粧で身を飾ることに

余念がないのが普通だが、彼女は自分が着飾る事に興味がないのだろう。

 

しかし内面から滲み出る優しさなのだろうか。

 

 

 

 

彼女はとても美しく、輝いていた。

 

 

 

 

僕が相変わらず庭を見ていると、彼女は僕が花を気に入ったと思ったのだろうか。

 

美しく咲き誇る百合を一輪、手折って僕のいる窓辺に持ってきた。

 

 

「これを、僕に?」

「はい。少しでも…皇王様のお心をお慰め出来れば。」

 

きちんと例に従い、僕が話し掛けるまで話し掛ける事がなかった彼女は、

そんな風に微笑みながら花を手渡し、また庭仕事へと戻っていった。

 

僕はしばらくしてやってきた女官に、こう告げた。

 

 

 

 

 

 

「誰か。…この百合を私の寝室へ活けるように。

 

 

 大切な贈り物だ…丁重に扱え。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

ドリにしてもいい感じの作りですが、あえてSSにしました。結局。

ジョウイドリは経験上、長くなってしまう傾向にあるがゆえ…なのですがね(汗)

そして、月堂のこだわりの『百合』がここでも出てまいります。

月堂のジョウイのイメージが既に百合で固定されてしまっているので仕方ないです(オイ)

 

 2007・6・10 改  月堂 亜泉 捧

 

 

 

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