「ルーク!」

 

背後から忍び寄っていた魔物が、紅に向けて飛び掛かる。

刹那鋭い声が飛び、雷光が魔物の身体を貫いた。

 

「わ、悪い、ジェイド…。」

「全くです。貴方ももう戦いに関しては素人とは言えないでしょう。

 目の前の敵を見据えながらも周りに意識を飛ばして頂きたいものです。」

「ははは、旦那は相変わらずルークにキツイな〜。」

 

ジェイドの淡々と発せられる説教に、ガイが苦笑しながらそう感想を漏らす。

 

「大佐、私たちがフォローに回れなかったのも確かなのだから、

 ルークだけをそう責めるのは良くないわ。」

 

ティアが戦闘体制を解除しながら少し批判的な口調で助け舟を出す。

隣にいたアニスも同様に元のサイズへ戻したトクナガを背負いながら

 

「大佐ぁ、何か珍しく不機嫌なんですねー。」

「あら、そうなんですの?でも確かに普段の物言いとは、少し違いますわね。」

 

ナタリアが首を傾げながらも納得したように双方の顔を見遣る。

 

「嫌ですね、私は至っていつも通りですよ。さ、早く街へ戻りましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確固たる虚ろに愛を注げ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに、ジェイドは不機嫌だった。

 

 

 

苛立っているというのが1番適しているだろうか。

それは、ルークが背後の敵に気付かなかったという事象のせいではない。

 

「…彼はまだ、何も分かってなどいない…。」

 

街の宿に戻って一人ごちてから、ジェイドはルークの部屋へと歩を進める。

 

「…ルーク、少しよろしいですか?」

「ジェイド…鍵は開いてるよ。」

 

先程の事がまだ尾を引いているのだろう、揺れた声で入室を促す。

 

「失礼しますよ。…おや、日記を書いていたのですか?」

「あぁ、うん…本当はもう日記なんて書かなくてもいいんだけど…

 七年も書き続けてるからさ。」

 

人の日記を見るなど悪趣味だと思ってはいるが、

彼は自分の事を日記にどう書いているのだろうかとふと気になる。

 

「何故、もう書かなくていいんです?」

「だって…元々は、また記憶喪失になっても思い出しやすいようにって書いてたんだぜ?

 …俺には記憶なんてない複製(レプリカ)なのに。」

 

その言葉を聞いたジェイドは、心の中がすぅっと一気に冷えた。

 

彼は造られた存在…複製(レプリカ)である事を知ってから、自らを変えようと努力して来た。

傲慢で、世間知らずで、我が儘で、まさに典型的なお坊ちゃんだった彼は、

犯してしまった過ちを二度と繰り返さぬよう、深く心に刻み過ぎたが故に

少しばかり卑屈になりすぎている。

 

「…また貴方はそんな風に逃げるのですか。」

「逃げるって…何の話だよ…ジェイド…。」

 

ジェイドの冷ややかさを帯びた紅玉が、ルークの紅蓮を映す。

 

「貴方は自分が複製(レプリカ)だから…暗に、居てはいけない存在なのだと…すぐ口にする。」

「だって…。」

 

珍しく真剣な表情をして、ジェイドはルークの座る椅子の背もたれに手をかけ、

覗き込むように相手を見つめる。

 

「それは、私を責めているのですか?」

「!?…そ、そんな事っ…ん!」

 

その先の言葉は紡ぐ前に乱暴に食いちぎられる。

 

 

ルークの唇から僅かに血が滲んだ。

 

 

 

複製(レプリカ)だから、生まれなければよかった。多くを望んではならない、だなんて…

 全ては自分が複製(レプリカ)であるが故に…私がフォミクリー技術を生んだが故に、

 貴方が苦しむと…私が犯した罪を貴方が背負っていると、そう言いたいのですか?」

 

らしくない言葉を、

らしくない調子で言っている。

 

頭の片隅では冷静なのに、口は勝手に言葉を発していく。

 

「ジェイド…。」

 

微かに震えている、泣きそうな弱々しい声でルークが名を呼ぶ。

 

「…すみません。つい苛立って勝手なことを喋っていました。

 でも、この苛立ちは貴方のせいなのは確かですよ。」

「ぅ…ご、ごめん…。」

 

彼が見かけよりも遥かに幼いのは、彼の精神年齢が幼いのではなく、

実際に生きている年数が七年しかないのだ。

 

その事実を知っているのに、苛立ち、腹を立ててしまったのは自分だ。

 

「…私が謝ってほしいこととは違いますが、まぁいいでしょう。」

「ジェイド?」

 

小首を傾げ不思議そうな表情を向けるルークに、彼特有の食えない笑みを浮かべる。

 

「貴方の唇で代償にしますから。」

「くっ…くち……っ!ジェイド、お前何を言ってるんだよっ!」

「おや、照れてるんですか?ルーク。」

「っ、な、訳…っ。」

 

真っ赤に顔を上気させながらも、意地を張っている、その「歳相応」の幼い反応が新鮮で、

心惹かれてしまっているだなんて。

 

(本当に、年甲斐もないですね…私も。)

 

微かな苦笑を、眼鏡の位置を直す動作で隠しつつ、改めてルークの顔を見つめる。

彼の咲き初めの薔薇色をした薄い唇に、蘇芳色の血が凝っているのを見て取り、

ジェイドはそっと唇を合わせ舌を這わせる。

 

「んっ…んー…!」

 

血を舐めとっても尚舌が這う掻痒感に、ルークは小さく抵抗する。

ジェイドはあっさりとルークを解放するが、紅の瞳に燻らせたものは消えない。

 

「やれやれ、キスだけでこうでは、いつまで経っても進歩がなさそうですね。」

「しっ…仕方ないだろ…。」

「いつか貴方の方から誘って来てくれるのを楽しみにしていましょう。

 ただ…出来れば早めにお願いしますよ?もう私も年ですから、ね。」

 

よくいうぜ、と小さく発した相手の呟きは聞かなかった事にして、

あやすように相手を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォミクリーという忌まわしき技術を生み出したのはまごう事なく自分だ。

 

 

 

フォミクリー技術さえなければ、今回の事も起こらなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

でも、

 

 

 

 

それでも。

 

 

 

 

 

 

(貴方が傍にいないなんて…もう考えられない。)

 

戸惑いながらもそっと背に手を回してくる相手がいじらしい。

こんなにも暖かくて、ほのかに甘い香りのする相手を失うなど、堪えられそうにない。

 

(貴方は「貴方」として生きてください…。私は、「貴方」が必要なんですからね。)

 

本人には絶対に聞かせることのない言葉を心の中で告げ、

 

 

ジェイドはルークの髪をそっと撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

========================================

後足掻き

アビスCPを漁っててやっぱり好きなのは大佐×複製でした。

7歳児にめろめろの35歳(笑)多分、誰よりも繊細な心を持っているのは大佐なので、

ルークがレプリカな自分を責めると一緒に苦しんでるんだと思います。とか勝手な想像。

しかし声がよく知っている人々なので、文が声変換される…(笑)

 

 2007・8・5  月堂 亜泉 捧

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送