「く…っ…不覚っ…」

 

目の前がぼやけ、音が遠くなる。

 

(しかし…これで死ねば、ようやく楽に…)

 

そう頭の隅でぼんやりと考えた直後、一気にブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影の出来る場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だか不思議な温もりがある。

ホワホワというか…いや、モフモフした感じの。

 

(何だ…?)

 

薄く目を見開くと、目の前には毛むくじゃらの丸い物体がいた。

 

「あっ、目が覚めたキュ!ピッポ、ポッポ、ジェイに知らせるキュ!」

「分かったキュ!」

 

小さな手を目一杯動かし自信満々に胸を叩いて、転がるように部屋を出ていく。

 

どうやら、ラッコのような生き物らしい。

 

そういえば遺跡船にはモフモフ族という獣族がいると情報を得ていた。

生で見てみると、つぶらな黒い瞳と丸い身体が愛らしい。

 

「…何なんだ、一体…」

 

貝の形を模したらしい家の窓からは、先程と同じようなラッコたちが沢山いるのが見える。

どうやら、自分はモフモフ族の集落へと運ばれたらしい。

そして、傷には丁寧に処置も施してあった。

 

「あの手で、処置を施したのか…?」

 

些か疑問だが、そこは問題ではない。

手を握り開きし、自分の身体が普段通り動くか確認する。

 

(…よし…これくらいならいける…)

 

そう思い、部屋を抜け出そうとしたその時。

 

「どちらへ行かれるんですか?」

 

少年の声がし、自分の行く手を遮る。

 

少年の顔には見覚えがあった。

以前にも傷を負い、助けられた時に灯台の街にいたあの少年だ。

この処置を少年がしたというなら納得だ。

 

「…二度も、手間をかけたな。」

「構いませんよ。…それに助けたいと強く願ったのはポッポ達ですから。」

「…あのモフモフ族か。では、礼をしてから出ていかなければな。」

「…おそらく、引き止めると思いますよ。」

「…何故だ?」

「モフモフ族は仲間意識が強い半面、一度村に入れたものに対して

 すぐ仲間意識を持つんです。」

 

即ち、外部の者を殆ど受け入れないが、

例外的に村に入ったものは「仲間」とされるわけである。

 

(厄介だな…)

 

自分は抜け忍。いつ追っ手が来るかもわからない。

非情なる忍び達は、私を殺す為ならモフモフ族達も容赦なく切り捨てるだろう。

 

わかっているからこそ、あの時この少年らから離れたと言うのに。

 

「何故に…私に構う。其方は忍であろう。私が其方らから離れる理由も分かろうに。」

「…僕は亜流ですから、掟に縛られすぎることはなかったですよ。」

 

どうぞ、と椅子にかけるよう促され、やむなく座る

 

「…それにしても、抜け忍が命を狙われると知っていながら、

 何故貴女は抜けたのですか?」

「狭い世界が…窮屈だった…ただそれだけだ。」

 

 

私が抜け忍になった理由。

 

この手で、母を討ったからだった。

 

 

母は夫を亡くしながらも、くのいちとして任を続けていた。

ある日、夫の面影のある里の外の男と出会い、惹かれてしまった。

 

そして里を抜けた。

 

優秀なくのいちだったため追撃を幾度もかわし逃げていた母に、最後に送られた刺客は、

 

 

 

 

 

 

実の娘である自分だった。

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう』

 

母の血に染まる私の手を握り、最期に母は言った。

優しい母の、幼い頃によく見た笑顔だった。

 

 

「それなりの深い事情があるとは察しますよ。だからこそ、僕が手を打ちましょう。」

「何…?」

「忍びはその名の通り、陽の元に晒されるのを何よりもタブーとします。

 それを逆手に取り、貴女の里を明らかにし、解散させましょう。」

 

そう言うと少年は立ち上がり、先程のモフモフ族に話し掛けている

 

「…命を奪うわけではないという事か?」

「えぇ。いくらなんでも里の全員を相手にするのは大変ですし…。

 貴女も、里に残した大切な人もいるでしょうから。」

 

少年は階段へ向かうが、下りる手前で踵を返し

 

「また逃げようなんて思わないでくださいね?

 貴女がここにいなければ作戦が失敗しますから。」

 

 

しゃら、と鳴った鈴の音が彼に着いていく。

そういえば、お互い名さえ知らない。

 

なのに何故、私は大人しくここにいるのだろう。

 

あんなにも、生きていることに失望し…もう死のうと思っていたのに。

 

まだ、生きる事にしがみついている…。

 

 

彼が無事帰ってきたら、彼に自分の名前を教えよう。

 

 

そうしたら、何かが変わる様な気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

早く名前教えろやな回ですが、本当に申し訳ない(平謝)

ジェージェーが妙に優しいんですが、そこはドリなのでご勘弁願いたいかと(オイ)

この後どういう展開を見せるのかが謎ですね。ヒロインちゃんは固い人ですし。

うーん。まぁ王道(?)突っ走る感じで参りましょうか。ええ。

 2007・8・6 月堂 亜泉 捧

 

 

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