「甘いですよっ!」

 

僕の放ったクナイが敵に命中し、魔物は霧散した。

 

「さすがジェイだな。」

 

魔物の気配が消えた事を確認して、皆が警戒体制を解く。

セネルさんはにこっと笑み、僕にそう話し掛けてくる。

 

「これくらい、モーゼスさんにも出来ますよ。」

「ジェー坊、そりゃどういう意味かのぅ?」

「そのままの意味です。嫌ですね、一度で理解しない人は。」

 

僕が肩を竦めて言うと、

 

「しょーがないよ、モーすけだもん。」

「やかましいわ、シャボン娘ェ!ワレも喧嘩売っとんのかい!」

「ノーマ。シャンドルもそのくらいにしておけ。」

 

今度はノーマさんと言い合いを始めたのを見て、クロエさんが小さく窘める。

 

「何だか皆楽しそうね〜。お姉さんも、混ぜてほしいわ〜。」

「グリューネさん…。」

 

相変わらずトンチンカンな発言のグリューネさんに、シャーリィさんも戸惑い気味だ。

 

「とにかく、補給も兼ねて一旦街に戻るぞ。」

 

ため息で呆れ具合が分かるウィルさんが一先ずこの場をまとめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影の出来る場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺跡船の中にはダクトと呼ばれる装置が各所に点在している。

ダクト間で離れた場所を安全に行き来出来るため、広く使われている。

その原理は明確には判明していないが、元創王国時代からあったらしく、

最近の仮説は、「滄我」の力という事だ。

 

僕らは、灯台の街ウェルテスに向かう為、ダクトに入った。

 

 

「いつもながらに、ダクトって便利よねぇ…。でも、出来たらもっと増やしてほしいわ〜。」

 

ダクトから出たノーマさんが伸びをしながら言う。

 

「何故増やす必要があるんだ?」

「だって、そうしたらお宝探しもちょいちょいって楽になるじゃん。」

 

それを聞いたウィルさんとクロエさんがほぼ同時に頭を抱え、

ため息をつきながら頭を振って見せた。

 

「…ノーマ、肝心な所を見落としてるぞ。」

「へ?」

「ダクトが設置されるとなれば、周辺をくまなく調査するだろうな。

 爪術を使えない人も利用するものだ。何か危険や不都合があっては困るからな。

 つまり、お宝はあったとしてもその時に回収されてしまう。」

「あ、そっか…。」

「クカカ!頭の中は金の事ばっかりじゃから、そうなるんじゃ。」

「頭の中に何も入ってないモーゼスさんに言われるようではノーマさんも終わりですね。」

 

「何じゃと!?」「何だとー!?」

 

その時、ふと会話を遮るように、シャーリィさんが声をあげる

 

「皆さん、見てください、あれ!」

 

彼女が指を指す方向には点々と血の跡があった。

そして、その先には倒れている数人の人。

 

「おいっ、大丈夫か!?」

「…ダメだ、もう冷たくなっている。」

「こっちもだ。…心臓を一突き…ある意味、見事なものだ。」

 

その手際のよさ…まさか、と嫌な予感が過ぎる。

 

「おい、こっち来てみぃ、まだこの人は息しとる!」

 

モーゼスさんの声に皆が集まる。

たしかに、微かではあるが胸元が上下している。

クロエさんが近寄り、様子を確認する。

 

「気絶しているようだ…。」

「シャーリィ、手伝ってくれ。ブレスをかける。」

「あっ、はいっ!」

 

ウィルさんとシャーリーさんの爪が輝き、柔らかな光が倒れている人物に降り注ぐ。

 

「…一応、外傷は治したが…。」

「とりあえず、宿屋に運んで休ませましょう。」

「そうだな。」

 

倒れていた人物は女性で、モーゼスさん一人で軽々と抱き上げられた。

そのままの足で、僕たちは宿屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…様子はどうなんだ?」

「傷は治ってますからあとは本人の力だけです。」

「…様子を見に行こう。」

 

セネルさんの一言に皆が頷く。

僕も、彼女には興味があった。

服装が正式なものではないが、忍者の服装によく似ていたからだ。

 

「それにしても、彼女は何者なんだ?」

「賊に襲撃されたのかも知れんな。」

「賊…。」

「クー、どったの?」

「あ、い、いや、何でもない。」

「あっ、目が覚めるよ!」

 

ノーマさんが声をあげると寝ていた彼女の瞳がゆっくり見開かれる。

 

「大丈夫かしら〜?お名前分かる〜?」

 

グリューネさんが首を傾げながら、相手の顔を覗き込む。

すると、彼女は今起きたとは思えない身のこなしで構えた。

そして、鋭く抑揚のない声で威嚇するように一言、

 

「…此処は何処だ。」

「ここは灯台の街ウェルテスだ。君は一体何者だ?」

「…私は…影。…助けてくれたことに関しては礼を言う。だが、これ以上私に関わるな。」

「カゲ…さん?」

 

冷ややかな、感情の起伏を感じさせない様子。

僕の予感は、どうやら当たったらしい。

 

「…どなたの依頼で、何の為に遺跡船に来たのですか?」

「ジェージェー?」

「影というのは名ではなく…忍者の別称です。」

 

僕の言葉を聞くなり、彼女は僕に向けて鋭い殺気を放ち、瞬時に目の前にやって来た。

 

「何!?」

「い、いつの間に!?」

「…見知らぬ忍だが、私を追うために他の里から雇ったのか?」

「あぁ…そういう事ですか…つまり、貴方は抜け忍というわけですね」

 

僕の話についていけない皆さんの視線が、僕に注がれる。

 

「忍者というのは、諜報力と暗殺術に長けた人物です…。

 大体の忍者は里と呼ばれる独立した土地で、一人の頭領に支配されます。

 そして、独自の掟が厳格に守られ、掟を守る為には時に命も対価になります。

 もし、その掟に反したものや離反したものは『抜け忍』として命を狙われます。」

「…其方も忍か?」

「…えぇ、一応は。亜流ですが。」

 

それを聞くと彼女は殺気を消し、ふぅとため息をついた

 

「だが、其れならばより此処に留まる訳には行かぬ。

 …其方らも見たであろう。私が殺した忍たちを。

 里から次々と私を消すための刺客が送られるのだ。」

 

さらりと語られた事に、皆が沈黙する。

忍では当然の事が、普通の人達にとっては常識ではない。

そんな中、ウィルさんが重い口を開いた。

 

「それはどうにかならんのか?」

「里の事が少しでも知られるだけで、仕事に支障が出る。私が死ぬ事でそれは終わるのだ。」

「しかし、関わってしまった以上、見過ごすわけに行かないだろう。」

「…今のうちなら大丈夫だ…私はもう行く。」

 

そう言うと、彼女は窓からひらりと姿を消してしまった。

 

それ以来、しばらく彼女は僕らの前に現れる事はなかったけれど。

 

僕にとってはとても、印象的な出来事だった。

まだ名も知らない、彼女の事が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

名前変換もなけりゃ、ヒロインは去ってくわ、恋愛発展要素1%以下だわ…。

酷いですね!(嘘クサイ爽やかな笑い)最初はSSにしようと思ってたはずなのになぁ…。

最初にジェージェーに話しかけるのがセネセネなのは月堂の趣味(爆)

つか、忍者に対しての記述が多いのはひとえに好きだからに尽きます。

だってワンダーBOYじゃんよ…!(暴走始まりましたので逃げてください)

 

 2007・8・1 月堂 亜泉 捧

 

 

 

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