微粒子

 

 

うららかな、暖かい風そよぐ春。

でも、私にその暖かさを楽しむ余裕なんてない。

いや…ホントにマジで。

 

「へっくしょんっ!!…っだぁー…苦しっ。」

 

私は去年から花粉症に冒されてしまっています。

くしゃみは出るわ、目は痒いわで…辛い…。

 

「ホントに酷いよねぇ、。大丈夫?」

「大丈夫じゃないよぅ!!本当に苦しいんだから!!」

 

こういう時、平然としていられるのが羨ましい。

 

も一度かかってみなさい!この辛さを味わえ〜〜〜…。」

「イヤよ。ま、頑張ってね〜。」

 

ひらひらと手を振って、帰宅部のはさっさと帰ってゆく。

 

「うわーん、薄情者ぉー!!」」

 

なった人にしかこの辛さは分からないのよね…。

はぁぁ…。

 

至極重いため息をついて、私は部活へと向かった。

部活と言っても、男子テニス部とは違って、氷帝学園女子テニス部は幽霊部員が多い。

だから最近、やる気のある人は男子テニス部に混じって練習をさせてもらっている。

 

 

まずはボール運びをする。たくさん入っているから結構重い。

 

「は…はっ…。」

 

ヤバッ…くしゃみが出る…。

ダメだ、両手が塞がってるから…。

 

「おい、……。」

「はっくしょん!」

 

ゴトン!ガダダッ…ゴロゴロゴロ………。

 

「いたたた……。」

「お、忍足…。」

 

思わず落とした籠の中のボールが、こちらへやってきた忍足に見事命中。

 

「何やっとんねん…お前。」

「ごめん忍足。悪意も敵意も善意もない。」

「これで善意やったら怒るわ。」

 

文句言いながらも一緒に片付けてくれる忍足。

 

「あ…なんかまたくしゃみ出そう。」

「なんや、花粉症か?」

 

ボールを拾う手を止めて、こちらをひょいと見上げる忍足。

ちょっとだけ心臓の音が大きくなったのは、気のせい気のせい…。

 

「んー、そうなんだ。もう辛くって辛くって。」

「うんうん、分かるわ。」

「あれ、忍足も花粉症なんだ?」

「せや。眼鏡に黄色い花粉がついててん。もーそれ見るだけでくしゃみ出そうや。

 おかげで毎年春は憂鬱やで。」

「にしては忍足、あんまり症状出てないじゃない。」

 

くしゃみも、鼻水も、目を掻くことだってしてないよ?

私が尋ねると、忍足は笑って、「これこれ」をポケットの中から何かを取り出した。

 

「飴?」

「単なる飴とちゃうで。花粉症に効くっちゅーウワサの飴や。俺は体質に合うとんのか

 結構効いてんねん。」

「へー。」

 

見かけは全然普通の飴なんだけどね。こんなので効くんだ。

 

「よかったらそれ、やるで。」

「ホント?」

「ああ。舐めてみ?口に合わへんかもしれんし。」

「うん。」

 

包みをはがして、飴を口に放り込む。

 

「…。」

「どや?」

「……辛ぁーーーーっ!!」

 

何コレ!?なんか舌がジンジンするぅー!!

ミントみたいにすーっとはするけどっ…。

 

「やっぱあかんかったか。」

 

ちょっとだけ楽しそうに聞こえる。でも反論なんか出来る状態じゃない。

 

「忍足っ、何、コレぇっ…。」

「ワサビ成分の入った飴。ワサビのなんとかっちゅー成分がアレルギー反応物質を別の

 物質に変える働きがあんねんて。甘党のにはキツすぎたか。」

「キツイも何もっ…あーもう限界っ。」

 

飴を吐き出そうとしたその時。

 

「ちょお待て。」

「何………。」

 

 

 

 

ジンジン痺れている私の舌。

 

 

そこへ忍び込んで、飴を掻っ攫ってゆく舌。

 

 

 

 

 

すっと、名残惜しげに去る感覚。

 

 

 

 

 

少しだけ霞みがかった甘い感触を、唇に残して。

 

 

 

 

 

 

「勿体無い事しぃなや、。」

「なっ、何すんの…忍足…。」

 

パニックでそれだけしか喋れない私。

忍足は眼鏡の奥の切れ長な瞳を細めて、

 

「すっきりしたやろ?」

「う…あ…えと…。」

「くっ…なんちゅう顔しとんねん。ほら、練習行くで。」

 

確かに、鼻のムズムズ感も、目の痒みも治まったけど。

心臓は、ドキドキいったまま全然治まってくれなくて。

 

「お…忍足…。」

「何や?」

「あの…さ、その…。」

「ん?キスならいつでもしたったるで。して欲しいんか?」

「そうじゃなくって!」

 

飄々として、人を食ったような性格っていうのは分かってた。

でも…こういう時だけはちゃんと話を聞いて欲しいもんなのに。

 

「…忍足…。」

「うん。」

「…その…えっと…。」

 

なかなか言葉が出てこなくって困ってる私を見て、忍足は。

 

「安心しいや。遊びなんかでキスなんかせえへん。俺はが好きやから、キスした。

 まあ、ちょお強引やったって言えばそうやけどな。でもな、が好きな気持ちは

 ほんまもんや。…好きやで、。」

 

なんて察しがいいんでしょう。彼は。

私は嬉しくて、ますます言葉が出なくなっちゃったけど、なんとかこれだけは

伝えなくちゃって思って、無理矢理声を絞り出して、

 

「私も……忍足が…………好き。」

「その言葉だけで十分や。。」

 

優しく、そっと抱きしめてくれる忍足。

ジンジン痺れる舌も、いつのまにか和らいでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆エピローグ☆

「ねえ、あのワサビの飴ってホントに効くの?私もう鼻がグズグズ言ってるんだけど。」

「即効性はあんねんけど長続きはせえへんな。せやから俺、鼻炎用の薬飲んでる。」

「…それってさぁ…。」

「騙してはないで。ほんまに効くんやから。」

「私が辛いものダメだって知ってての所業かおぬし!」

「ま、気にしいなや。あんま騒ぐと…もっかいキスしたろか?」

「っ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

========================================

後足掻き

月堂、どうやら花粉症にかかりましたようです。鼻がグズグズいっております(辛)

友人と花粉症の話をしてて出たネタ。「忍足は絶対花粉症だ」と、月堂の偏見で忍足は

花粉症者とあいなりました。ワサビは本当に花粉症に効くそうです。生ワサビとか…。

じゃあ不二は花粉症なんて怖くないね!ワサビ寿司とか食ってるし。氷帝の天才もワサビ

寿司好きだったりするのかしら…。いや、なんかだめそう(笑)

 

 2003・2・26 月堂 亜泉 捧

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送