「幸村、今日たん……」

 

私が玄関を開けた瞬間、

ドオッという物凄い音がして、幸村が私の前を横切ってすっ飛んでいく。

 

「ぐ…っ!」

 

幸村がここ、鞍馬に来てから随分経った。

突然お師匠に「修行をさせてくれ」なんて頼んだときはどうしたんだろうと思ったけど…。

ふざけた口調とは裏腹に、その瞳は真剣そのものだった。

 

 

 

それ以来、毎日お師匠からスパルタ修行を受けている。

お師匠は壬生で1、2を争う程の強さ(って自称だから、ホントはどうか知らないけど)

だから、あの徳川家康を恐れさせるほどの実力者である幸村も、最初の頃はてんで相手に

ならなかった。今はだいぶいい勝負になっては来てるけど、5回に1回はさっきのように

すっ飛ばされてしまう。

 

だから、幸村の綺麗な顔も、日々傷が治ることなくまた新しいのを拵えてくる。

私はそんな状態を、正直辛く思っていた。

 

 

 

 

 

けして浅くはない想いを、幸村に抱いていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

哀しみの刻 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛いっ…すごい染みるよ、これ〜!」

「ちょっと我慢しててね、幸村。確かにこの薬、すっごい染みるけど、よく効くんだから。」

 

木綿布に、様々な薬草を調合して作ったお師匠直伝の薬を染み込ませ、

幸村の傷口にそっと当てる。

 

「だ、大丈夫。が手当てしてくれるんだもん、すぐに治っちゃうよ

「もお、冗談ばっかなんだから。」

 

にっこり笑いながら言う幸村に、私は口を尖らせて少しだけ反抗する。

 

 

…冗談だって分かってるのに。

 

 

何気ない、こういう一言がたまらなく嬉しくて、心臓が高鳴ってしまう。

幸村は、女の人慣れしてるから…。

 

「に、にしてもさ、お師匠もかなり幸村を気に入ってるみたいだね。

 壬生から逃げるようにここへ来て、最初の頃は私とも話さないくらい気を張り詰めてて。

 だから、よっぽど信頼した人じゃないと、ここまで長く置かないよ。」

「そう?なら光栄だね。」

 

にこっ、と邪気のない笑み。

こんなに穏やかな笑みを浮かべる人が、どうしてここまで過酷な修行をしようとするのか。

 

それは、彼が「伏龍」だから。

 

本来なら、私なんかがこうして親しくする事が出来ない、天下人を狙うお方だから。

どんなに近くにいようとも、その心までは相容れない存在。

彼の頭の中には常に、どのようにして天下を手中にしようか…。

 

私にとっては途方もないほど大きなものを目指して、策略をめぐらせている。

 

〜?」

「え、あっ!?ゴメン!ボーっとしてた。」

 

包帯を巻きかけのまま止まっていた手を再び動かし始める。

 

「ねえ、。」

 

少しの間を取ってから、不意に幸村が話しかけてきた。

 

「何?」

「ちょっと、御伽話でもしようか?」

「え、どうしたの、突然。」

「うん…何となくね。気が向いたから…かな。」

 

 

 

 

 

ある男は、生きる目的が見つからなかった。

滅亡しそうな家の為に、人質として出されて…。

そして、人質に行った先で見た真実に、心底落胆していたのさ。

 

 

そして男は「理想」を見た。

 

自分のやるべき事の理由が分からないからと…。

 

 

 

 

 

 

逃げていたのかもしれないね。

 

 

 

 

 

過酷な現実と、自分の置かれている現実と、…全てに。

 

 

「けれど、男は出会ったんだ。」

 

 

親を亡くした貧しい街娘だった。

男は、その娘に惹かれた。そして、誓った。

 

 

 

この人は、守り抜くと。

 

 

 

生きる目的を、見いだしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「だけど…結局、守りきれなかった。

 甘い考えから抜けれずにいたから、目の前で…その人を奪われたんだ。

 男は自分の無力さと、自分の中に渦巻く新たな感情を見つけた。」

「幸村…。」

 

 

 

酷く哀しげな、孤高の瞳。

 

 

私なんかが立ち入ってはいけない、と思いながら。

 

 

 

 

幸村を抱きしめた。

 

 

 

「…どうして、泣くの?。やだなぁ、ただの作り話なのに。」

「知らないよ…分からないけど!そんな哀しい幸村の目は、嫌…っ。」

 

 

傷だらけの幸村が、男の心と重なるから。

 

 

 

 

 

 

きっと…。

 

 

 

 

 

ぽんぽん、と幸村の手が私の頭に触れる。

その手が暖かい。

 

「きっと、街娘はによく似ていたんだろうね…。」

「…え?」

「可愛くて、純粋で、優しくて…自分よりも、他の人を思いやる。

 命をかけて、守りたいと思わせる…。」

 

真面目だけど、少しだけ熱を帯びた瞳になる。

 

その視線に、射抜かれる。

 

 

「幸村…。」

「そんな可愛い顔しない。襲いたくなっちゃうでしょ?」

「なっ…!?」

 

冗談めいた口調の後、唇に柔らかいものが触れる。

 

 

 

 

 

 

 

たったそれだけの触れ合いなのに、甘く痺れる。

 

 

 

 

 

身体が、熱くなる。

 

 

 

 

 

「可愛いなぁ、

「ゆ、ゆっ、幸村、何…。」

「真っ赤になっちゃって〜。最初に大胆なコトしちゃったのはでしょ?」

 

それは、そうかもしれないけど…!

混乱したままの私に、幸村は囁く。

 

 

 

 

、愛してるよ

「…………!」

 

 

 

 

 

またも顔を赤く染めているだろう私を見て、幸村は満足げに笑った。

 

「ね、今日ボクの誕生日だって知ってた?」

「…お師匠から、聞いた。」

「あ、庵里さんから聞いたんだ〜。じゃあさ、いいでしょ?…プレゼント。」

 

幸村の端正な顔が、すっと近づく。

瞳を閉じた姿が、男の人の色っぽさを引き立てる。

 

 

心臓がもはやどこにあるのか分からないくらい、全身に音が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

どうか、夢でもいい。

彼の瞳から、哀しみが消える一時。

私の側に、彼がいてくれる一時。

 

 

この時が、一瞬でも長く、続きますように…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

きゃはははは(壊)…幸村です。なんだこれ…駄文にも程があるよ…(泣)

街娘はみずき(…打ってて複雑な心境)のコトです。お師匠様…庵里さんはキャラ的に好き

なんですけど、思ったほど出さなかった…。今回はヒロインメインだからですね、多分。

この設定で何作かまた書きたいなと。誕生日…幸村、38歳のですか?しかもその年齢だと、

大助が生まれてますよね、幸村?…やめよう。これはドリだ。考えないことにしよう。

    1. 29 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

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