機械知識欠乏人間

 

 

 

ピリリリ…

僕の携帯が軽やかな音を鳴らす。着信画面を見て、ほんの少し苦笑する。

 

「もしもし、?」

<周助!!助けて!!>

 

受話器から聞こえてくるいつもの慌てた声。

 。仲のいい女友達で、テニス部マネージャーもしてくれている。

 

「助けて、って大仰な…今度はどうしたの?」

 

今度は、と言うしかないくらい、頻繁に来る彼女からの電話。

 

<ビデオが取り出せないのー!>

 

は近年まれにみる機械音痴。

この間一生懸命教えて、やっと携帯で「通話」が出来るようになった。

 

「…今から行くから待ってて。」

 

電話で指示できないこともないけど、それでビデオデッキが壊れる危険もある。

 

<んー、じゃ大人しく待ってる。>

 

 

僕は電話を切ってから、彼女の家に向かう。

僕の家からの家まではさほど離れていないものの、徒歩では少し面倒な距離。

 

「はぁ…。」

 

口から出ているのは確実に溜め息なのに、なぜか嬉しそうな響きが混じる。

 

結局、理由はどうあれに逢えればそれが嬉しいんだ。

単純な自分が滑稽にも思える。

 

 

 

自転車を走らせ、の家へ着くと玄関口に彼女が待っていた。

 

「いらっしゃい。待ってたよん☆」

 

普段制服姿を見慣れているのも手伝って、私服姿を見ると何だか新鮮で、

心臓が高鳴るのが分かる。

 

「コーヒーと紅茶どっちがいい?」

「紅茶の方がいいかな。」

「オッケー。」

 

台所へ向かったを見送って、僕は問題のテレビデッキを見やる。

 

「やっぱり、大したことは無かったね。」

 

本体の取り出しボタンを押して、ビデオテープを取り出す。

それでもただ手をこまねいていたわけではなく、彼女なりに悪戦苦闘したらしい。

中のテープが少し出ていたから、巻き取ってケースに入れた。

 

「あれ?」

 

紅茶とお菓子を盆に載せてきたが、小首を傾げる。

 

「もう終わったよ?ほら。」

 

僕はビデオテープを振ってみせる。

 

「早いねー。さすが。でもせっかく紅茶いれたから飲んでいってよ。」

「うん、ありがとう。」

 

仄かな甘みのある紅茶が、口内から鼻腔を通る。

 

「うん、美味しいよ。紅茶をいれるのは上手だね、。」

「のは、って…ヒドイなー。確かに私は機械に弱いけどさ。」

「でも、どうしてここまで機械に弱いのかなぁ?」

「知らないよ!つか機械が精密過ぎるのよ!!」

「でも、中学入ってからやっと計算機の全ての機能が使えたんでしょ?」

「……。」

 

黙り込んで紅茶を啜る。

図星かな?

 

「裕太なんか、小さい頃計算機おもちゃにしてたけど、壊すなんて事なかったよ?」

「そんな事言ったって…。」

「他にも、CDが聞けないって言うから来てみたらスピーカーと本体が繋がって

 なかったり、パソコンが動かないって言うから来てみればスクリーンセーバだったり。」

「どうしてそんなに覚えてるのよー!!」

「そりゃ、印象的だもの。」

 

印象的だったんだ、の表情が、ね。

 

僕が来た時ににっこり笑って迎えてくれる事とか、

僕があっさりと解決してしまった時の驚いた顔とか。

表情豊かで、感情を隠さないを、いつも見ていたから。

 

「…あ、そう言えば。さっき出してもらったテープ、あれって中学の入学式のビデオ

 なんだよー。この間棚整理してたら偶然出てきて。見る?」

「うん、見たいな。懐かしいね、入学式なんて。」

 

がテープをケースから出して、ビデオデッキに入れようとするけど…

 

「ちょっと待って。」

「ん?」

「テープ、逆さま。それじゃ入らないよ。」

「ありゃ…。」

「…クスクスッ…。」

「あっ、笑わないでよねっ!!」

「ふふ…ごめんごめん。」

 

今度は正しくビデオデッキに入れて、再生ボタンを押した。

 

…?

 

 

 

「わあ、すごい懐かしいー。ほらほら、手塚がいるー。」

 

少しだけ画像が不鮮明だけれど、どれが誰かは判別できる。

 

「ホントだ。あ、タカさんがいるよ。」

「みんな幼いねー、あっ、乾がちっちゃーい!!すごい変な感じ!!」

「今じゃと身長差が違いすぎるからね。見て、大石。すごい緊張してるよ。」

「菊ちゃんもちょっと緊張気味だね。あー、周助発見!」

 

本人から見ても緊張している事がよく分かる面持ち。まだ着慣れていない制服。

何だかすごく照れくさくなった。

 

「あ、ほら、がいるよ。」

「ホントだ。うわー、すごい恥ずかしー!!」

 

緊張して強張った表情。それでも愛らしさがにじみ出る彼女の表情。

ついつい魅入ってしまう。

 

「ちょっと、そんなまじまじ見ないでよ!」

「いいじゃない。」

「やだっ。」

 

と、はビデオテープを停止させた。

 

「…。」

「全くもう…。…?…周助??」

「ねえ。今、何のためらいもなく停止ボタン押したよね?」

「え?」

 

驚きと困惑の表情が顔に出る。

はいつも感情が顔に出ちゃうんだから、隠し事なんて無理なのに。

 

「ビデオ、使えないなんて嘘でしょう?」

「……。」

、黙ってちゃわからないよ?」

「………ビデオは、使えます。」

 

意外とあっさり白状した。

 

「テレビ、ビデオ、コンポとかは普通に使えるの。」

「携帯は?」

「…使えマス。」

 

何だか尋問みたいで嫌だなぁ。

でも、聞く事は聞かないとね。

 

「じゃあ、どうして僕を呼び出すようになったの?」

「一番初めは嘘じゃなかったのよ!でも…周助が来てくれるから、ついつい嘘つくように

 なっちゃって…あ、今日のは本当なの!テープが中で詰まっちゃったらしくて…。」

 

何となく、先が読めちゃったな。

ちょっとだけ勘のいい自分を悔やんでみる。

でも、僕はそれと同時に、嘘をつくのも得意だったりするんだよね。

 

「どうして僕に来て欲しかったの?機械系だったら乾の方が詳しいのに。」

「それはっ…。」

「それは?」

「…周助に逢いたかったからデス…。」

 

素直に全てを話してくれたににこっと笑いかけて、

 

「でも、よく隠しとおせたね。、嘘つくのは苦手だろう?」

「頑張ったもん。」

「じゃあなんで今日はボロが出たのかな?」

「…1年の時の周助が見れたから、嬉しくなっちゃったのかも。」

「え?」

「…1年の入学式の時からっ、ずーっと周助を見てたからっ!」

 

そう言うとプイッとそっぽを向く

ちょっと、この言葉は予想外だったな。

 

「じゃあ、今の僕は見たくないの?」

「そんな事な…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕も、1年の時からずっとを見てたよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以来、僕の携帯に着信履歴は少なくなって、代わりにたくさんのメールがくるようになった。

 

もちろん、からの。

 

最後のメールの締めくくりは、いつも決まってこの言葉。

 

 

 

<可愛いうそつきの、大好きな。>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

========================================

後足掻き

フジコーっ!!ホントは乾さんにしようかどうしようか本気で悩んだ。でも人気が高い

不二で。彼は黒魔術とかで何とかする、に一票。でも、由美子さん機械音痴っぽそう

だから直してあげちゃったりとか。携帯とか使い方教えてあげてそう。由美子さん

カワイー!!(萌えポイントがずれている)私は勘で全てを操作します。パソコンも

ほぼ勘でだいたいのトラブルを解決します(変)機械に関する勘は働くらしい。

文に対する勘も働いてくれればもっと素敵な文が書けると思うのだが。(泣)

 2003・3・20 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送