「すっかり…暖かくなったな。」

 

カレンダーにふっと眼をやる。

3月4日…。

あの日から、もう2年が経っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶の花弁

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、明彦。」

「ああ。元気そうだな、美鶴。」

 

久しぶりの再会。

2年前までは同じ寮で毎日のように顔を突き合わせていたというのに、

この頃では互いの忙しさに連絡を取ることも稀だった。

 

「大学の方はどうだ?相変わらず、ボクシングでは負けなしを誇っていると聞いたが。」

「おかげさまでな。桐条の主催で出来た大会でも、優勝し続けてはつまらんか?」

「構わないさ。そのうち、広告塔にでもなってもらおうか。」

「桐条の当主直々の誘いなら、断る事は難しそうだな。」

 

中学の頃から決まっていた事だ、と美鶴は、高校卒業と同時に正式に桐条の当主となった。

大学との両立の中、当主となるのは想像を絶する苦労はある。

だが、高校在学の時に見せていた、半ば諦めのような、強い責務感はなかった。

 

その理由は、俺も思い当った。

 

「…もうすぐ天田が来られるそうだ。途中でコロマルを連れてくるらしい。」

「何だ、コロならシンジが連れてくると言ったが…。」

「丁度会うかもしれないな。」

 

4年前、不幸な「事故」で因縁を持った天田とシンジ。

それでも、わだかまりや憎しみ、誤解を解くきっかけは2年前にあった。

今ではまるで本当の兄弟のように交流があると聞いている。

 

「アイギスは既に先に行っているらしいからな。」

「何だ。ラボから直接来たのか?」

「ああ。本人たっての希望らしい。私が連れて行こうかと言ったんだが、

 街を見て回りながら行きたいというのでな。」

 

アイギスは、このところますます「人間らしさ」を持ってきているらしい。

本来ならば「機械兵器」だったはずの彼女に、「心」を持たせた人物…。

皆、忘れようもない、大事な人物。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ワンワンッ!」

「あっ、お二人が来てますね。」

「シンジ、天田。久しぶり。お前たちも元気そうだな。」

「アキ、お前もな。」

 

互いの拳を合わせてあいさつ。

別段決まり事でもないのにぴたりと会うのはやはり、長い付き合いのおかげかもしれない。

 

「真田さん、大学生チャンピョン、おめでとうございます。さすがですね。」

「ありがとう。」

「この間は上級生を3人もKOしたってな。」

「ああ。まぁ、それぐらいじゃなきゃ困るがな。」

「違ぇねえ。俺もブランクがあるって言っても、それくらいはできそうだからな。」

 

俺たちの会話を聞いて、天田が小さく笑う。

 

「だったら僕も、負けないってことにしといてください。」

「確かにな。中学生どころか、高校生でも負けないんじゃないか?」

「私は戦車でも大丈夫です。」

 

後ろから聞こえた声は、アイギスのものだ。

嬉しそうにコロマルが駆け寄る。その頭を撫でると、アイギスが小さく笑う。

 

「コロマルさんも、負けないと言っています。」

 

コロマルの代弁を聞くと、皆から笑いが起こる。

 

 

「お、主役達の登場か?」

階下から聞こえる賑やかな足音に、ふっと表情が和らぐ。同時に、そこに加わっていない足音に

哀しみがよぎる。

 

「おっ、なんか出迎えてもらっちゃったみたいで悪いっすね〜。」

「別にアンタだけ出迎えてるわけじゃないっつーの。」

「ま、まあまあ二人とも。」

 

卒業証書を手にした三人は、ほんの二年前と変わらぬ様子で…。

それでも、やはり歳月の与えた経験からか、どこか成長して見えた。

 

もっとも、自分たちも成長段階であったのだから、言える立場かどうかは謎であるが。

 

 

「さって。ゆかりっち。例のブツは用意してあるのかね?」

「何で順平が偉そうなのよ。ばっちりよね、風花。」

「はい。しっかり用意してますよ。」

 

三人が顔を見合せながら、楽しそうに笑っている。

何やら秘密の計画をしていたらしい。

蚊帳の外になった他のメンツを見て、順平が後頭部を掻きながら、

 

「どうしても、アイツにも…卒業証書を渡したかったんスよ。」

 

その言葉に、全員がハッとし、その後、穏やかに微笑んだ。

 

「マーヴェラス!いい考えだ、伊織。」

「へへっ、そうっスよね?みんなそうだと思ったんで、俺らが代表して鳥海センセに頼んだんス。」

「記録としては残らないけど、思い出の為なら一肌脱ぐって言ってくれたんです。」

「だから、色々な意味を込めた、私たちからの卒業証書でも…あるんです。」

 

今でも、鮮やかに蘇る、『アイツ』の姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆の心の中に、ずっと、消えることなく鮮明に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワンッ、ワン!!」

「わっ、いきなりどうしたんだよ、コロマル?」

 

天田の隣にいたコロマルが急に吠えた。

その声を聞いたアイギスが目を丸くする。

 

「そんな…冗談言わないで下さい、コロマルさん。」

「何だ、コロマルは何と言っているんだ?」

「…さんが、来るって。」

 

アイギスの口から出た名前に、皆が一様に驚く。

まさか、そんな。

 

皆思っている事は似たような事だろう。

 

 

 

次の瞬間、キイッと音を立てて階段につながるドアが開いた。

 

 

 

 

 

「…嘘……。」

 

ぽつりと聞こえた言葉は、誰の言葉かわからない。皆が言っておかしくない一言。

自分も恐らく、口に出すであろう言葉。

 

 

「…えっと…久しぶり。…じゃなくて、えっと…ただいま?」

 

だっ、と駆け出して行ったのは岳羽だった。

押し倒すほどの勢いで飛びついて、

 

「ばかっ、ばかばかっ!今まで何してたのよっ!ばかーっ!」

「ご、ごめん、ゆかり…だから、泣かないで?」

「泣いてないわよ!あたしは怒ってるんだからねっ!!」

 

ゆっくり近寄って行ったのは山岸だ。もう涙がぽろぽろとこぼれている。

 

「本当に…帰ってきてくださったんですか…?」

「うん、ちょっと色々あって…帰ってくるのに時間がかかっちゃったんだけど…。

 でももう…あの日みたいに消えたりしないから。」

「よかった…本当に…。」

 

美鶴が泣きだす手前のような微笑みで、そっと頭を撫でた。

 

「よく帰ってきてくれた…。」

「美鶴先輩…ありがとうございます。」

「お帰りなさい、さん…。」

「うん、ただいま…アイギス。」

 

嬉しそうに微笑むアイギス。うっすらと涙が浮かんでいる。

 

「女性陣だけでずるいですよ。僕らも行こう?コロマル。」

「だな、確かに。オレっちだって話したい事たくさんあるんだからなっ!」

 

天田とコロマル、順平が駆け寄る。

俺はシンジと視線を合わせると、皆に倣って駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

またきっと騒々しい日々が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

まだ知らない、何か大いなる力も、動き始めていた。

 

 

 

 

 

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後足掻き

P3主人公の救済をしたいがために書いたといってもいいこの作品(笑)

そして、月堂がフェス未プレイの為、メティスは出てくる事はしばらくないかな?

色々な処でネタばれで知ってるけど、書ける自信はないので←

あくまでこの話は序章です。これからはオムニバス形式、というか、

各話毎にCPや語り部が変わるようにしていこうと思います。

とりあえずは…気長にお付き合いくださいませ。

 

 

2010・1・18  月堂 亜泉  捧

 

 

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