友情?心?愛?

 

…何それ。

反吐が出るほど美しくて、吐き気がするほど高貴な言葉だ。

 

 

そう、僕の理解から一番遠いところにある。

それらの、感情。

 

 

 

 

 

 

 

 心のある場所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分見目のいい青年が泊まっているのね、女将。」

 

私は通り過ぎて行った青年をちらりと見た後、焼きたてのパンを籠いっぱいに

もって来てくれた恰幅のいい女将に尋ねる。

 

「ああ、そうなんだよ。昨日から泊まっていてね。」

「見かけからして旅人ではないようだけど。」

 

羽織ったマントや荷物の量から見て、旅をするにはあまりに軽装だ。

私の質問に女将は顎をさすりながら思い出すようにゆっくり答える。

 

「確か…王の盾とか言う…。」

「王の盾…。」

 

やはり、と心の中で呟く。

 

そう、あの青年には見覚えがあった。

 

むしろ、一目でも見間違う訳がないと確信を持てるぐらいに知っている人物だったから。

「…サレ…。」

 

今は王の盾の四天王として王城に住まう彼。

まだ、彼は人を信じることが出来ないのだろう。

 

『心なんてあやふやなもの、信じられるかい?』

 

そう言って私に背を向けた、彼。

ラドラスの落日より以前から能力者として目覚めていたヒューマは珍しく、

その分差別や迫害の対象ともなっていた。

 

そんな身勝手な人々のせいで、彼の心は暖かさを失っていった。

彼の類稀な嵐のフォルスは、人をしばしば傷つける手段となっていった。

 

「そういえばお嬢ちゃんはどこへ行くんだい?」

「私?……これからバルカに行くの。」

 

ここで出会ったのは予想外だったけれど、ある意味では運命なのかもしれない。

先王ラドラスが崩御した日、ヒューマ、ガジュマを問わずフォルス能力者が多く覚醒した。

通称ラドラスの落日とも呼ばれるその日、私も例外ではなかった。

 

「王の盾のお仕事をこなさないとね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、王の盾に新入り、ね。最近じゃ能力者とあらば面倒を起こされると

 困るって言うんで即入隊できちゃうからねぇ。」

 

バルカまでの定期船に揺られながら、サレは独特の口調でそんなことを口にした。

 

「僕としては、楽しめればそれでいいんだけどね。」

「お前の楽しむ、は戦うことで相手が苦しむことだろう。」

「ご名答。よく分かったねぇ、トーマ?」

 

屈強な体つきをした、ミノタウルスを彷彿とさせる姿をしたガジュマ。

王の盾・四天王の一人、磁力のフォルスを持つトーマはふん、と鼻息を吐く。

 

「俺には分からんと思っていたか。」

「嫌だね、そんな事言っていないじゃないか。」

「言い方の問題だ。」

 

けしてこの二人は仲が良いわけではない。

四天王であり、さらにはフォルスの助長が出来る故に共に行動しているだけなので、

ひとたび話が拗れれば喧嘩と言うには規模が大きいフォルス能力合戦となる。

 

「ま、それは置いといて。その新入り君の名前は何なんだい?」

「何と言ったか。確か女だったはずだ。」

「へぇ…女ね。」

「名は、そう、とか言ったか。」

 

トーマの口から出た名前に、サレの表情がさっと変わる。

 

…?あの、?まさか…ラドラスの落日で…彼女もフォルス能力者に…?)

 

サレは自分の心の中で出てきた仮説に否定をする。

 

(いや、考えすぎだ。という名の女性は、他にも居るはずなのだから。)

 

 

「サレ様、トーマ様。港に到着いたしました。」

「分かった。お前たちは女性たちを馬車に乗せて一足先にバルカ城へ向かえ。

 あくまでも丁重にお送りすること。」

「はっ。」

 

女王の悲願を叶える為の今回の任務。

世間知らずの女王様がささやかな恋を成就させ幸せになるには、

美しいヒューマの女性が必要と信じて疑わない。

それを刷り込んだのは大臣であるジルバ様だということは分かっているし、

どのような結果を『それ』がもたらすかも分からないではない。

 

 

どんな結果になろうと僕は、楽しめればいいんだけどね。

 

 

そんな風に考えるサレは、非道の人と王城内でも有名ではあった。

 

「サレ様、面会を求めている方がおられますが。」

「僕に?」

「はい。」

 

珍しい、とサレは心の中で呟く。

前に語ったようにサレはその非道な具合から畏怖の存在である。

面会しようなどという度胸や用事のある人間は女王やジルバ、他の四天王ぐらいだ。

 

「まぁいいよ。今ちょうど仕事が終わったところだし。僕の執務室に通しておいて。」

「はっ。」

 

珍しい訪問者に、何となく楽しみになってくる。

ただしそれは、普通の人の「楽しみ」ではないのがサレだ。

 

執務室に入ると、サレの切れ長の瞳が僅かに見開かれる。

 

「やっぱり、あの時の姿は貴方だったのね、サレ。」

「…?」

「あら、覚えていてくれたのね?」

 

のんびりと寛いだ様子で相手に話しかけると、は微笑む。

 

「はるばるラジルダ地方からバルカ見学?お気楽でいいものだね。」

「お気楽だなんて失礼ね。ちゃんとお仕事でいるのに。」

「仕事?」

 

狐につままれた様な顔をしながらサレが尋ねると、は至極楽しそうに笑む。

 

「ええ。ノースタリアやキョグエン、ラジルダの美しいヒューマの女性をここ、

 バルカに連れて来るという超重要なお仕事よ。」

「…王の盾の現在最重要任務…。」

「驚いた?…ラドラスの落日以降、私にもフォルスが操れるようになった。

 そして、独りぼっちになった私が流れ着いたのは王の盾…。」

 

少しだけ翳りを帯びた、含みのある口調でそう語った後

再び彼女らしいあっけらかんとした調子で、

 

「というわけで、久しぶりに挨拶に来たってワケ。

 これからどうにも忙しくなるみたいだし…少しは時間のある時にでもってね。」

 

じゃあ、またね。と言ってひらひらと手を振り去る彼女を見て、

サレは少しだけ苦い顔をした。

 

二人の邂逅に、また新たな時が動き出した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

サレです。連載です(笑)まだ連載を増やす気で居ますヨ、このアホ月堂。

でも1話読みきりじゃ書けないっぽいです。情けない月堂の文才…(涙)

サレは結構好きですね。彼はあの中でもっとも人間らしいからかもしれませんね。

他の人が聖人君子過ぎる気がするんですよね。人間って結構醜くて自己中ですから。

さて、次いつ更新かな…(オイ)

 2006・9・19 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

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