逢いたいと思うその時には

 

 

 

 

貴方がいない

 

 

 

今すぐ逢いには行けないから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方が来ればいいのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マルクト帝国が誇る水上の帝都、グランコクマ。

その名の通り海上に浮かんでおり、譜術によって街中を豊富な水が流れている。

景観の美しさはこのオールドラント随一とも言われる。

 

富裕層と一般層で居住区が別たれていて、主要な施設は富裕層の居住区にある。

そして、その施設の一つに、マルクト軍基地本部がある。

 

「ふぅ…。」

 

大きく嘆息したのは、すらりと高い背をマルクト軍の青い軍服に包み、

艶やかで長い薄香色の髪に、縁の殆どない眼鏡の奥に覗く濃緋色の瞳を持つ美丈夫。

『皇帝の懐刀』とも、『死霊使い(ネクロマンサー)』とも呼ばれる、二つ名の多い人物。

 

マルクト帝国軍第3師団長、ジェイド・カーティス大佐である。

 

昼過ぎから執務室にこもりきり、ハイスピードで仕事をこなしている。

それなのに今だ減った気配すらない山積みの書類を見て、表情を曇らせる。

 

 

「あの方は嫌がらせには無駄に心血を注ぎますね。ある意味感心しますよ。」

 

執務室の片隅に乱雑に放置された書物の溜まりを見ながら、親友である人物を一人毒づく。

元来仕事が早く、溜まる事など滅多にないのに

 

『ジェイド。今までは不問にしてたが、もはや眼前の驚異は去った。

 とゆーわけで、体裁上責任は取ってもらうぞ。

 タルタロスとその船員の損失の責任にしては、軽いもんだろう。』

 

というピオニー陛下の「ありがたい」言葉で、

体良く彼の雑務を代返しなければならない羽目になっている。

 

 

「まったく…こんなに分厚い始末書など、聞いたことがありませんよ…。」

 

空気の入れ換えにと、窓を少し開ける。

窓辺に椅子を置いて座り、何気なく外を眺めた。

 

目線の先には公園がある。少し遠いがジェイドは2.0という目のよさだ。

 

「…平和ですね…。」

 

星はさんざめき、道行く男女は幸せそうに寄り添う。

そんな当たり前の穏やかな光景が見られることが、あの時は出来なかった。

 

全てはあの少年に逢ったことから始まった。

 

 

傲慢で不遜、無知無思慮。

 

依存心が強く、意思も弱い。

 

 

 

そんな少年は、ある事件を境に、自らを変えようとした。

 

 

良く言えば謙虚、悪く言えば卑屈。

良く言えば正義漢、悪く言えばお節介。

 

 

改善されたかと言われたら微妙な所ではあるが、

少なくとも、最初の彼よりも好感は持てた。

 

だからこそ、あの言葉を口にしたのだと思う。

 

勿論、素直に言う事など出来なくて、何時もの様に酷く歪なオブラートに包んで。

 

 

 

「…約束したからな。」

 

 

命を賭したあの場から帰って来て欲しいと、

無茶な願いをしたものだと思った。

 

音素(フォニム)の乖離が進んでいた、第七音素(セブンスフォニム)のみで構成された複製(レプリカ)である彼は、

 

いつ完全に音素(フォニム)が乖離し消えてしまってもおかしくない状況だったのだ。

 

 

それなのに、

そう言って戻って来た彼。

 

 

えもいわれぬ思いが、空白の三年に空いた心を満たし、溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失ってからその大事さに気付く、など…

 

 

 

 

 

 

 

 

陳腐過ぎて、普通過ぎて、鼻で笑っていたのに。

 

自分がまさか、そんな体験をするだなんて思ってもみなかった。

 

 

(これも…歳だからですかねぇ。)

 

 

そう思いながら、ゆるゆると思考能力を奪う眠気が訪れ、少しの間目を閉じる。

 

 

 

瞼の裏に映るのは、多彩な表情を見せる彼の姿。

自分の素直じゃない言葉を、そのまま受け取っては百面相をして。

 

時には驚くほど鋭く、こちらの痛い所を突いてきて。

 

ジェイドはあの事件…アクゼリュスの一件から、変わっていく彼をつぶさに見ていた。

いや、目が離せなかった。

 

人形(レプリカ)が自我を持ち、一人の人間として歩み始めたその時から、

 

彼は本当に、『聖なる焔の光』を纏ったのだから。

 

 

「…ルーク…。」

 

ぽそりとそう呼べば、胸に込み上げる想い。

その正体が何なのかは、もうこの年になればいやがおうでも分かってしまう。

もっとも、今更抗う事もしないけれど。

 

それでも、自分の性格上、彼に自分から会いに行く事は出来なかった。

 

自分も忙しいし、相手もまた忙しいだろうと口実をつけては、相手が来るのを待っていた。

 

 

どんなに逢いたくとも逢えなかったあの3年間とは違い、

 

ルークは、この世界に確かに息づいていると言うのに。

 

 

「…貴方が来れば良いんです。」

 

 

身勝手だとは重々承知だ。

それでも、彼は文句を言いながらでもきっと来てくれると分かっているから。

 

 

(貴方が、私を必要としている事なんて、とっくにお見通しなんですよ。)

 

 

 

重い腰を上げ、残りの仕事を少しでも片付けようと気を取り直す。

 

椅子を戻そうとしたその時、目線の端に紅い光が映った。

 

「…まさか…。」

 

寝ぼけているのだろうかと、眼鏡をくいっと押し上げる。

 

「やれやれ…幻覚まで見てしまうとは、私も相当ですねぇ…。」

「何が相当なんだ?」

 

ついに幻聴まで、とは流石に思わなかった。

 

間違いなく、想いを馳せていた人間は、ドアの前に立っているのだから。

 

「…貴方でしたか。ノックぐらいしてくださいね?王城とは違うのですから。」

 

嬉しい来訪のはずなのに、口を突いて出てくる皮肉に心の中で嘲笑する。

ルークはそれを素直に受けとめ、

 

「あ、悪い…もうこんな時間だからこっちにはいないかと思ったんだけど、

 執務室に明かりがついてたからつい急いじゃって…。」

 

紅蓮の髪をくしゃくしゃっと乱雑に掻き混ぜるルークを、

ジェイドは珍しく穏やかに微笑んで見つめ、

 

「立ち話もなんですから、入りなさい。今、お茶を入れてきますから。」

「サンキュ。…うわっ!何だこの机の上!?」

「仕事の書類ですよ。不用意に触らないで下さい。まぁ、この仕事があるのも

 貴方に原因の一旦があるといっても過言ではないのですがねぇ…。」

「え…。」

「安心なさい、だからと言って貴方に手伝えなんて言いませんよ。

 むしろそんな事をしては私の仕事が余計に増えるだけですからね。」

「…すっげーバカにしてるだろ。」

「おや、気付きましたか。」

「バカにすんなよ!」

「そうですねぇ…検討しておきます。」

 

お互いにお互いの気持ちを知ったとて、会話はこれまでと変わる事はない。

ジェイドはルークを揶揄し、ルークはそれに思いきり反応を返す。

 

今まで気にも留めなかったそれが心地いいと思うのは、本意が分かるからだろうか。

 

 

 

「とにかく…よく来ましたね、ルーク。」

 

「…ああ。逢いたかったからな。」

 

 

 

その言葉に同意を示そうかと思ったが、茶を置く事でそっと誤魔化した。

 

 

 

 

 

 




 

 

 

 

 

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後足掻き

あまのじゃっきーなジェイド大佐。そして飼いならされたワンコルークなジェイルクです。

ジェイドさん装着称号は「ツンデレおじさん?」OR「見通す人」で。

しかし、私の書く大佐はこう…ルークラブなくせに絶対言わない頑固さんですね。

今度思いっきり変態な大佐が書きたい(何という宣言だ)

ちなみに今回題材にした歌は、スピッ○のボーカルさんとKR○VAさんの曲で、

『くればいいのに』という曲でゴザイマス。これ書いたお陰でにやけます(キモッ)

 

 2007・8・17 結城 麻紀 捧

 

 

 

 

 

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