きゅっ…。靴紐をきつく締める。

靴紐を締める度に俺の頬は、少し綻ぶ。

 

 

 

君の靴の紐。

 

 

 

「あっちゃん、今日はね、新しい靴なんだよー?可愛い?」

 

俺の事をあっちゃんと呼んでいた、俺の幼馴染み、 

は小柄で、可愛らしいという言葉がよく似合う。

 

「うん、可愛い。」

 

赤いラインの入った、黒のスニーカー。

靴紐の色は、ラインと同じ赤色。

 

「紐靴だけど、大丈夫?」

「大丈夫だよ。多分。」

 

俺が、の紐靴なのを心配するのには訳がある。

 

「ひゃあっ!」

!」

 

は不器用なんだ。

普通は、だからどうしたってくらいだと思うんだけど。

 

は、筋金入ってる不器用。

 

つまり、靴紐もきちんと結べないくらい不器用なんだよね。

おまけにおっちょこちょいだから、解けた靴紐につっかかって転んだりする。

 

「あはは、やっちゃった。」

「…怪我はない?。」

 

俺は苦笑いするにかけより、手を貸して立ち上がらせる。

 

「それは平気だけど。いつもいつもごめんね、あっちゃん。」

「いいよ、気にしてない。俺はに怪我がなければそれでいい。」

 

俺はの足下に跪き、靴紐を結んでやる。

自分で言うのもなんだけど、俺は手先が器用な方だから。

 

「何だか、お姫様みたい。」

 

いつだったか、はそんな事を言った。

 

「じゃあ俺は何なの?」

「うーん……お付きの騎士様かなっ。」

 

本当は、王子って言ってもらいたかったけど、聞き返しはしなかった。

 

きっと、の王子になるにはまだまだ頑張らなきゃならないんだろうから。

その頑張る術は、テニスの腕を上げることだった。

が、

 

「テニスをしているあっちゃん、凄いカッコイイよ。」

 

と言ってくれたから。

単純かもしれないけど、が好きだから。

頑張れてしまう自分がいる。

 

 

 

 

 

 

「俺、東京の中学に行くことになったんだ。」

 

テニスの腕を見込まれ、スクールを通じて、聖ルドルフ学院中への推薦入学。

聖ルドルフは全寮制。

 

と距離が出来るのは、必至だった。

 

 

 

 

 

 

「淳、準備出来たのだーね?」

 

ふと現実に引き戻される。

パートナーを組む見知った顔が、僕の顔を覗き込んでいた。

 

「うん、もういつでも大丈夫。」

 

ひょいと立ちあがって、トレードマークの赤いハチマキを締めなおし、グローブをはめる。

 

赤いハチマキは、あの時の履いていた靴紐を思い出す。

最後に結んであげた靴の紐は、あのスニーカーだった。

白いグローブは、の王子様になるための、絹の手袋の代わり。

 

「そんなに気張ることないだーね。練習試合は楽しむだーね。」

「観月がそれを許さないだろ?」

 

冗談混じりに言って、くすっ、と笑う。

でも俺も、今日はなあなあで試合を終わらせたくないんだよね。

どうしてって…

 

「あっちゃん!頑張れ!」

 

にこにこと手を振って声援を送って来る。

少し背が伸びて、さらに可愛らしくなっていた

俺が試合に出るというのを聞いて、反対する両親を説得し倒して東京に来た。

大会が終わるまでこっちにいると聞いたときは、さすがの俺もの行動力に驚いた。

 

俺はにこりと微笑みかけて、トントン、と靴にタッチしてみせる。

声は出さずに口の動きだけで話しかける。

 

『靴紐、大丈夫?』

 

は不服そうにぷぅっ、と頬を膨らませて、

 

『いつの話してるのよ!』

 

ついつい顔が緩む。

前のネットを見据え、精神を集中させる。

 

「…聖ルドルフ、柳沢、木更津ペア。両者、礼っ!!」

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

 

練習試合、もちろん俺は勝利した。

観月は言っておいた戦法と違うから文句を言っていたけど。

 

好きな人の前では、見栄張っちゃうもんでしょ?

 

。」

 

名前を呼ぶだけで、愛しさに全身が痺れる。

 

「あっちゃん。」

 

名前を呼ばれるだけで、嬉しさに全身が震える。

俺はを強く、抱きしめた。

 

「あっちゃん、すごくカッコ良かったよ。」

「うん…のために、戦ったよ。」

「ありがと、あっちゃん。」

 

さらさらのの髪が、肌をすべってゆく。

ふわりと優しい香りが、鼻腔をくすぐる。

 

、俺…の何?」

「え?」

「いいから、答えて?」

 

ガキっぽいけど。

 

そのために俺は頑張ってきたから。

 

 

「あっちゃんは、昔からずっと…私の一番大事な大事な、王子様だよ。」

 

 

の履いていた靴は、最後に俺が靴紐を結んであげた、あのスニーカーだった。

その靴紐は、まだ一度も解けていない。

 

 

 

 

俺達の絆を、表す様に……。

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

あっちゃんドリです〜☆突発です〜(汗)私はいつも木更津の事をあっちゃんと呼んで

ますので、使っちゃいました。これは私のスニーカー(ナ○キ)の靴紐がいやに解ける

もので、結び直している時にふと思いついたもの。はちまきとリンクさせるつもりは

なかったんですが、なぜか勝手に話は進む…(汗汗)きちんとプロット立てない無計画人

だからでしょうか…(そうなんですね、はい…。)修行いたしませう…ハイ。

 2003・1・9 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

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