Make it if you can
「6−2、不二!!」
審判の声が、高らかに勝者を呼びあげる。
「不二先輩、流石ですね。」
「そうかな?」
校内ランキング戦、一日目。
僕は難なく、勝ちを稼いでいた。
けれど、集中は出来ていない。
後輩に2ゲームも取られるなんて、らしくない。
集中しなければ、と思えば思うほど、浮かぶのは…。
「、こんなところにいたの?」
「ん?」
部室の影と木陰の重なった涼しい場所に、彼女…はいた。
「ちょっとは応援してくれてもいいんじゃない?」
「何で。このくそ暑い中。しかもあんたの為に?…めんどい。」
「ひどい言いぐさだね…。」
「大丈夫よ、あんた絶対負けないから。」
本人は僕を避けようとしての台詞を言っているつもりだろうけど、
それは、僕にとって嬉しい言葉だって…気づいてない。
「次、桃の試合だよ。」
「あ、じゃ見に行こうっと。」
僕以外の人なら、率先して応援しに行く。
露骨な変わりぶりに苦笑してから、すっと冷たくなる気持ち。
イライラを通り越した、冷たささえ覚える嫉妬。
それさえ、彼女は一瞬にして熱くした。
「すごい晴れてる…。」
手を翳して空を見る仕草。
華奢な指。
それが、白磁のような彼女の肌に紗をかける。
舞の型のように、優雅にさえ見えるその仕草。
形のよい唇から紡がれた言葉は、
「…押しつぶされそう…。」
「え?」
「…私、雲のない真っ青な空は嫌い…。」
「そう?綺麗じゃない。清々しくて。」
「…押しつぶされそうな気がする。
…不二、絵の具で空の色を作った事がある?」
空なんて、誰しも一度は絵に描く。もちろん僕も例外じゃない。
頷くと彼女は笑って、
「ウソツキ。」
「なんで?」
「空の色なんて作れないわ。絵の具なんてものじゃ。
今、何万色と色が存在しているけれど、どれも自然の色じゃない。
よく見ると全然違うわ。本物の色を見るとね。」
そう言うと、は指を空に翳した。
「自分の得体の知れないものって、恐怖を覚える。
私は、真っ青な空。…この色は、どこからって…思うからかしら。」
抽象的。
一言で表せば、それ。
それより何より、僕には分からなかった。どうしてそれを僕に話すのかが。
「あ、試合、見に行かなくちゃ。」
気づいてコートに走っていくを見送る。と、
「不二、何をしている?」
「手塚。」
振り返ってそこにいたのは手塚。
「…手塚、さっきの話、聞いた?」
「何の事だ?」
「…いや、何でもないよ。」
手塚と一緒に、コートへ向かう。すると、珍しく手塚が話題を振ってきた。
「不二…から質問を受けたか?」
「質問?」
「ああ。あいつが必ずする質問だ。俺も昔、質問されて…答えられなかった。」
ひょっとして、さっきのかな…と思う。
「もしかして、『空の色を作った事があるか』って事?」
「ああ…。」
従兄妹の手塚もされた質問。
…ますます、僕に質問した理由がわからなくなる。
「あいつも、俺と同じように不器用らしい。…血は争えんな。」
「手塚、意味を知っているの?」
「まあな。」
しばらくの沈黙。
その後、手塚は口を開いた。
「あいつは、恐れている。」
「何を…?」
「…人を好きになることが、だ。」
こういう時に、勘が働いてくれるのはありがたい。
空の色は、自身に芽生えた、『恋心』
…気づいてやれなかった。
彼女は自ら言ったのだ。
それは自らで作り出す事は出来ないと。
それは恐怖だと。
その、得体の知れないものに押しつぶされそうなのだと。
「手塚。」
「何だ。」
「悪いけど、はもらうよ?」
「…そうか。」
僕は走り出した。
歩いたって時間はかからないのに。
彼女に逢いたくて仕方なかった。
「。」
「…何?」
「僕、空の色は作った事ないけれど…。持っているよ?」
「…?」
彼女の瞳を、じっと見つめた。
「僕の瞳の色。」
「…。」
「押しつぶされそうなら、僕も同じだ。でも、これは得体の知れないものなんかじゃない。
確かな気持ちだよ。」
「国光から…聞いたの?」
瞳を逸らした。
僕は構わず、話しかける。
「恐れないで…僕を見て欲しい。僕は手の届かない遠いものじゃない。」
ぱっと顔を上げた。
「僕は、が好きだよ。」
も分かっているはずだ。
この色は自分では作れないものだけれど…。
「私も、好き…だよ。」
自分で消す事も出来ない…とね。
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後足掻き
抽象的シリーズ!(シリーズ化するな)今回は手塚じゃなくて不二です。でも、イイとこ
で手塚さんが出てきます(笑)本当は「ファインダー…」的な、はちゃめちゃなものに
しようと思ったんです。題名から入って、書き始めたらあれよあれよと違う方面へ。
最近ドリの一人歩き化進行中。(汗)ヒロインは手塚の従兄妹設定。でも、この
ヒロイン私の考え移植…。晴れ渡る空はどうも押し潰されそうな気がして苦手です。
私が引きこもり(外へ出るのが嫌い)だから?とにかく、抽象的なのをどうにかしたい…。
2003・8・30 月堂 亜泉 捧
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