「…熱っ…。」

 

右手にチリリと、火傷のような鋭い痛みが走る。

ここ数日、毎日のように痛い。

原因は、何となく分かっている。

だけど、それを肯定する気はない。

肯定したら…、

 

何かが終わり、

何かが始まってしまうから。

 

 

 

熱の名前

 

 

 

デュナン軍の本拠地、ノースウィンドウ。

かつてはここに街が栄えていたが、ある事件がきっかけで荒廃していた。

しかし、ここにデュナン軍が本拠地を置いて整備していくうち、

だんだんと人も集まり、再び立派な街のようになった。

そして、ここで一番高い建物が、ノースウィンドウ城。

同盟軍の人々が住まう最重要拠点である。

そこの1階にあるホールは広々としており、大きな窓ガラスから豊富な光が射し込み、

風通しもよいという、とても居心地のいい場所だ。そして、

そこのエントランスの中心にあるのは、

「108星」を記した、「約束の石版」。

そこの前に、彼はいつも立っている。

 

「おはよう、ルック。」

 

この城の城主であり、デュナン軍のリーダーである少年、リオウ。

明るく朗らかな少年だが、どこか哀しげな印象を持つ。

 

「…何か用?」

 

城主に対しても、ルックはいつもの無愛想を崩さない。

リオウはさして気にもとめることなく、

 

「約束の石版、見せてくれる?」

 

 

とにこやかに言った。

 

「最近しょっちゅう人が増えるから大変なんだよね。…ありがとうルック。」

「…。」

「あ!ね、そうだルック。」

 

去ろうとしたリオウが急に振り向いて、

 

「最近元気ないみたいだけど。大丈夫?」

 

 

別に元気がないわけではない。

…というか、ルックとしてはいたっていつも通りにしているのだが、

なぜかこの少年は感が鋭い。

 

「…別に、具合は悪くないけど?僕だって、自分の健康管理くらいできるよ。」

「そう?ならいいんだけど。」

 

 

 

 

そう、健康管理くらい出来る。

なのに、どうして『これ』は管理できないんだろう。

 

 

 

「ルック!!!!!」

 

頭上から声と共に、『何か』が降ってきた。

 

「っ!!」

 

ドスンッ!!!

 

豪快な音が響く。ホールにいた人々も一斉に振り返る。

 

「あいたたた…。こんなハズじゃなかったのに…。」

 

腰を痛そうにさすって、少女はそうぼやいた。

髪は茶色のストレート、少々長め。

 

「…どうでもいいけど…どいてくれない?」

 

ルックはその少女の下敷きにされていたのだ。

 

「あっ!!ごっ、ごめん。」

「…で?空から突如降ってきた理由は?簡潔に説明してくれる?」

 

ルックは素っ気無い口調で彼女に尋ねる。

 

「え?ルックに逢いたかったから。」

「……僕をバカにしている?。」

「全然?」

「………。」

 

あまりの大ボケっぷりに、言葉を失うルック。

ちなみに、なぜ彼女が空から降ってきたのかというと、ルックを驚かせようと

ビッキーに頼んで、ルックの『目の前』にとテレポートを依頼したのだが。

 

「あれっ!?」

 

…とまあ、彼女らしく失敗して、こういう状態に陥ったわけなのだ。

 

さて、話しても埒があかないと踏んだルックは、大きく深いため息をついて、

 

「…やめた。君と話してると疲れる。」

「あら、私は楽しいわ。」

 

にこにこと笑う

ルックがを邪険に扱えない理由は、そこにあった。

は多少(相当?)ズレている部分もあるのだが、純粋なのである。

ルックに逢いたければ逢う、笑いたければ笑う。

相手には少々迷惑な事もあるが、それでもどこか憎めない、

不思議な魅力が彼女にはあった。

 

「ねぇ、ルック。ここも風が気持ちいいけど、たまには外へ出てみない?外のほうが

 もっと気持ちいいよ?」

「遠慮するよ。僕、汗かくの嫌いだから。」

「じゃあ、汗をかかないようにゆっくり行こう?」

 

拒否をしたのにも関わらず強引に外へ連れ出されたルック。はとても嬉しそうだ。

 

「う〜ん、気持ちいい!やっぱりいいでしょ?外は。」

「…そうかな。」

「いいって言うの!好きだって思えば、何でも『好き』になれるのよ!」

 

 

チリ…ッ。

 

 

また、熱い痛み。

それを無視しようと、ルックは視線を上げる。

視界に入るのは、息を飲む光景。

柔らかな日差しの中、彼女の茶色の髪が日に透けて、美しく輝いている。

ふわふわと風に揺れる白い木綿のスカートは、太陽の光でさらに白く、羽の様である。

ルックは、まるで時が止まった様にその光景を見ていた。

 

 

 

チリリッ…。

 

 

 

「っ……。」

 

また、右手が痛い。

焼けるように…。

 

「どうしたの?ルック。」

 

は心配そうに覗き込む。ルックは1歩下がって、

 

「…熱いから…もう、中へ入る。」

「あっ、ちょっと、ルック!!」

 

 

の引きとめる声を背に受けつつ、まだチリチリと熱く疼いている

右手を握り締めた。

 

『好きだって思えば、何でも「好き」になれるのよ!』

 

―じゃあ、僕が『好き』といってくれるのは、

好きだって、思いこんだからか…?―

 

 

「…バカらしい…。」

 

約束の石版に背をもたげると、ひやりとした感触が心地よかった。

 

「…熱い…。」

 

ずっと、さっきから引かない熱。

いや…。随分前から引かない熱。

 

この熱さは分かっている。

本当に『熱い』と感じているのは、右手じゃない事も。

 

「ルック!」

 

君が…が、

 

僕の名を呼ぶ度、

僕に微笑みかける度、

 

 

熱く痛む。

 

 

この熱に名前をつけたら。

 

 

 

何かが終わり、

何かが始まってしまう。

 

 

 

だから今しばらくは、この熱を「知らないふり」する。

 

 

 

 

恋という名の…熱を。

 

 

 

To be continued…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

うーわー…。なんだか支離滅裂ですね。主人公がビッキーに似てるとのご指摘を受け

ました。確かに言われて見れば…(汗)でも、ルックにはルックを振りまわすぐらい

ガッツのある子じゃないと…とか思ったり。はい。言い訳です。後足掻きですので

許してください。

 

 2002・11・11修正  月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

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