相棒

 

 No.06

 

 

 

 

 

 

 

 

爽やかな朝風が吹き抜ける、今日。

昨日も今日も変わらずの晴天にご機嫌で桶を持って家から出てくる一人の少女。

 

厩に向かい、1頭の馬へ話し掛ける。

 

「元気そうだね〜、松風♪」

 

身体を撫でてやると、馬は嬉しそうに鼻を近づけてくる。

 

「お前の主人はまだ寝てるよ。昨日は随分暴れてきたみたいだからね。

 京の町で何をしてきたんだか…。」

 

ため息をつきつつ、丁寧に手入れをしてやる。

 

「もう少し、慶次様が天下の行く末に興味を持っていただければ、

 私がお前の世話をすることもないのにね?」

 

ぶるる、と鳴いているものの、馬に人の言葉が解せるとは思っていない。

 

 

 

「でも、そうなったら私は…慶次様と共に居られないのだから、

 これはこれで幸せなのかもしれないね…。」

 

 

「何が幸せなんだぁ?。」

「うわぁぁっ!?」

 

後ろから突如かけられた声に驚き、思わず持っていた手綱を引っ張ってしまう。

馬が驚き高く嘶く。

 

「何をそんなに驚いてんだい、?」

「…後ろからいきなり話しかけないで下さい、慶次様…。」

 

まだ早鐘のように脈打つ心臓をなだめるように胸の辺りをなで下ろしては答える。

 

「ん?そうか、悪いなぁ。」

 

はっはっは、と豪快に笑う慶次には、言葉のような意味が感じられない。

しかし、その邪気のなさに思わずも顔を綻ばせる。

 

「ところで慶次様。身体はもう大丈夫なんですか?」

「ああ、何ともないねぇ。あれくらいの怪我ならちょいと休めばすぐ治る。」

 

朗らかに笑う大柄な慶次を、女性の中でもさらに小柄であるは背伸びして注意する。

 

「でも、無茶は禁物ですよ? あれからしばらく戦がないとはいえ、

 今織田と一向宗が緊迫した状態で、いつ戦になってもおかしくないんですから。」

「大丈夫、俺は一向宗なんざ興味ないんでねぇ。」

「…そういう問題じゃなくて…。」

 

は自分の主人ながら時々、こうして諌めたりする。

「大傾奇」と自分で名乗る辺りからして、十分変わり者なのが分かる。

天下に興味などもはやないと宣言する。戦ではなく、「喧嘩」…しかも楽しさを求める。

 

 

「慶次様。」

「ん?何だい?」

「…次の戦は…大きくなるそうですね。」

 

少し俯き、不安そうに呟く

松風がの着物の袖をくわえ、心配そうにしている。

 

…。」

 

ぽんぽん、と慶次の大きな手が、の頭を優しく撫でる。

驚いたように顔を跳ね上げ、大きな瞳がじっと慶次を見つめる。

 

「慶次…様?」

「何を不安になってんだか。俺はこれでも大傾奇、そのへんの甘っちょろい農民武士にゃ

 負けねえってんだ。」

「それは、そうですけど…もし敵軍の大将と見えたら…。」

 

初夏の風が、二人を包むように吹きぬけていった次の瞬間。

 

の身体はふわりと浮き上がった。

 

「ひゃあっ!?」

「いつもの威勢のよさがどこ行っちまったんだかねぇ…なぁ?」

 

松風の上に乗せられたは、俯いても表情が見えてしまう。

慶次はの様子を見て微笑みかけ、の後ろに乗る。

 

「ちいと、遠乗りに付き合ってくれ、。」

「えっ!?ちょっと、慶次様??」

「しっかり捕まって歯を食いしばってないと舌噛むからな?」

 

答えを聞く前に、慶次は馬を走らせる。

は言われた通りに身を固めて手綱を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、着いた着いた。」

 

先ほどのようにまたふわりと宙に浮いた感覚の後、足に砂利の感覚が当たる。

 

「慶次様?一体…。」

 

喋ろうとするの口元に1本、指をあてがう。

 

「いいから、後ろを見てみな。」

「後ろ?」

 

慶次はの肩を掴み、くるりと方向転換させる。

 

 

 

「……っ…わぁ……。」

 

 

 

 

眼下に広がるのは、夕日の燃えるような赤に染まった大草原。

 

風が吹くたび微妙に色合いを変え、光を運んでいく。

 

 

 

 

「…綺麗だろう?」

「…はい……でも…。」

 

何故かとても哀しい場所です、と呟いて、彼女は頬を濡らした。

その様子を見て、慶次は淡々と話し出す。

 

 

 

 

「そうかい、お前さんには分かったか。…ここはな、でっかい戦があった場所だ。

 

 

 何人も…死んだよ…老若問わず。そして、俺は幾人も殺した。」

 

 

 

そこで一息ついて、

 

 

 

「若さ故に出来た非道さ。ただ夢中で人を殺したんだ。

 俺の鉾にゃ今でも、その血と感触が残ってんのさ。消えることなく…ねぇ。

 

 そして、松風の蹄や鞍にも、それは残ったまんまだ。

 だからこそ俺は、遁世したかったけどねぇ…そうもいかねぇご時世だ。」

 

慶次は、小さな肩を震わせて泣きつづけるの頭をそっと撫でて

 

「お前さんを守ってないとなぁ。こんなにか弱いお前さん一人残しては遁世はできんさ。」

「慶次様…?」

 

少し頬を染め、不思議そうにこちらを見上げたを優しく抱きしめる。

 

「えっ!?」

 

「俺の、戦場の相棒は松風だがなぁ、普段の俺の世話はがしてる。

 

 

 …お前さんが俺の相棒…って事さ。」

 

 

 

意味を悟ったはますます顔を染めるが、そっと慶次に身を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

赤く染まっていた草原は徐々に月明かりに衣を変え、しっとりと蒼緑に光り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

ぁ〜!!難産だったぁ…。かなりシメのところを悩みました。慶次さん。

口調が変なのはもう気にしないで下さい。私もう気にしないコトにします。(オイ)

話としてはどうやら京洛の舞…以降のようですよ?(適当)文中の「遁世」は出家し、

完全に俗世と縁切る事です。慶次さんは完全に縁は切ってないようなんで…(ゲーム中は)

つか、彼のコスチュームチェンジは…ねぇ。

 2004・5・23 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

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