うつけ

 NO.07

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弾込めの時間がかなりの負担になるわね…ここは突撃部隊の多い場所だから…。

 そうね、槍兵を配置させて時間を稼ぐ事にしましょう。なるべく接近戦は避けて。」

 

戦場の地図に迷うこと無く次々と戦略を書き込んでいく。

彼女の戦略は俺でも舌を巻く事がある。

 

 

 

雑賀衆の中で唯一、兵法を得意とし伝承してきた家の息女。

女でありながら兵法を自在に使い、武器を携え戦場へも赴く男勝りの少女だ。

 

「それで、俺はどうしたらいいんだい?軍師さんよ。」

「孫市は信長の狙撃に当たってもらいたいの。大将を叩けば兵に混乱が起こる。

 精鋭の兵士を100、護衛につかせるわ。…用意できるかしら。」

 

が兵の管理をしている頭に目線を配ると、無骨な頭は黙って大きく頷いた。

 

「というわけで、それは貴方に一任するわ。」

「了解。」

「あらかじめ間者に抜け道の用意をさせておくから…絶対に見つからないように。

 戦況は貴方の1弾にかかっているの。失敗は許されないわ。

 それに失敗したとあれば、貴方へ本所に控えてる前田・森・そして信長直属の兵たちが

 貴方を殺害しになだれ込んでくる。そうすれば、100の兵なんか無力になる。」

「この俺がそんなヘマをすると思うかい?百発百中の狙撃手を捕まえて言ってくれるね。」

 

俺が肩を竦めてそう言うと、は大仰にため息をついて見せた。

 

「百発百中、ね。その言葉、『一応』信じさせてもらうわ。」

「ちなみに俺は、その弾で一生を守る事も可能なんだが?」

 

俺はの肩を抱き、軽く顎を持って上を向かせる。

 

「…今は会議中なんだけど。」

 

きっと突き付けられるのは合口のように鋭い目線。

 

「嫌だな、軽い戯れじゃないか。」

「それは会議が終わって、他の女性として頂戴。私は守られるのは嫌いだわ。」

 

へいへい、と軽く返事をして、俺は壁に寄りかかる。

周りの兵士達が笑いを堪えているのは一目瞭然。

 

ったく、昔から全く隙が無い。

おかげで口説こうとしても今のようにあっさりかわされるのがオチだ。

 

器量はなかなか、気立てはどうか分からないが、女としての魅力を十分に持ち合わせて

いるにもかかわらず、本人には全くその気がないらしい。

 

「…後は、十分に兵糧を用意しておく事。各詰所に詰めている人数以上のものをお願いね。

 いざとなったら砦に篭城も考えなくてはならないから。」

 

兵たちの了解の声が野太く響く。

 

いつもながらに思う。

この少女のどこに…ここまでの才知と、この屈強な男たちを従わせるまでの資質が

眠っているんだろうか。

 

 

 

この乱世に風雲急に現れた大うつけ、織田信長。

 

信長もまた確かに、人々を惹き付ける資質を持った人物。

だが、それは今までの英雄の資質を持った大名達とは少し異質な資質であった。

 

言うなれば、独裁者的な資質。

今までの、「慕われる」というものを排除した、主従で成り立つ世。

 

それは、俺達の望む天下じゃない。

 

 

 

 

 

だからこそ、この少女の「はったり」にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと…こっちよ。今なら前線の鉄砲隊や僧兵に引きつけられた兵士が本陣から出て、

 本陣は手薄になっているから。」

 

戦の時の緊張感は独特のものがある。殺気も混じったその独特な空気は、

か弱い女性には昏倒してしまうほどの重圧を与える。

はそれを感じさせないほど…いや、逆に戦場に出た時の方が、生き生きして見える。

 

女や、男、…そういった俗物のしがらみを全て超越した、凛とした美しさ。

 

 

 

ああ…これが。

人を魅了する「うつけ」さえも寄せつけない、魅力なのかもしれない。

 

 

 

「あんたまでついてきて平気なのか?」

「私は『精鋭を100』と言ったわ。私を含めず、なんて一言も言っていないもの。」

「そうかい。全く、戦好きのお嬢さんだ。」

 

俺が肩を竦めて冗談混じりにそう言うと、相手の反応は予想外なものが返ってきた。

 

「…好きなんじゃないわ。ただ…この乱世を終わらせたいだけ。

 その為には、戦も辞さない。それだけよ。……戦を望むうつけなんて、必要ないわ。」

 

だから、主君であった信長と、戦うってのか?

 

 

ホント、大したお嬢さんだ。

 

 

 

 

 

「ここが狙撃に最も適した場所よ。弾は一発きり。もし外れても、即座に逃げて頂戴。」

 

 

相手の言葉に黙って頷き、俺は銃を構える。

狙うは信長の心臓。

狙いは的確だったはず。

 

 

キィン、と刀の鞘で弾かれる。

 

「な…!」

 

異変に気付いた兵が、大きく声を張り上げ他の兵を呼び寄せる。

 

 

「ちょっと、外してるじゃないのよ!」

「いいから、話は後だ。当たっても外しても退くんだろ?」

「当たり前よ。こんな所で犬死なんてたまるもんですか!」

 

本当は、一刻を争う事態なのに、俺は何故か余裕さえ感じていた。

馬に跨り、本陣へと退く。

 

「全く、信長ほどのうつけもいないと思っていたけれど、ここにいたわ。」

「酷い言われ様だな。でも、確かにうつけかもしれない。君に惚れてるんだから。」

「……本当にね。」

「返事は?」

「後にして頂戴!」

 

ぐっと手綱を引き馬を駆けさせて先を行く

 

 

 

 

 

さて、本陣ではどれほどのうつけぶりを曝せば、君は俺を見てくれるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

随分長く止まっていたんですが、今日突然神が降臨してきました。(笑)

てゆぅかっ!孫市がニセでゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ…………………。

彼は矢張り苦手なのだと痛感致しました所存に御座います。(何故堅苦しい…?)

まだまだ御題ありますし…頑張りませう。

 2004・9・28 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

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