はんぶんこ

   No.12

 

 

 

 

 

 

 

「小十郎!なんだ、その太刀筋は!そのような遅さではわしには勝てぬぞ!」

 

木刀のぶつかる音が絶えず庭先から聞こえる。

 

「政宗様、私では剣の稽古に足りぬでしょう。」

 

伊達 政宗の懐刀、片倉 小十郎は木刀を下ろし、主君の顔を見る。

 

「仕方がないであろう。今この屋敷に居てわしと手合わせできる者と言えば、

 お前くらいしかおらぬ。」

 

ため息をついて二本の木刀を腰に差し、不機嫌極まりない表情で縁側に座る。

 

が居ないと、落ちつかれませぬか?政宗様。」

「なっ!?バカめ、何を言うか、小十郎!」

 

図星をさされて慌てる正直者の主君を見て、小十郎はこっそり表情を緩める。

 

 

 

 

父を「あのような」形で亡くし、伊達、ひいては奥州の守りとして、

若くして重過ぎる使命を背負った政宗を、「家来」として支えてきた小十郎。

 

本人は目の前の事が多過ぎ、それを片付ける事に心を砕いていて気付いていないだろうが、

実際のところ、真に政宗が安らげる時など皆無だったに違いない。

 

 

 

 

それが、彼女と共に在るだけで、変わるのだ。

 

纏う空気から、全て。

 

 

 

 

 

小十郎が濁酒と先頃陸奥にて上がった、税となる魚の残りをわずかばかりの肴として

盆に載せて運んできた丁度その時。1頭の青馬が門をくぐっていった。

 

 

「帰ってきたようですね。政宗様。」

「ああ。そのようだな。」

 

2人は酒を注ぎあい、飲んでいると、予測していた通りに

 

「梵天丸〜!!」

 

政宗の幼名が玄関口から響いてくる。これにはさすがの政宗も苦笑し、

 

「バカめ、そのようなところから叫ばずとも来て呼べば良いものを。」

 

言葉は乱暴ではあるものの、その顔は喜びに満ちている事は誰の目にも明らかだった。

 

「あぁ!なんで寛いでるかなぁ!?私がこんなに頑張ってきたのに〜!!」

 

二人の様子を見るなりそこへすとんと座って、政宗の盃を奪い取り、酒を喉に流し込む。

 

「ふぅ〜…。」

、女はもう少ししとやかにしておらんか。小十郎、もう一枚盃を持って来い。」

「はい。」

 

小十郎が席を立つ。

一方、政宗の隣で肴をつまみ、は笑いながら、

 

「今更な事言わないで欲しいわね。伝令は忙しいんだから、いちいち細かい事に

 拘ってられないの。」

「仕事が終わればもう少しくつろいでも良かろう。」

「あらら、よっく言うわ。こんなに私を働かせてる張本人が。」

 

ぷう、と頬を膨らませてから、は政宗の頬をつまむ。

 

「何をするっ!」

 

手を払いのける政宗。それを気に留める様子もなく、は政宗の瞳を覗き込む。

 

「梵天丸がもうちょっと余裕を持てば、『私』は楽なのよ?いつも言ってるでしょ?」

 

はっとしてから、政宗は苦笑する。

 

「全く…そうであったな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梵天丸が…失明?」

 

幼い頃、政宗は右の視力を失った。

そのときの事をも政宗もはっきりと思い出せる。

 

「右目だけですが。熱病が瞳にまで及んだのでしょう。梵天丸様の右目は完全に

 見えぬものになっております。」

 

医師の言葉に、は小十郎が止めるのも聞かずに政宗の部屋へと入る。

 

 

「梵天丸!目が、目が見えないなんてウソよね!?」

…。」

 

政宗の瞳が真剣な表情のを捉える。しかし、右目はどこか虚空を見ている。

 

「…どうして?梵天丸、何も悪いコトしてないのよ?」

「生れ落ちた時より、何も見えぬ者はいくらでもおる。私は、片目だけでも残っておる。

 …幸せな方だ。」

「でも…!」

 

泣いて反論しようとするの手を取り、政宗はゆっくり話す。

 

「泣くでない、。お前に泣かれて、私はどうしたら良いのだ?」

「…。」

 

は着物の袖で自分の頬を強く擦り、精一杯の笑顔で言った。

 

「なら、私が梵天丸の右目になる。だから、辛い事も、楽しい事も。全部はんぶんこ。

 …分かった?」

 

梵天丸はそっと笑い、頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以来、はずっと政宗付きの伝令役として仕えている。

今回の奥州平定にも重要な役割を果たした。

 

小十郎が持ってきた新しい盃に酒を注ぎ、は微笑みかける。

 

「それにしても、お疲れ様、梵天丸。奥州平定おめでと。」

「ふん、バカめ。奥州などで満足しておれるか!わしが欲するは天下、それだけだ!」

 

勢い良く盃を置き、演説の如く政宗は喋り出す。

様子を満足げに見たは、珍しく声を小さくして話し始める。

 

「あの…さ?梵天丸。私ね?お願いがあるんだ。」

「ん?何だ。…領地が必要か?」

「ううん…違う…あの…ね。」

 

歯切れの悪いに業を煮やした政宗は、少し声を張り上げ言う。

 

 

、わしの右目となるものなら、わしと同じく声を張り堂々とするが良い!」

 

 

その言葉を聞きはっとするのは、の番だった。真剣な面持ちで、

 

 

 

 

 

 

 

「…私に、梵天丸を『殿』と呼ばせてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、何を言いたいのか飲み込めなかった政宗だが、理解した後の反応は早かった。

酒のためではない、急激な顔色の変化には傍観していた小十郎が笑みを隠せないほどだ。

 

「バカめ、何を急に言い出すのだ、わしはこれより中央に出るというのに…。」

 

照れ隠しに盃に残った酒を全て呷り、政宗はしっかりと告げる。

 

 

「わしは、屋敷の守を頼む事など、せんぞ。それでも良いのか。」

 

 

不器用な言葉には微笑み、政宗に飛びつく。

 

「…当然でございます。私はいつまでも、殿の傍に…。殿の半身としてあるのです。」

 

戸惑い、さ迷っていた政宗の手が、の背をしっかりと抱く。

 

 

 

 

 

 

 

      『辛い事も、楽しい事も。全部はんぶんこ。』

 

 

 

 

 

 

その後の戦には常に、青馬が本陣にあった。

 

 

片目として。半身として。…伴侶として。

 

常に政宗の隣には、の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

政宗ってばむずいって〜の〜〜!!!(書く自分が悪い)今回、小十郎がパパみたい(笑)

いや、好きなんですよ、小十郎。ゲームでは単なるおっさんだけど…私の中では

とてつもない美化を遂げているこの人(苦笑)ああ…何だか梵天丸って書くとKYOの

梵ちゃんが出てきてしまう。(じゃあ書くなよ)何はともあれお題1作完成〜。

 2004・5・8 月堂 亜泉 捧

 

 

 

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