”Gregory Griggs

Gregory Griggs

Had twenty‐seven different wigs

To please the people of the town;

He wore them east, he wore them west;

But he never could tell which he liked best…”

 

お面持ち

 

彼女の透き通る様に高い声が、英語の歌を流暢に奏でてゆく。

 

「…何の歌?」

「ん?MOTHER GOOSE。」

 

ウインクをして悪戯っぽく微笑む

英語は得意だと自称するだけあって、彼女の発音は綺麗だ。

 

「確か、イギリスの童話歌だよね?」

「そう。昔よくお母さんに聞かせてもらっていたから、覚えているんだ。

 その時間が大好きで。でも…私、この曲だけは好きになれなかったの。」

「え?どうして?」

「ん…まあ、色々あってね。でも今は好きだよ。」

「そうなんだ。どういう意味の歌詞?」

 

そう僕が尋ねると、にこっと笑って見せた。

 

「秘密。手塚に聞いてみれば?洋書をあれだけ読んでいるんだし、知っているかもね。

 じゃ、私先生に呼ばれているから、行くね。」

 

踵を返して去る を見送ってから、僕は早速3年1組の教室へと向かった。

 

「マザーグウス?なんでいきなりそんなものを知りたがる。」

「ん、ちょっと から聞いてね。」

「…まあいいだろう。どんな歌だったんだ?」

 

僕はもう一度、彼女の歌った歌を思い出した。

頭の中に残る、綺麗な彼女の声を聞いて。

 

「最初は確か、Gregory Griggs…。」

「分かった。」

「早いね、手塚。さすが。」

「お世辞はどうでもいい。ただ、本はここにない。図書室へ行かなくてはな。」

「図書室にあるんだ。」

「ああ。その歌の題名は…。」

 

 

 

 

 

「『お面持ち』…ね。えーと、p87…。」

 

僕は目次に従って、ページを開く。

まずは英語に目を通し、間違っていない事を確認する。

それから、日本語訳……。

 

 

“グレゴリィ・グリッグスさんは、

グレゴリィ・グリッグスさんは、

二十と七つのお面をお持ちで、

とっかえ、ひっかえ、ひっかえ、とっかえ

街中をやんやと沸き立てる。

東へ行きゃひっかぶり、

西へ行きゃひっかぶり、

それでもどの面が一番お好きか

やっぱりご本人じゃ言いやせん。”

 

「…どうして、この歌が嫌いだなんて。」

 

考えていると、後ろから明るい声で、

 

「ふーじっ。」

「わっ、 …!」

「なんでそんなに驚くのよ、失礼ねーっ!」

「驚くよ、突然話しかけられたら。」

「何いってんの。私さっきからここにいたのに、ゼンッゼン気付かなかったじゃない。」

 

…僕は、よほどこの本に集中していたんだ、なんて気付かされた。

 

「あ、早速読んだんだね。どうだった?」

「え…うん。どうしてこの歌が嫌いなのかな、って。」

「あはは、言ったでしょ?今は好きだよって。

 んとね、昔は、グレゴリィ・グリッグスってなんて卑怯なんだろうって。」

「卑怯?…お面を被って、素顔を出さない事?」

「うん、そう。だれだって、隠したい自分はいる。でも、隠せないから、辛いんだ。

 グレゴリィ・グリッグスは、自分を隠してる。だから卑怯だなって。」

 

いつもは明るくてふざける方が多い だけど、こういう意見を聞くと、

しっかりしているんだなって思う。

 

「じゃあ、好きになった理由は何?」

「それはね、この人も辛いんだなって、分かったから。」

 

そう言うと は、歌の最後の部分を歌い始めた。

 

”But he never could tell which he liked best…”

 

「彼はどのお面が好きかなんて言えないんだよ。もう、どれが本当なのかも、

 分からないのかも知れない。そう思うと、可哀想で…。」

…。」

「っていうのが1つ目の理由。」

「1つ目?」

 

はにこっと微笑んで見せた。さっきの微笑と同じような、少し悪戯っぽい笑みで。

 

「2つ目はね、似ているなって思ったから。」

「似ているって、誰に?」

 

僕の質問には答えずに、 は続ける。

 

「たくさんのお面を持っていて、決して素顔を人に見せない。

 それは強さでもあり、弱さでもある。でもね、どのお面が好きかなんて言えない。

 自分は自分。どんなお面を被っても自分を変えられない事を知ってる。」

 

はそこで息をついて、ふと僕をまっすぐ見た。

 

「そう思うと、私の大好きな人に似ていたから、嫌いになんてなってられなかったの。」

「大好きな…人?」

 

は大げさに呆れたアクションをとってみせる。

 

「君のお面に瞳の穴は開いている?せっかく綺麗な青い瞳に、真実を映さずにいるの?」

 

人のいない静かな図書室。

 

遠くで人の声が聞こえる。

キーン、と耳鳴りでもしそうな静けさ。

 

そんな中でも聞き取りづらいくらいの小さな声で。

 

「グレゴリィ・グリッグスは不二に似ているから、私はこの歌が好きになれたのよ。」

 

僕は眼を見開いて、彼女を見た。

少し頬を染めながらも、僕の瞳を覗きこんで、

 

 

「不二の持っているどのお面より、不二自身が好き。」

 

 

 

は、僕と接する時正直に自分を出してくる。

僕もあれ以来、 と話す時は正直になる。

 

 

 

僕も、素顔のままの が好きだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

フジコです。ご希望に多いし、誕生日も兼ねて。彼は何とはなしに書きやすい。

最近はそんなに嫌いじゃなくなってきているので、まあいいかなぁと。しかし

不二多いなぁ、ウチのHP。かきやすいとなんだかんだ言いつつも書いちゃうんですね。

マザーグウスは母に聞かせてはもらってないですが、文庫本をもらって小さい頃から愛読

してます。これの出典もそこです。ただ、残虐な歌が多いのも確かなので(汗)

黒不二にぴったり(!?)かしら。また今度マザーグウス題材に書こうかなぁ…。

 2003・2・23 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

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