分量をどこで間違えたのか分からない。

 

予想していたものと全然違うもの。

 

 

 

 

それでも、好きな味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レシピ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は女にあるまじき大あくびをしながら、彼の元へメモを持って近寄る。

 

「ねえねえ、次の調理実習の持ち物って?」

「…、ちゃんと先生の話聞いていたか?」

「聞いてたつもり。」

 

盛大なため息が彼の口から漏れる。

 

「いいじゃん、乾がいればわざわざ先生に聞かなくても。」

「普通は逆だよ。」

 

文句を言いながらも自分のノートを開いて見せてくれる。

 

線の細い、少しだけ右上がりの神経質そうな文字。

もう随分、見なれた文字。

 

「乾、真面目に書けばちゃんと読める文字なのにね。」

 

くすっ、と微笑うと、彼はいたって普通の表情で小首を傾げる。

 

「どういう意味だ?」

「だって、走り書きの字とか恐ろしいじゃん。古代文字だよ?」

「普通誰でもそんなものじゃないか?」

「うーん…乾は極端なんだよ。本当に何かいてあるか分からないし。」

「そうか?」

「うん。」

 

ノートを写し終わって、彼に返却する。

何となくその場に残って乾と話し始める。

 

「今日のって、なんか一味足りなかった気がするんだよね〜…何がいけなかったんだろう。

 私、何か入れ忘れたっけかなぁ…。」

 

私が今日の実習ノートを見直してうなる。

 

「みりん。」

「え?」

「みりんが足りなかった。」

 

淡々と、何でもない事のように告げる乾。

 

「ちょっと待ってよ、じゃなんで味見してくれた時に言わなかったの〜?」

「途中で気付くかと思ったんだ。」

「ウソだっ。乾なら私の行動パターンなんてお見通しだもん。

 絶対面白がって教えなかったんでしょ!?」

「分かったか?」

 

分厚いレンズの奥の瞳が細められる。

私は、座ってちょうど高さのいい彼の頭を軽く叩く。

 

「次は絶対に失敗しないんだから。」

「楽しみにしてる。」

「バカにしてるだろーー!」

 

余裕の乾にもう一発食らわせる。と、

 

「お、また痴話喧嘩してるぜ、と乾。」

「誰が痴話喧嘩だそこーっ!」

 

クラスの男子のちゃちゃが入る。私はくるんと振り向いてすぐさま応ずる。

お互いに遊んでるだけだから、すぐ笑い合うんだけど。

 

 

 

私は今まで親しい友達、っていうのはそんなに多くなかった。

人見知りの激しい私は、基本的にクラスに馴染めない事のほうが多かったから。

 

でも、中学3年に上がって、乾と出会って。

 

 

 

 

「…自分が嫌われてるなどと、思わないほうがいいぞ。

 周りの人を皆好きになれば、自然と周りも好意を持ってくるからな。」

 

 

 

 

たった一言。

 

 

 

それだけだった。

 

 

 

でも、それだけで心が軽くなった。自然と顔が綻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お友達になってください。」

 

今考えてみれば、おかしな声のかけ方だと思う。

小学校入学したての子みたいな感じ。

それでも彼は表情を崩さず、真面目な顔をしてレンズの奥からまっすぐ私を見つめてきた。

 

「ああ。昨日既になったと思っていたんだが…まあいいか。よろしく。」

 

 

乾は最良の友達になった。

 

 

今も、「それ」は変わらない…。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、ありがと。役に立った。」

 

軽く礼を言って、自分の席に戻ろうとする。

 

「あ…そうだ。」

「ん?なあに?」

「今日の、けして不味くなかったからいいんじゃないか。」

 

真面目な顔して、そんな事言うもんだから。

ついぽかんと口をあけて固まってしまう。

 

?」

「うん。ありがと。」

 

 

同じ「ありがと」なのに、どうしてさっきよりもドキドキするんだろう。

 

 

 

どこで、加えられたんだろう。

 

この、胸を熱くさせるスパイスを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ここでベイリーフを加えて…。」

 

乾から写させてもらったメモを見ながら、順調に材料を加えていく。

ひと煮立ちしたところで、小皿へ載せて調理台へ。

 

「はい、乾。味見よろしく。」

「うん。」

 

ちょっと緊張しながら感想を待つ。

 

「…美味い。」

「ホント!?よっし!今回頑張っちゃったもんね!」

「どうしたんだ?いきなり。」

 

私は、にっこり笑ってみせる。

 

「料理は普通の調味料のほかにも色々あって美味しくなるのっ。」

 

一瞬呆気にとられた後、ふっ、と笑う乾。

 

「なるほど。俺もしてやられたよ。」

 

いつも私がやるように、乾は私の頭を軽く叩く。

 

 

あの時、彼がくれたもの。

 

 

 

全然、予想だにしなかった調味料。

 

 

 

 

それは、とってもいい味を出したみたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

駄文上等!(殴)何がしたかったんだか。最初部活シリーズにしようと思ったんですけど、

青学に家庭部がない事が判明(汗)というわけでピンです。王道のネタですね。はい。

例のとろけていることが売りのカレールーの宣伝(バレバレ)を見て思いついた物(笑)

しかし、思いつきとはいえ酷いものをあげたもんだ。お墓場行きかな(苦笑)

 

 2004・4・4 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

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