胸に沁みる雨と…

 

 

冷え切った身体は、少しの温もりに触れただけで、熱を帯びた。

ふわふわとして、満足感のある、不思議な感覚。

 

「…あーあ。」

 

傘もささず道を歩く。

服はずっしりと重いし靴の中は水が入り過ぎて、歩くたびにちゃぷちゃぷ音がする。

 

そんなちっぽけな事、どうでもよかった。

 

 

パックリと割れた傷口からは、「感情すべて」が流れ出ている。

 

 

「フラレちゃった。」

 

呟いて、自覚して。否定する気もない。

否定してくれる人もいない。

もう、それもどうだっていい。

 

…あの人にフラれた時…私は泣いたっけ?

 

あー…もう、こんなに濡れそぼれば、どっちだって同じだ。

 

「…面倒。」

 

私は遂に歩くのさえ億劫になって、その場に座り込む。

どうせ夜になれば人通りのない住宅街。

 

「はあ。」

「何やってんだ、そんなとこで。」

「!!」

 

誰かが、確実に私へ話し掛けている。よくよく目をこらすと、

 

「…宍戸…?」

「やっぱかよ。んなトコで傘もささねーでうずくまってっからゴミかと思ったぜ。」

「…ふうん」

「…何だよ、いつもならつっかかってくるくせに。どっか具合でも悪いのか?」

 

顔を覗き込んでくる宍戸。私は黙って首を横にふる。

宍戸は肩を竦めて、

「よくわかんねぇな。まあ、理由はきかねぇよ。とにかく、そのままじゃ風邪引くぞ?」

私の手を取る宍戸。

 

「どこいくのよ。」

「俺ん家だよ。この近くだからな。ほら、行くぞ。」

 

強引に腕を引っ張られる。

抵抗しなかったのは、どうでもよくなってたから。

彼の手がひんやりと冷た過ぎて、逆にそれが、暖かく感じただなんて事じゃなく…。

 

 

 

 

 

「ったくよー、お前バカ?」

「……バカですよーだ。」

 

お風呂と着替えを借りて、ホットミルクを飲む。

それらはみんな宍戸が文句を言いつつも用意してくれたものだ。

 

「だいたいな、俺が見つけなかったらどうするつもりだったんだよ。」

「知らないわよ。私はほっといてもらっても構わなかったんだから。」

「嘘つくなよ。…捨てられた犬みたいな瞳してたくせに。」

 

「…あんたね、人を犬扱い?」

「犬のほうがなんかよりよっぽど賢いぜ?」

「なっ!!」

「犬のほうが素直に、助けを求めるもんだ。」

 

まっすぐに宍戸の目が私を射抜く。

その強い視線に、私は耐えられなくて目をそらす。

 

「…そうだ、お前、甘いもん好きだよな?」

「へ?…あ…うん。」

「ケーキ食うか?」

「ケーキ?ホントにいいの?」

 

声色の変わる私を見て、宍戸は笑いながら、

 

「構わねぇよ。俺のバースディケーキだ。」

「え?宍戸って今日誕生日なの?」

「ああ。もっとも、俺はどうでもいいって思うけどな。両親は共働きで、誕生日だから

 って何があるわけでもねーし。」

「…そうなんだ。」

「何暗くなってんだよ。」

「…私の彼も、今日が誕生日だったの。」

 

それを聞いて、宍戸は悟ったみたいだ。

小さくため息をついてから、ケーキを持ってきた。

 

「お前、俺の前でそいつの誕生日を祝うんじゃねぇぞ?俺のことだけ見てろ。」

 

…。

 

 

なに、それ、どう言う意味よ…。

 

 

 

言いたいのに、口は貝のように堅く閉じている。

 

それより、瞳。

 

宍戸から、目が離せない。

 

傷口から、また「何か」が入りこむ。

それは、とても熱いもの。

 

 

「おい、食べねえのかよ?」

「え、あ、食べる。」

「くっ、変なやつ。」

「わっ、悪かったわね!!」

 

思わずいつものように反論すると、宍戸は嬉しそうに笑って、

 

「おっ、やっといつものお前らしい言葉が出たな。」

 

 

 

 

――――――ドキン

 

 

 

 

 

こいつって、こんなにカッコよかったっけ?

…気のせいよ、きっと。

失恋して…雨が降ってて…少し感傷的になってるからよ…。

 

「おめでと、宍戸。」

「ああ。」

 

軽い祝いの台詞を言ってから、私は甘いケーキを口にする。

 

そして、ジュースを何度もおかわりした。

 

 

それは、部屋の中が暑いし、喉が乾いていただけ。

 

 

心の動揺を抑えるため、なんかじゃない…。

 

 

 

「俺に感謝しろよ?」

「…誰が。」

 

 

誰が…こんなやつ…好きになるもんか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

うわ…ビミョ…。宍戸のバースディドリなのに…こんなにも微妙になるとは…。

トップバッターがこれってどうなのよ、ねえ、宍戸?(聞くな)本当はこれ、観月用

だったんだけどなー。そのせいかな。微妙な理由。そのため、題も緊急変更(爆笑)

多分、体調良くないから、上手く行かなかったんだ。そうだ。きっとそうだ(暗示)

主人公がかなり暗いやつっぽいですね…おかしいなぁ…。苦情、大覚悟(汗)

 2003・9・29 月堂 亜泉 捧

 

 

 

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