もたつく君の指が、何だか可愛くて。
僕はいつのまにか、両手で君の手を、握り締めていた。
左右
「よっ。」
驚いた顔を見せた後、ふう、と力を抜く彼を見るのが好きだ。
「なんだ、お前か。」
「なんだ、って酷いなぁ。せっかく電車賃かけてここまでお迎えに来たのに。」
「だったら無理して来なきゃいいじゃねぇか。」
「それ、本気で言ってるの?」
言いながら近寄って、僕の頭を右手でぽんぽん叩く。
不器用な彼が唯一見せてくれる、愛情表現の一つ。
「ばーか。」
「僕、ばかじゃないもん。」
軽口を言いながら、今はもう歩き慣れた道を行く。
かたんかたんと、彼のバックからラケットの擦れる音がする。
ほんの少しだけ、その音に耳をすます。
「そういや。お前まだ直ってないのな。」
「何が?」
僕が顔を上げると、ぴっと僕の鼻の頭を指差す。
「一人称。まだ僕って言ってるぞ?」
「う〜…気をつけてるつもりなんだけどな。いつのまにか僕になってきちゃうんだよね。」
いつごろから「僕」と呼び出したのかは、あんまり覚えていない。
でも、理由はよく覚えている。
裕太と一緒に、遊びたかったから。
小さい頃、裕太は結構「生意気」って言われていじめられてて、
周助くんと一緒に遊んでいることが多かった。
もちろん由美子ちゃんもいたけど、一緒に遊ぶ、って感じじゃなかったから。
だから、遊びも男の子のものばかりだった。
小さな頭で一生懸命考えて、考えて、出た結論。
『ねえ、僕も一緒に遊んでいい?』
「…でね、部屋の整理をしたら出てきたんだ。」
「何が?」
「昔の写真。あの頃って、男の子に見間違えても仕方ないようなかっこしてたなぁって、
見直してみて本当に思っちゃった。」
彼も思い出して、くっと笑う。
「確かに。おばさんに教えてもらうまで気がつかなかったもんな。」
「小学校上がったときだよね。赤いランドセルだったから、裕太が不思議がったの。」
「そうそう。知った時は驚いたけど、よくよく考えたら思い当たる節はあったんだよな。」
「え?どこが?」
「お前の提案する遊びって、だいたい女の子の遊びだったじゃねぇか。」
ままごとやら、花摘みに行くとか、手遊びとか。
言われるたびに、それははじけて思い出が広がる。
それがくすぐったくて、顔が綻んでいく。
「そうだねぇ。よく気がつかなかったよね。」
「兄貴は気付いてたみたいだけどな。でも、女にしてはよくついて来れたよな。」
「昆虫取りとか?別に虫平気だったからね〜。それに、裕太と一緒なら恐くなかったし。」
無意識に言った台詞に、あとからしまったと思う事もよくある。
でも、裕太ならいいや、とも思う事もよくある。
「な、何言ってんだよ。」
「あはは。」
照れ笑いが、頬を色づかせる。
ほんの少しだけ、裕太が足を速める。
「ねえ、覚えてる?手遊びの時。最初は裕太が左利きだって知らなくて、戸惑ったよね。」
「ああ〜、随分前の話な。」
「そのあともさ、初めて、手を繋いだ時。」
もたつく君の手が愛しかった。
私を求めてくれる手が。
「あれは…。」
「あれは?」
「…気恥ずかしかっただけだ。」
ぷい、とそっぽを向く。
でも、その横顔を夕日が照らして、赤くなっている。
そう、夕日が照らすから。
「ね、手繋ごうよ。」
「は!?」
「いいじゃん。ほら。」
僕から手を出す。
別にキスとかを求めているわけじゃないのに、照れ屋な彼はカリカリと頭を掻く。
もたつく君の指が、何だか可愛くて。
僕はいつのまにか、両手で君の左手を、握り締めていた。
「っ…。」
「…ゆっくり、歩こ?」
僕らが小さかったあの頃とは、お互いに違う手の感触。
そして、小さかったあの頃とは、違う想いで。
今君と、手を繋ぐ。
「私、裕太が大好きだよ。」
ちゃんと、「私」の気持ちを伝えると、彼は右手で、私の頭をぽんぽんと叩いた。
それは、特別な合図。
「好きだ」の、合図。
========================================
後足掻き
完成まで45分!(爆)その他もろもろを合計しても1時間のスピードドリですね。
……だっ、駄文だー!!!!!(叫)何だろ、これ。(苦笑)一応、左利きの場合、
もたつく事が多い事を書きたかったんですよ。それを恋愛に引っ掛けて…。
スイマセン、書ききれてません(汗)ヒロインの一人称が僕なのは何となくです。
これ、最初は周裕にしようかと考えてた幻の一品(笑)
2004・3・30 月堂 亜泉 捧
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||