Scenario・Ideorogie

脚本的観念形態

 

 

 

 

「あ、シナリオ君だ。」

 

今日もまた、彼女は図書室にいた。いつもの席に、いつもの様に。

 

「シナリオ君と呼ぶのはやめてください。僕には観月はじめという名があるんですから。」

「ああ、うん。分ってるけどさ。じゃあ、観月はじめ君。」

「フルネームもやめてください。気持ち悪いです。」

「なんなのよ、注文多いなぁっ。じゃ、はじめ君、こんにちは。」

「はい。」

「はいって…挨拶しろよ。」

「ちゃんと返事しましたよ?」

「―――…もういい。」

 

彼女と会ったのは、半年前の事。

もう半年…たった半年?

 

「こんにちは、観月はじめ君。」

 

――見かけない人だ。…僕のデーターには無い。

僕はとりあえず一礼をする。

 

「やっぱり、人とバリア作ってるなぁ…うーん?どうしてかな。シナリオを作るためには

 人と不必要に関わらず、データと関わった方がいいって事かな?」

 

正直、初対面の人にここまで言われると何だか無性に苛立つ。

 

「お前は何なんだって顔してるねー?私の名前は 。ちなみに3年ダヨ。」

 

同じ3年とは言え、聖ルドルフは私立。1学年300人は下らない。

いくら僕でも、全員の名前や顔まで覚えているわけじゃない。

 

「あの…用件はなんですか?」

「何だろ。そうだね…気付いて欲しかった、と思う。」

 

強く、印象に残る人だった。

美人というわけでもない。

なのに、彼女の姿ははっきりと、僕の瞼の裏に焼きついた。

 

「あ、また逢ったね。今日はついてるのかな?私。」

 

図書室の机は、窓際にカウンター席のような形で設けられている。右から2番目の席。

彼女はそこに座っていた。

 

「さあ…。どうなんでしょうね。」

「冷たいなぁ。まあ、君にとっちゃ今日が初対面だからかもね。安心して、

 この時間、いっつも私ここにいるから。」

 

そうだっただろうか。

この時間に僕は幾度か訪れたことはあるのに。

 

…気付かなかった、と言うのは何となく気がひけた。

 

 

「気付かなかったんでしょ?」

 

まるで僕の心を言い当てられたような気がして、一瞬心臓が竦む。

 

「気にしなくてもいいよ。別に。今日をきっかけにして、忘れてくれなければ。

 じゃあね、また。」

 

それ以来、図書室に入ると必ず、すぐに右側から2番目の席を見てしまうようになった。

そこに彼女がいないという日は、まず無かった。

僕の足音にふっと振り向き、

 

「今日も来たんだ。」

「ええ。貴女は、この図書館の本を読み尽くすぐらいですね。」

「ふふ…本、好きだからね。本に囲まれてるだけで、幸せなんだよね。独特なインクの

 匂いとか、紙の触り心地とか…。私いつか、本に囲まれて暮らしたいもんね。

 図書館に住みたいとか、小さい頃本気で思ったもん。」

 

僕にとって、さんとの時間は何となく、肩の力が抜ける時間となっていた。

 

 

 

ぴたり、と文字を書く彼女の手が止まる。

 

「あっ、また字間違えた。今日は誤字が多いなぁ…。」

 

彼女はいつも、本を読んでいない時はたいていファイルノートと筆記具、そして何冊かの

本と辞書を手元において、何かを書いている。

 

「ね、はじめ君は何を書いているの?」

 

僕が今質問しようとした言葉で、彼女は尋ねてきた。

 

「…データの整理です。そう言う貴女は、何を書いているんです?」

「シナリオよ。」

「え?」

「はじめ君が書くような、データに基づく“勝利の為”のシナリオじゃないわ。

 演劇のためのシナリオ、だけど。」

「はあ。」

 

知り合ってから彼女のデータも取っておいた僕は、彼女が演劇部員だという事は

知っていた。

 

「ま、ついでに自分の小説書いたりね。」

「小説ですか。それは楽しいでしょうね。自分の好きなキャラクターを、自由に動かせ

 るんですから。」

 

僕のシナリオなんか、個性の強すぎる部員のせいでいつも好きに動かせませんからね。

まあ、無理矢理にでも好きに動かしますけど…んふっ。

 

「まー、楽しいけど。キャラは自由に動かせないからね。」

「なぜです?作者は絶対の権利を持ってるじゃないんですか?」

「そりゃ持ってるさ。でもね、それを行使したからって、いいものが出来上がるわけ

 じゃないよ。裏目に出る事だって沢山ある。…というか、キャラが勝手に動いてくし。」

「勝手に動く?そんな訳ないでしょう?」

「そんな訳なくないの。キャラを生むのは確かに私の役目。でも、それは基本的な事を

 決めるだけ。基礎の性格や、外見とかね。それに基づいて、キャラは自分で考え、

 動いて行く。私はそれを書きとめるだけ。」

「…理解できませんね。」

 

思っていたことをつい口に出してしまう。

僕には、全く理解できない事だったから。

 

「だろうね。多分、『今』のはじめ君には分かんないと思う。

 ―――…一瞬一瞬で、そのキャラが成長してゆくのを。そう、たった一言でも、

 そのキャラは成長していく。一瞬前の台詞より、次の台詞は1歩…ううん、半歩かも

 しれないけれど、確実に成長しているの。」

 

一瞬前よりも、成長している…?

 

ならば彼女は、こうしている間にも成長しているんだろうか。

かくいう僕も、こうして他愛も無い事をぼんやり考えていても、成長しているんだろうか。

 

 

 

彼女が言うように、『今』の僕…『その時』の僕には、分かりようも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

今年最後はやっぱり観月で締めたいと思います。なにせ、今年は観月三昧だったので。

観月イヤー(自分の中で勝手に決めた。)の締めくくりとして随分前から草稿があった

シナリオ関係の話を持ってきちゃいました☆え?なに?これは締まってないって?

ふふっ。だってこれ続きものだもの〜☆(キモい)新年はこれの続きで!(新年早々観月)

三箇日明けたら多分UPできると思います☆(予定は未定☆/汗)さーて、正月太り

でもしますかね☆(撲殺☆)

 2002・12・31 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

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