――――…そう、たった一言でも、そのキャラは成長していく。

 一瞬前の台詞より、次の台詞は1歩…ううん、半歩かもしれないけれど、

 確実に成長しているの。…――――

 

 

Scenario・Ideologie

脚本的観念形態

 

 

 

「…貴女の言葉が、こんなにも重く響くなんて…性質が悪いですね。」

 

茶化して言うものの、苛立ちや怒り、後悔は少しも治まってくれはしなかった。

 

がちっ、と鈍い音がする。

音のしたところを見ると、無残に剥がれた爪と、贋物みたいな赤い血が流れている。

 

こんなに屈辱的な事は無かった。

今まで、『結果が全て』の教育を受けてきた僕。

そして、それら全てにいつも『完璧』な結果を打ち出してきた僕。

 

そしてそれらは全て『完璧』に壊された。

 

こんな僕を見たら、貴女は何と言うのでしょう。

 

お似合いの結果だと、笑うのですか?

可哀想にと、慰めてくれるのですか?

 

 

「…さん…。」

 

翌日。

僕は図書室の右から2番目の席に彼女を見つけられなかった。

椅子を引いて、その席に座る。

 

 

 

 

 

 

 

「…はじめ君てさ、どうしてシナリオを書き始めたの?」

「…いつの頃からでしょうね。たしか、『敷かれたレール』という小説を読んでからだと

 思いますけど。知っていますか?」

 

本の虫である貴女なら、知らないはずはないでしょうけどね。

 

「うん、知っているよ。敷かれたレールを走るような人生だった主人公が、自分の未来の

 人生を台本にして書き始める、すると自分の回りで、全く同じ事が起こるっていう

 小説でしょ?作者名はちょっと忘れたけど。」

「その小説で、僕は感銘を受けたんです。確かに、周りで同じ事が起こるのは凄い事だ

 と思いますけど、僕はそれよりその主人公の観察力に驚いたんですよ。いくら

 『敷いたレールを走るような人生』とはいえ、あそこまでしっかりとした話が書ける

 なんて…まあ、小説だから当たり前なんですけどね。」

 

彼女は自分の本に目を戻し、

 

「作者は、そこで反乱を起こさせているのよね。主人公の『敷かれたレールを走る』

 という人生から、『敷いたレールを走らせる』という人生に。そこが面白いとは

 思ったけれどね。…はじめ君も、『そう』なの?」

「…どうなんでしょうね。」

 

彼女との会話は、無駄な事が無い。

頭の回転が速い分、僕の考えをすっと処理し、自分の考えを端的に述べる。

 

…『そう』だったかどうかは分からないけれど、似たようなものかもしれない。

 

「どちらでも、私には関係ない事ね。私が知っているのは『今』のはじめ君だから。

 過去も未来も、どうでもいいのよねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

さん…。」

 

貴女の席じゃないですか、ここは。

どうして、一番居て欲しい時に、居てくれないんですか?

今すぐ来て、僕に言ってください。

 

慰めでもなく、

呆れでもなく、

怒りでもなく、

 

客観的で、どこか温かい、貴女だけの言葉を。

 

 

「…そこじゃないと、椅子の高さ合わないから嫌なんだけど。」

「っ…!」

 

いつものファイルノートに筆記具、辞書に本。

いつもの貴女が、そこにいた。

 

「何?そんな驚いた目して。零れちゃうよ?」

「……。」

「おーい、そこは零れませんよって言うとこでしょ?」

 

僕は、何も考えずに彼女を抱きしめた。

きつく抱きしめる僕を拒むわけでもなく、抱きしめ返すでもなく、

 

「ちょい、待って。荷物置かせてよ。意外と重いんだから。」

「嫌です。」

「…だだっこがいるよ…。珍しいね、はじめ君…」

「知っているでしょう?僕が負けた事。」

 

遮り、噛みつく様に喋る僕にも、彼女の口調も態度も変わりはしなかった。

 

「うん、そうらしいね。でも、言ったでしょ?過去も未来も私には関係ないって。

 私の眼中には『今』しかないの。まあ、『今』のはじめ君が慰めて欲しいとか、そう

 言うんだったら私はそうしましょう?でもま、必要はないと思うけど?」

「…。」

「呼び捨てかい。まあいいけど。で、何?」

 

どうして、そんなにも、貴女は欲しい言葉をくれるんですか?

…いえ、欲しいと言うよりも、的確な言葉を。

僕の気持ちを、察するように。

 

シナリオでも、あるんですか?

 

「…好きです。」

 

勝手に紡がれる言葉。

とどめようもない気持ちは、そんな形で溢れ出した。

 

「いきなりだね。私は『今』しか保証しないよ?」

「それでもいいです。ずっと、『今』を続けていけばいいんですから。」

「続ける…ね。」

 

彼女はにっこりと笑った。

思えば、の満面の笑みは、はじめて見た気がする。

 

「やっと、私の『今』に辿りついたね。」

「…?」

「初めて出会ったその時から、私は好きだったよ。…でも、そんな事は関係ない。」

 

 

 

「「…『今』あなたが好きだから。」」

 

 

 

 

 

 

「どうしてそんなに、『今』に拘るのか…やっと分かりましたよ。」

 

は右から2番目。僕は右から1番目の席に座って。

いつもの通り、視線を合わせることもなく話し始める。

 

「理解遅いね、珍しく。」

 

辞書を引きながら微笑する

 

「そうですね。…でも、身に染みて分かった事ですから。」

 

僕はノートパソコンを取り出して、またシナリオを書きだした。

 

「…これほど、難しいシナリオもありませんね…。」

「…事実は小説より奇なり、って?」

「そういう事ですかね。」

 

 

一瞬前より、僕は成長している。

今なら、確信できる。

 

…少し違いますか。

 

一瞬前より、「僕ら」は成長している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

年初めに観月はじめ!!(シャレかい。)大晦日のドリム、続きでございます。ヒロイン何だか

不思議少女…(汗)私の本性に似ている節あり。どうも抽象的になり過ぎましたかね?自分が

楽しんでるだけのよーな…。(ダメダメだ!!)えと、じゃあ、分からない方のために。

これはコンソレーション敗退後のお話です。大体分かる?あと、ヒロインが『今』に拘る理由は

一番最初の台詞による考えからですね。ある意味観月と同じですね、彼女も。観月も結果、という一瞬、

『今』を大切にする人ですからね。あと、本文に出てくる小説は実在しませんので、お探しにならない

よう。(しないと思いますが。)ってか…年初めからこんなの…頑張りマ〜ス…。

  2003・1・1 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

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