「――ドアが閉まります。ご注意ください。」
アナウンスの声が聞こえ、ドアはニ・三度開閉してからやっと閉まった。
詰め込めるだけの人間を詰め込んだ飽和状態の車体が、
重そうな音を立ててホ−ムから滑り出す。
―――乗る筈だった電車が、目の前を流れていった。
僕達はシンクロする
駅に着いた時、既にホ−ムは人で溢れていて、
電車が来たと同時に人々は我先にとその四角い車体に収まっていった。
特に急いで帰る用事も無かった俺は、その電車を見送る事にする。
自分一人が乗って、わざわざあの車内の不快指数を上げることも無い。
そう、思ったからだ。
幸い、次の電車までの間隔もそれ程長くは無かった。
先程とは打って変わって、静まり返ったホ−ムには今の所俺一人しかいない。
ふとガラ空きのイスが目に入り、電車が来るまでのしばしの間腰掛ける事にする。
誰か来たらすぐに退くつもりだった。が、
一旦座ってしまうと体は石の様に重くなり、
部活で得た疲労感からイスに埋まって行く様な気さえした。
不覚にもうつらうつらし始めた時だ。
階段を駆け降りてくる足音が聞こえて、俺は現世に引き戻された。
「あ〜!電車無いし!やっぱ行っちゃったかぁ…。」
足音の主は、ホ−ムに飛び込んで来るなりそう言った。
乱した息を必至に整えている。
その声に聞き覚えがあったので、俺はそちらを振り向いた。
やはり、と思う。
「、お前は自転車通学じゃなかったか?」
話し掛けると、は驚いた表情をしてこちらを見た。
「え…て、手塚っ!?さっきのに乗ったんじゃなかったの!?」
「ああ。かなり混雑していたからな。」
「そう…だったんだ…。」
そっかそっか…と呟きながらはこちらに歩み寄って来た。
俺の横に来て止まる。
「ここ、座ってもいいかな?」
「構わないが。」
「じゃ、失礼して。」
よっこいしょ、と、およそ若者らしく無い事を言いながら彼女は隣に座る。
風に乗って、少し良い香りがした。
シャンプーか何かだろうか?
ふわりと広がったその香りは、とても好ましく思えた。
「ふぁ―、足が生き返るよ。」
「走ってきたのか?自転車はどうした。」
「昨日パンクしちゃったもんでね。今日は電車なの。」
「それは…大変だな。」
「でも無いよ、雨の日とかはいつも電車だし。」
「ならいいが…。」
「いいんです。お陰で今日は部活以上にイイ運動できたしね。」
「お前は普段走っていないのだし、丁度いいんじゃないか?」
「そうかもねー。でも、マネ−ジャ−業だって結構ハ−ドなのよ?」
が言ったとおり、彼女は俺が部長を務める男子テニス部のマネ−ジャ−をしている。
コ−ト整備から部員への気遣い等、
(
たまにその部員とふざける事を差し引いても)彼女はよく働いてくれていた。
必然的に話す事の多い間柄だったのと共に、
彼女には話しやすい雰囲気というものがあったので、
今や彼女は俺が気兼ねなく話すことが出来る数少ない女子の一人だった。
……更に、俺は、は普通の女子とは少し違うと思っている。
俺に話しかけてくる女子達は何故か皆緊張した面持ちで、
こちらとしても一線引いたような受け答えしか出来ない事が多い。
はそうではなかった。
彼女には壁を感じない。
乗せられる様に話し出して、いつの間にか会話になっているのだ。
そういう時を俺は楽しく思うし、不思議だとも感じていた。
今もそうだ。
内容は明日の部活や来週のテストの事といった他の者とも話す様なものだったが、、
その相手がであると数段楽しいものに感じる。
彼女のテンポの良い話口のせいだろうか?
それとも、俺が―――…
「じゃ、今度その問題教えてね。部室に問題集持ってくから。」
「ああ。お前が忘れていなかったらな。」
「忘れませんよー。」
は拗ねたようにして、少し俺を睨んだ。
その様子に思わず笑みがこぼれる。
「あ!笑った!」
「何?」
いきなり大声を出されたので、俺は驚いた。
「今、笑ったでしょ!?」
「あ、ああ…。」
「やっぱり。やー、いいもん見たわ。ありがと。」
「……なぜ礼を言われる?」
「だって…ねぇ?手塚の笑顔はレア物だから。」
「レア物…。」
「そ。手塚ってあんまり笑わないもんだから、話してると緊張しちゃうんだよね。」
「そう…なのか?」
言われて、顔には出さなかったが俺はショックを受けていた。
なぜ他の女子達があれ程気を使って話すのか、謎が解けた。
原因は俺の仏頂面にあったのだ。
しかし、それよりもが彼女達と同じ様に感じていたというコトに関して、
ショックだった。
少し遠くから踏み切りの音が聞こえて来る。
どうやら列車が来たらしい。
カンカンという規則的な音に、いつの間にか心臓の音がシンクロしていた。
嫌な感じだ。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、付け加えるように彼女が言った。
「まぁ私の場合はさ、好きな人なわけだから尚更なんだけど。」
さらりと、注意して聞かなければ考えずに流してしまいそうな程自然に、
彼女はそう言った。
「な…」
「電車来たね。じゃ、また明日!」
どうしていいか分からない俺を残して、は今滑り込んできた列車の先端まで走って行ってしまった。
ドアが開いて、
彼女が乗り込んで、
ドアが閉まって、
車輪がレールの上を滑り出す。
ああ、これでもう一本待たなくてはならなくなったな、とぼんやり思った。
電車は行ってしまって、踏み切りの音は大分前に消えていたが、
そのリズムだけは俺の心臓に残った。
早鐘のように鳴るとはこの事だ。
イスに座りなおし、俺は考える。
明日、彼女になんと返そう。
いわゆる『色好い返事』である事に間違いは無い。
ただ、次に彼女を前にした時、俺は
" 緊張 "するのだろうなと思うと、
少し、笑えた。
HAPPY
END v
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アトガキ
あらゆる意味で長くなってしまって申し訳ありません。
手塚への愛故、です。(苦笑)
初心に返って中学生の爽やかな恋を目指しました。
手塚を中学生と思って書く辺りが間違ってますか?――そうですか…。
手塚夢は密かにヒロインは一貫してるので、今回は告白編というコトになりますね。
枉賀の手塚夢
(への情熱)を知ってもらいたいと思い、敢えてFREEにコレを書きました。========================================
お礼参り(あれ?)
枉賀ちゃんのところから攫って来た手塚です。もう、可愛いんだから、手塚ってば☆(殴)
枉賀ちゃんの文は大好きです。とても読みやすいのに心にそっと残る、花の種みたいな…。
読んだ人の中にその種は埋まっていって、いつかふとした瞬間に花を咲かせる。
そんなたおやかで、薫り高い作品が多いので気に入っているのです☆ぜひ枉賀ちゃんの
HPに寄ってみてください☆さて、私も頑張りましょう。枉賀ちゃんとは違う作風で、
自らのスタイルを追及して。
2003・6・30 月堂 亜泉
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