「死にたくないよ…。」

 

そう呟いた彼女の言葉は、僕にとって重すぎる言葉だった。

 

 

 

GENUIN・RELEASE

 

 

 

地が、ふうっと輪郭を失う。

全ての物は遠く霞み、意識が酩酊するみたいだ。

何度、この感覚を味わっただろう。

数えてなどいられない。

 

あの日から、何十年経ったか分からないのだから。

 

!」

「…ん、大丈夫だよ、…。」

 

僕の体を支えるために回された細く白い手をやんわり拒否する。

 

「本当に大丈夫なの?このところしょっちゅうだけど…。」

「うん、本当に大丈夫だから。…それより、お腹減っちゃったんだけど。」

「今、作ってるわ。ちょっと待っててね。」

 

彼女が完全に台所へ入ったのを見て、ホッと息をつく。

そして、左手で右手をぎゅっと抑えつける。

 

そこにある「モノ」が黒く疼くのが感じられる。

 

呪いの紋章…。「生と死を司る紋章」

 

 

通称―――ソウルイーター……。

 

 

 

 

 

「もしもーし、大丈夫ですかー??」

「…ここは?」

「サラの村ですよ。ビックリしましたよー、街道を歩いていたらいきなり倒れているん

 ですもの。でもよかった、生きてて。」

「…何も無かった?」

「はい?」

「…何もないなら、いいんだけど…。」

 

ソウルイーターは所有者、つまり僕に一番近しい物の魂を奪う。

初対面の彼女の魂を奪うかどうかは分からないけれど、疑うのも仕方ない。

 

「そういえば。私の名前は。…貴方は?」

 

名乗ったのはこれが何回目だろう。

…どうでもいいや、名前なんて…。

いつかは、別れゆく運命にあるのだから。

 

。」

 

 

 

 

?」

 

彼女の心配そうな声が、ふわりと僕を包む。

 

「ん?」

「寂しそうだった気がしたの。」

「大丈夫だよ、何でもない。」

 

そう言うと、は少し頬を膨らませて、

 

「またそれだわ。『大丈夫』『何でもない』って。そんなに私、信用ない?」

「そうじゃないよ、本当にの事は信じてる。」

 

…信じているけれど、この事は言えない。

言ってしまったら、不幸になるだけ。

僕も、も。

 

 

いい匂いを漂わせる食事も、僕の味覚は反応しなかった。

 

いつかは出ていかなくては、ならない。

と親しくなればなるほど、この紋章はの魂を欲する。

 

最近頻繁に起こる眩暈は、ソウルイーターが魂を食らいたくて脈動している証拠。

 

分かれようと思えば思うほど、彼女が愛しくなってて仕方がない。

 

ガチャン!と大きな音がした。

 

!?」

…。」

「どうしたんだい!?」

「…苦しい…苦しいよぉ…。」

「ちょっと待ってて…医者を呼んでくる!」

 

彼女は両親に死に別れ、唯一の肉親である叔母は今遠くへ出ている。

僕は急いで、村に一人しかいない医者の家のドアを叩いた。

 

「…心臓の方だな。」

 

医者は顔を顰めて、そう言い放った。

薬をうち、容態が安定したは隣の部屋で、眠りについている。

 

「…心臓…。」

「うむ。今は辛うじてよいが…。もう一度発作が来たら危ないだろうな…。」

「そんな…。」

 

彼女はいつも元気だった。

その明るい元気は、疲れ切った僕の心を、少しずつ暖かくしてくれていたのに。

それを、失うなんて…。

 

「……。」

 

か細く、僕の名を呼ぶ

いつもの暖かく、優しいの声とは程遠かった。

 

?…大丈夫?」

「…大丈夫、とは言えないわ…私は、みたいに強くないから…。」

「…。」

「死にたくないよ…。」

 

そう呟いた彼女の言葉は、僕にとって重すぎる言葉だった。

 

「ごめんよ、。」

「…どうして、が謝るの?」

 

僕には、君の命を救う方法はない。

けど…。

 

「共にどこまでも、いつまでも生きる覚悟はある?」

「…。」

「…僕は、その術を知ってる。でも、二人とも悲しむ。」

。」

 

はそっと起き上がって、僕の方をまっすぐに見た。

そう言えば、を真正面から見ることは少なかったかもしれない。

自分を隠す事があまりにも多かったから。

の瞳はこんな時でも美しく輝いていて、魅入ってしまうくらいだった。

その瞳は近づいてきて、

 

僕らの唇はそっと重なった。

 

少しだけ熱を帯びたの唇は震えていたけれど、

僕にはの想いが、手に取る様に分かった。

 

…好きよ。」

「…、好きだよ。」

 

二人で、誓いを立てる。

二人で、禁忌の言葉を述べる。

 

僕の右手から、手袋では抑えきれない黒い光が出て、それはを包みこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は大漁かな。」

 

釣り上げた魚を一匹一匹、海に放してやる。

 

『ふふ、返してあげちゃあ大漁かどうか分からないじゃない。』

「そう?でも、ちゃんと見ていただろう?」

『じゃあ、そういう事にしておいてあげる。』

「意地悪だなぁ…。」

 

 

永久に、時を生きる。

 

 

 

君と共に。

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

暗っ!!暗いです、坊ちゃん!予想はしていましたが、ここまで暗くなるとは… 。

しかし、定番の終わり方(汗)もうイイよ。自分の才能はこんなもんさ!(鼻笑)

ぼっちゃんは好きなんですよー、Tで一番くらいに。だから今度はもうちょっと

幸せにしてあげようと思います。(また懲りずに書く気か、こいつ。)

なんにせよもう少しありきたりでないものを書きたいと思います。ハイ。

 2002・12・25 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

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