白い背景

 

 

 

 

「はー、寒い寒い…」

 

手を擦り合わせて部室に入ると、もうすでにそこは居心地のいい空間になっていた。

 

「あれ?」

「どこへ行ってたんです、?」

 

自分で発注して運び込んでいる、フカフカの豪華な刺繍入り、キャスター付きの椅子に

ふんぞり返って(いや、これはそう見えるだけかもしれないけど)座ってパソコンに

向かうのは、観月 はじめ。聖ルドルフきっての天才…らしい。

 

まぁ、こんな人(と言うのも何だけど)が、私の恋人だったりする。

 

「何でいるの!?」

「僕が部室にいてどこが悪いんです…?」

「イエ、悪くないです…てっきり今日は寒いから来ないのかと…。寒いの苦手じゃん」

「だからって部活を休むのは貴女ぐらいなものです。」

「あはは、お見通しですか。」

「当然です。まぁ、僕だけではなく、少し頭の回転が人より早い人は、単純な貴女の

 行動パターンなどすぐ見切れるでしょうけれど。」

「またそういう人を小馬鹿にしたような言い方をぉ〜っ!」

 

振り上げられた手が下りる前に、忍び込んできた寒い風に身を竦ませる。

 

「うぅっ、サムッ。」

「やっぱり観月と結城が一番乗りだーね。」

「あ、柳沢、木更津。やっほー。私二番乗りだけど。」

「そういう問題じゃないとおもうけどね。」

 

柳沢と木更津を皮切りに、部長や不二、金田に野村…と、順にレギュラーが揃う。

今日は練習が入っていたものの、中止になって急遽ミーティングになった。

 

それというもの、外はパウダーを蒔かれたような白い世界…。

つまり、雪が降っているのだ。

 

「…という訳で、異論はありませんね?」

 

尋ねているにも関わらず、その口調は自信に満ちている。

こんな姿が、とても惹かれてしまうのは何故だろう…。

 

そう、それは…私だけしか見た事のない、彼の裏側を私が知っているからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様〜、敏腕マネージャー。」

「…嫌味が入っているように聞こえるのですが?」

「あはは、そんな事ないって。いいから帰ろう?」

「そうですね。」

 

何となく隣に並び、ゆっくり歩き出す。

出す足は左右一緒で。

二人三脚じゃ絶対転んじゃうんだけど。

 

息を吸うと鼻の奥にツンと寒さが染みて痛い。

口から吐き出した息は、ほわほわと暖かさを失い消えていく。

 

 

「…綺麗ですね。」

「ん?」

 

寮と学校のちょうど中間。人気のない川辺でぽつりと話し始めた。

 

「言っておきますけれど、貴女じゃありませんよ。」

「言わなくても勘違いしませんから安心してください〜。」

 

べーっと出した舌まで凍ってしまいそうですぐに引っ込める。

 

「…不思議と、こうして雪に彩られた世界というのは、綺麗だと思うんですよ。

 あれほど嫌いで、雪の多いあの土地から東京に来たというのに…。

 結局、郷愁…といいますか。故郷の印象深い風景に想いを寄せてしまうんですね。」

「…そっか…観月は北の方から転校してきたんだもんね…。」

 

彼の横顔が雪の光に、美しく照らされる。

高鳴る心臓を抑えるように、私は思考を切り替えて話し出す。

 

「でも、少し羨ましいな〜。私はコンクリートジャングルの生まれ育ちで故郷ないし、

 カルキや排気ガスやらの有害物質蓄積体だからな〜。」

「あぁ、だからそこまで単純なんでしょうかね。」

「あのねー、一応私聖ルドルフは受験で合格してるんですけどー?」

 

相手の前に立ちはだかってピシッと指を差す。

と、足元が踏みしめられていたお陰で凍ってしまったらしく、ずるっと滑る。

 

、危ない!」

 

咄嗟に引き寄せられた腕に、すぽっと埋まる。

すると、再び世界がぐりんと動き、相手を押し倒したような状態になる。

 

「わぁっ!?ご、ごめん!」

 

慌てて起きあがり相手を引っ張り起こそうとするが、相手は起きようとしない。

 

「な、何やってんの??寒いでしょっ?」

 

「…ええ。ですが…こうしていると、何だか…僕まで雪と共に淡く溶けていきそうな…。

 そんな気さえするんです。このまま、白の背景となって溶け込めたら、

 どんな心地なんでしょうね…。」

 

ポツリと呟く彼の言葉が、本当になりそうで、怖くて…。

 

「ダメ。溶かしてやんないんだから。溶けそうになったら、何度も、何度でも輪郭を

 しっかり書いてやる。」

 

相手の隣にぺたんと座って、顔を覗き込む。

不思議に、寒くなかった。

 

「…。」

 

そっと、綺麗な顔が近づいて来た。

芯に温もりの感じられる柔らかい感触が伝わる。

ゆっくりと起きあがり私を立ち上がらせると、優しく微笑む。

 

「すっかり冷えてしまいましたね、すいません。

 …少し、暖かいものを飲んで帰りましょうか。」

 

 

 

 

たまに、こういう事をしてくれるから。

 

 

 

馬鹿にする言葉も、本心じゃないから。

 

 

偉そうな態度だって、彼の一部でしかないから。

 

 

 

 

 

 

 

「…うんっ。」

 

 

 

 

 

 

白いこの背景にぴったりな、優しい貴方だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

…好きなんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

…あれ、鳳はどこへ(笑)どうにも観月だとオンリーでいちゃつかせてしまいますね…。

何が書きたかったかって季節物だから、と、観月が純白好きなのは雪の多い地方出身

だからじゃないかなって思って…です。自分の住むところも雪が降るので、あの静寂

と白い世界はホントに何度見ても感嘆します。まぁ翌日凍るとかは置いといて…。

THANKS 52000 HIT!! 紀優衣サマ☆

 

 2005・2・7 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

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