夏。爽やかな風が吹くようになった。
木々は緑を濃くして太陽に煌く。
空は青く雲も立ち上り、絵葉書のような美しさ。
そんな清々しい景色の中……。
「に゛ゃー!!!!」
不細工な猫が鳴いたような、妙な悲鳴(?)が響く。
運悪くその声を聞いたものは、何だ何だと辺りを見まわしている。
「あの声は…。」
一人の少年が、その声を聞いて小さく微笑む。
「相変わらずだな…は。」
空高く、澄み渡る。
「弦一郎。捕獲したぞ。」
「よし、よくやった蓮二。そのままにしておいてくれ。」
「こらーっ!か弱い乙女になんて事するのさ〜ッ!」
椅子にジャージで縛り付けられている少女は、ばたばたと足を動かして抵抗している。
しかし周りにいるものは誰一人として助け舟を出さない。
「柳生〜っ、アンタも紳士の端くれなら助けてくれない?」
「申し訳ありません。」
丁寧に腰を折って謝っているが、助けてもらえる見込みは無いらしい。
「うぅ〜…仁王は絶対無理だし、赤也は寝てるし…ッ。ブンはジャッカルに任せちゃうし、
ジャッカルは真田と柳に懐柔されちゃうから〜…あーもうっ!」
ばたばたと変わらず暴れていたのをぴたりと止め…。
「んに゛ゃーーーー!!!」
……る事なく、逆に縛り付けられた椅子ごとガタガタと激しく動き始めた。
そして、寝ている赤也の腕の肉をいい感じに椅子の足でゴリュッ☆と踏んづけた!
「ぎゃあっ!!せせせっ、先輩っ、ちょっとタンマ!腕ッ、腕!!」
「待てるかぁーっ!1分1秒一寸たりとも待てるかこんにゃろー!!」
「一寸は単位が違っているが。」
冷静な柳のツッコミもどこかへ吹っ飛ぶ喧騒。
「いーい、これは『らちかんきん』になるのよ!?犯罪なのよ!?」
「明らかに拉致監禁って平仮名で言ったッスね。」
「にそこまでの言語能力を求める方が間違っているな。」
「警察のご厄介になるような事だけはダメって親に言われなかったのー!?」
「…あのなぁ、その言葉はお前に返すぞ。」
騒ぎを聞きつけた(と言うより無視し切れなかった)丸井と桑原がやってくる。
「うるさいジャックゥァール!犯罪は良くないッ!『いじめ、カッコ悪い。』だぞ!!」
「随分古い上に単にゴロがいいから言ってみたかっただけだろい?」
呆れたような丸井の様子にキッと睨みをきかせては歯を剥く。
「どいっつもコイツも役に立たないんだからーッ!真田は『副』部長なんですからね!
何の権限があってあたしをこんな扱いするわけ!?」
「「「「「部長代理の権限。」」」」」
その場にいた全員が声を揃えるというのもなかなか珍しい。
「だーっ!!もしそれがあったとしてもっ!!コレは絶対部長の意向と反する!
というわけで解きなさい。即刻解きなさい。」
「物凄い偉そうだな…。」
「こいつが偉そうなのはいつもの事だろ?真田ぁ、めんどくせーから解いてやったら?」
「ダメだ。今日という今日は逃げる事はかなわんのだ。」
「そうだ。これものためだ。」
「何を言うかー!!真面目に自主的な勉学をしようと思っていたか弱い女子を!
有無を言わさず男二人で追い掛け回し、あまつさえ攫ってきて椅子に括りつけるとは!
立海大付属中テニス部の名が泣くぞッ!!」
物凄く遠まわしに自分の正当性を主張しているが、彼女…は
立海大付属中テニス部の正式なマネージャー(しかも3年目の)であって、
れっきとしたサボりを敢行しようとしていたのだ。
「あぁもう、誰でもいいから私を自由にして頂戴…。」
「そうして何度も逃げちょるじゃろ。俺に勝るとも劣らないペテン師だからの。」
「仁王と一緒にされたかなーい!ペテンとか人聞き悪い事いうなー!!…って、
わ、ぁ、っ、ひゃーっ!」
あまりに暴れ過ぎたため、
ガターン!!!
とど派手な音を立てて椅子ごと倒れていく。
「あいたたた…。怪我したら慰謝料払ってもらうからねー!?
てゆーか、スカートの中とか見てたらコロス!」
タダじゃ起きない。後ろ手で中指を立てている(コラ)
自業自得なのに慰謝料払えとか言う事がむちゃくちゃなのはいつもなので皆スルーだ。
「フフフッ…楽しそうだね、。」
「そ、その声は…。」
部室の入り口に立って温厚な笑みを浮かべているのは、
立海大付属中テニス部部長、幸村精市その人だった。
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後足掻き
もう何を書きたかったんだか、って文章を書きたくて生まれたのがコレ。
月堂にしては珍しく、日常の事を書いていきたいと思いまス。連作っぽくなるのかな。
今のトコ主人公が幸村に対してどういう態度を取らせるか悩んでおります。
従順なのか、毛嫌い的反発なのか…。いっそ2パターン書くか!?
2008・1・8 月堂 亜泉 捧
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