「集合!」
手塚が声をかけ、部員を集める。ざっと見回した後、
「菊丸はどうした。」
「手塚、英二は…。」
大石の言葉で察した手塚は、そうか、と短く受け答えた。
喪失
「…さすがに、今日は部活行きたくないかにゃ〜…。」
オレは1人、呟きながらある場所へ向かっていた。
「っ。」
オレが声をかけると、名前の主はうっすらとこちらを向く。
そして、微笑む。
でも、その微笑みはオレに向けていながら、どこか遠くへ飛んでいく。
看護婦さんに彼女の調子を聞くと、
「そうね、今日はわりと安定しているわ。さっき散歩に行ったときも、花を摘んでいたわ。」
看護婦さんが指差す先には、遅咲きのタンポポが2、3本花瓶にいけられていた。
「そっかぁ…なら良かった。」
オレは手を伸ばしかけて…やめる。
見えない壁がオレ達を隔ててしまった事を、俺は知っているから。
「、今日は何の日か覚えてる〜?」
ぱちくりと目を瞬かせて、はゆっくりと答える。
「うん…私の、誕生日だよ?」
「だからね、ケーキを買ってきたんだよん。ほら、の好きなチーズケーキ。」
チーズケーキ、と聞いて瞳を輝かせる。
その表情があどけなくて、愛しい。
オレがベッドの簡易テーブルに箱を置くと、うきうきと箱を開け始める。
「良かったわね、ちゃん?」
「うんっ。」
「お礼は?」
「あ…そだね。ありがとう、『お兄ちゃん。』」
「とりあえず、さんの精神年齢は、今のところ10歳くらいをさまよっている様です。
ただ…肉体が中学生な為、多少情緒不安定になりやすいのですが。」
の病気は、幼児退行だった。
…オレと付き合って1年が過ぎた頃、
それを妬んだ女の子には、背中をカッターで切られた。
あまりのショックにの脳みそは、小さな頃に戻る事で、自分を守った。
オレには、もちろんどうする事も出来なかった。
オレに優しく微笑んで、好きだと囁いてくれた。
テニスコートの外から、『英二』と呼んで応援してくれた。
そのは、今ここにいるのに、ここにいない。
今のは、オレを『優しいお兄ちゃん』としか認識していない。
「…ねぇ、?」
「なあに?お兄ちゃん。」
「…オレはね、 っていう人が好きなんだよん。」
「すごぉい、私と同じ名前の人だ!」
「そだね。…その子はね、すごく可愛くて、優しくて…いつでもオレのコト考えてくれて
…自分より、他の人を大事にする人だったんだ。」
儚くて、たおやかで。
結構無鉄砲なオレを、暖かく包んでくれた。
その、澄んだ瞳にオレが映る度、幸せな気持ちになった。
「でも。…優しすぎたんだ。」
「…優しすぎるのは、良くないの?」
「え…?」
ふいに、『』が喋ったような気がして、ぱっと顔を上げる。
でも、次に出てきた言葉は、
「お母さん、よく言うよ?人には優しくしなさいって。そしたらその分、優しくして
もらえるって。いい事は、した分だけ返ってくるって。」
「…うん、だけどね…。
もっと、自分を大切にして欲しい…でないと、オレは、辛いから。」
1人で、耐え忍ばないで欲しかった。
オレに気を使って、何も言わなかった。
その優しさが、オレを苦しめた。
好きな気持ちが、二人を苦しめた。
「お兄ちゃん…?」
「…。」
「泣いてるの?どうして、悲しいの?」
「んにゃ、大丈夫だよ。」
は少しだけ眉根を寄せてから、
「お兄ちゃん、寂しいなら私に言ってね?いつでも遊んであげるっ。」
「うん…ありがとね、。」
オレは腕時計を見て、
「あっと、ちょっとだけでも部活に出なくっちゃ。じゃ、また来るからね?」
「うん!バイバ〜イ♪」
オレは病院から出て、の病室を見上げる。
そして、担当の先生から聞いた言葉を、頭の中で繰り返していた。
「恐らく…彼女はこのままならば、全く違う人格になるでしょう。
…酷ですが、再び前の記憶が戻る事は…ほぼ無いでしょう。ですから、
元の年齢に精神年齢が達しても…。」
つまり、は―――オレを選んでくれないかもしれない。
であって、じゃない人になるかもしれない。
事実は事実として、受け止めなきゃならないのに。
オレは、グイッと顔をぬぐってから、学校に向かって思いっきり走った。
不安を、打ち消そうと。
NEXT…
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後足掻き
…書き直し。そうしたら長くなった(汗)書き直してもいまだに納得できない。
何せ、途中に付け足しするだけですから…。元気無いですよ、all書き直しは…。
呆れないで生ぬるい目(約38℃)で見てやってください。
2003・11・14
2003・11・29改 月堂 亜泉 捧
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