Summer Sound

 

 

 

音楽室のカーテンが風に踊る。

ピアノの調べのように緩やかな動きを見つめながら、私はピアノの椅子へ座る。

 

「いい天気だなー。」

 

気持ちいいくらいの五月晴れ。音楽室は人もいないし、くつろぐには絶好のスポット。

小さい頃からピアノに慣れ親しんだ私は腕が落ちないようにと、いつも昼休みに音楽室

にピアノを弾きに来ていた。

蓋を開けて、楽譜を開いて、そっと鍵盤に指を乗せようとした時。

 

高いミの音を鍵盤が奏でた。

 

「バドミントンの…羽根じゃない。」

「ごめんごめーん!ちゃーん、そこにいるっしょー?」

 

白い羽根を拾い上げたと同時に窓の外から聞こえてくる声は、

 

「菊ちゃん。」

「悪い悪いー!つい飛ばし過ぎちったー!」

 

明るくて、楽しいムードメーカーの菊ちゃんこと、菊丸 英二君は、皆から好かれている。

そういえば前に、菊丸君って呼んだら、

「ダメダメー。菊ちゃんって呼んでよ。」とか言われたっけ。

人の名前を覚えるのが苦手な私でも名前を覚えている数少ないクラスメートの一人。

 

 

 

「英二はいつも上に飛ばし過ぎるんだよ。コツはテニスと同じなはずなんだけどね。」

 

二階から見下ろしていたから、校舎の影に隠れて姿が見えなかったもう一人。

間違えるはずがなかった。

 

「不二君…!?」

 

何を隠そう、私の憧れの人、不二 周助君。

スポーツ万能で、成績も優秀で、整った顔立ち。まるで絵本から出てきた王子様みたいな。

菊ちゃんを知ったのも、不二君をずっと見つめてるからなんだよね。

あの二人仲がいいんだよね。今も一緒にバドミントンしてるくらいだし。

 

「ごめんね、さん。今から取りに行くよ。英二が。」

「「ええっ!?」」

 

私と菊ちゃんがハモる。

不二君と菊ちゃんがなにやら下で話している。

終わったなあと思ったら、菊ちゃんは手でメガホンを作って、

 

「オレー、ここから取りに行くからー。」

「ここからって…!」

 

止める間もなく菊ちゃんはするすると配管と窓を使って二階まで上がってきてしまった。

 

「ふひゅー。やほ、ちゃん。」

「あっ、危ないよぉ…あー、心臓止まるかと思った…。」

「大丈夫だってぇ。」

 

にこにこと笑って、鍵盤の上に乗っかった羽根を拾い上げる。

 

「ピアノ、すごい上手いよね♪」

「え…聞いてたの?」

「うん。風の向きとかでテニスコートにも聞こえるし。」

 

うわー、じゃあ不二君にも聞かれてたってこと?恥ずかしー。

 

「ねーねー、一曲弾いてくんない?」

「ええっ!?」

「だめかにゃー。」

 

頼まれると断れない性格は、こういう時に損だと思う。

 

「じゃあ…これなら知ってるかな。」

「あー!少年時代、でしょ。知ってるー。」

 

私は人前で弾くのが苦手。凄い緊張して失敗しちゃうんだもん。

あっ…間違えた。

「もうだめ」と言おうとしたら、菊ちゃんは胸の前で人差し指を立てて、

「大丈夫大丈夫。もっかいやって?」と、ウインクをした。

 

うう〜どうしよう…とか思いながら、また弾き始めると、

 

「夏が過ぎ風あざみ、誰のあこがれにさまよう…。青空に残された、私の心は夏模様…。」

 

安定した、菊ちゃんのちょっと甘めな優しい声。

不思議に安心して、私は間違えることなく順調に弾き続ける。

 

「八月は夢花火 私の心は夏模様…。」

 

終わった後の不思議な静寂。でも、嫌な感じじゃない、静寂。

 

「やっぱり上手いよー、ちゃん!」

「そうでもないよ、菊ちゃん、凄い歌上手なんだねー。」

「そうでもあるけどー。にゃーんちゃって。」

 

楽しい人だなぁ…。なんて。自然と顔がほころんでくる。

扉の開く音がした。それと同時に耳に飛び込んできた声。

 

「遅いよ、英二。羽根取るのに一体何分かかってるの?」

 

跳ね上がる心臓が、否が応でも「彼」のことを認識させて、頭がパニックになりそう。

顔の火照りを自覚しつつも、振り向かずにはいられなかった。

 

「ごめんごめーん。」

「もう、昼休みあと少しになっちゃったじゃない。どうせ英二のことだ、

 さんに一曲弾いてもらうように頼んでたんだろう?」

「にゃはははー。バレたか。」

 

菊ちゃんと話しているのに、まるで私に話し掛けてるような錯覚さえ覚えて、

くらくらする。

 

「ごめんね、さん。」

「えっ、あっ、その、全然大丈夫ですっ。」

「ふふ…面白い人だね。さんって。」

 

お、面白いって…褒め言葉なのかな??

それにしても、笑顔がカッコイイ…。近くで見るとやっぱり綺麗だなあ…。

 

「じゃあ、行こうか英二。」

「んー、わかったー。」

「英二、羽根片付けてきてね。」

「うええっ!?」

「飛ばしたの、英二なんだし。」

「分かったよ。」

「それじゃあさん、またね。」

「はっ、はいっ。」

「バーイバーイ☆」

 

二人が去ったあとには、また静かな部屋が戻ってくる。

 

 

 

先程と変わらず風に踊るカーテン。

柔らかい日差しが影を作る床。

キーンと耳が痛いくらいの静寂。

 

 

 

今思えば、これが全てのはじまりだった。

 

 

 

 

 

過ごしやすい、初夏のある一日の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

はい、原作:枉賀 明、脚色:月堂 亜泉でお送りしていますSummer Sound

前編、いかがだったでしょうか(何故かナレーター口調)。というわけでぇ…。これは

枉賀ちゃんがお書きになられたものの月堂Verといったところです。枉賀ちゃんの話は

みんな好きなのでー。ついつい書いてみたくなっちゃったんですよね。あ、ちゃんと許可

はとってありますよ(笑)後編は現在執筆中ですね。はい。なるべく早く仕上げてUP

したいなあと。明日にでもあげられたらいいんですけどねー。いや…今日中とか。

がんばります、はい。

 2003・6・22 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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