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「おかしいですね。もう、身体の方は意識が回復するレベルまで治っているはずなのに…。」

 

機械が映し出す彼の容態を見た医師は、ため息混じりにそう呟く。

医師経験が少ないわけではない彼を悩ませているのは、そんな矛盾からだった。

 

ディオはそんな医師の悩みの言葉も耳に入らない様子で、

ただ寝台に横たわった親友・ジェイの姿をじっと見つめていた。

 

ここに運び込まれてきた時ジェイは蒼白で脂汗が滲み、緊急を要する容態だった。

 

ディオも、無事を信じていたとは言え、嫌な想像も幾度と無くした。

 

だがそこは若さと体力のお陰か、ジェイの身体は順調な回復を見せた。

 

 

 

そう、身体は。

 

 

意識だけが、戻らないでいた。

 

 

見れば、ただ眠っているようにしか見えない健康的な顔色、穏やかな呼吸。

それが今のディオにとっては、不安を掻き立てられている一番の要素なのだ。

 

ようやく顔を上げるが、寝不足の為か眩暈がする。

 

大きく深呼吸をしてから、彼は低く顰めた声で医師に問い掛ける。

 

「…やっぱり、妖術を食らったせいなんですか。」

「…何とも言いづらいですね。」

 

渋面を作り、医師が一言。

 

書棚の医学書を取り出し、気休め程度に調べてみるしかない。

 

「私は医者ですから、妖術などといった非科学的は好きではないですが…。

 個人的な意見としては、そういった事も要因となっているのかもしれませんね。」

 

 

ディオはまたジェイに視線を落とし、ため息をついた。

 

 

あの時、自分がしっかりしていたなら、妖術にかかる事はなかったかもしれない。

 

 

それに、いくら妖術にかかっていたからとはいえ、

自分のこの手が、この剣が、彼を貫いた事実に変わりはない。

 

彼が回復し、目を覚ましてくれさえすれば、少しは自分を許せるだろうが、

 

今はただ、静かに眠る彼の姿が自分を責めているようで、胸が酷く痛む。

 

「ジェイ…。俺に、もっと力があったなら…。」

 

 

触れる事さえ躊躇い、再び深く思考に沈み込み、ため息をつく。

 

 

そんなディオらしくない様子を痛々しげに見ていた医師だったが、

ふと何かを思い出したのか声のトーンを上げてこんなことを言い出した。

 

「そう言えば、さる伯爵家のご令嬢に、癒しの力をお持ちと噂の方がいらっしゃったはず。

 非科学には非科学で…案外と悪い発想ではないとは思いますがね。」

「…本当に!?その令嬢とはどこに!?」

 

ばっ、と物凄い勢いでディオが顔を上げる。

生気の無かった瞳には一気に光が宿り、医師の次の言葉を待っている。

少し面食らいながらも、医師は記憶を手繰り寄せる。

 

「え、えーっと…確か町の北西に住んでいらっしゃる方で、名は分かりません。

 けれど、とても容姿端麗で一度見たらそれは聖母と思わんばかりだと。」

「有り難う御座います、先生!俺、行って来ます。ジェイをよろしくお願いします!!!」

 

 

ディオは医師の手を取り、嬉しそうにブンブンと振りまわしてから急いで医務室を出た。

見送った医師は微笑み、寝ているジェイを見つめた。

 

「…一気に騒がしくなりましたね。…まああれでこそディオらしいというものです。

 ジェイ。貴方は本当にいい友人を持ちましたね…?」

 

 

 

 

 

ディオが医務室を出たその足で向かったのは謁見の間だった。

 

 

 

 

 

「王様!」

「ディオ。騒々しいと思うたらやはりそなたか。」

 

王はディオの声に苦笑しながらもどこか嬉しそうにそう声をかけた。

歴代の王に比べて就任が早く、年若い現王であるが、民の信頼も厚い賢君である。

 

しかし、けして頭が堅いわけではなく、朗らかで冗談も漏らす人間味のある王で、

実力のあるものや見込みのあるものをいち早く見つけ出し、昇進させる。

親しみやすい人柄のためか、兵士にも人気が高い。

 

ディオも王に騎士へ登用してもらったうちの一人であり、尊敬と信頼を寄せている。

 

王の前に膝をつきながら、ディオは改めて礼をする。

 

「あ…申し訳ございません、王。」

「よいよい。そのように覇気あるそなたの声は久しゅう聞いておらなんだ。許そう。

 して、此度は何用だ?」

 

王は微笑みながら頷き、先を促した。

するとディオは神妙な面持ちになり、こう切り出した。

 

「はい。…少しの間で構いません。暇をいただきたいんです。」

「ほう…?」

 

 

とにかく剣の腕を上げることに熱心で、また忠義に厚いディオは、

自ら暇をもらうことはまず無かった。

 

それを分かっている王は小さく声を上げたのだ。

 

しばしの間王はディオの顔を見つめ、

 

そして、大きく頷いた。

 

「…よかろう。だが、何か考えがあってのことであろう?」

「はい。…ジェイの事です。

 先生から、治癒の力を持つ伯爵家の令嬢が都に居ると聞きました。」

「そうか。だがそれなら、自ら赴かずとも、私が命じて王城に招けばよかろう…?」

 

 

王のもっともな提案にディオは首を振った。

 

 

「命令じゃなくて、お願いしに行くんです。

 俺の剣が未熟だったばかりに…俺が無茶をしたばかりに、ジェイはあんなことになった。

 こんなことで償えるとは思っていませんが、俺の力で何とかしてやりたいんです。」

 

 

真剣なディオの願いを王が止める事はなかった。

 

ディオが王の間を出て行った後、王の手には星見の譜があった。

 

「…星見というのは恐ろしいものだな…。まさに、星が定めを教えている…。」

 

 

星見の譜には、抽象的な唄が何節か載っている。

 

多くの王がそれにより政治を行い、様々な困難を星見に頼った。

 

 

星見は一日毎のものと、月毎のもの、年間のもの。

 

そして、王の着任と同時に視るものがある。

 

今王が手にしているのは着任と同時に視た、御世の星見である。

 

 

「すまぬな、ディオ…そなたには、少々重い運命が待ち受けているやも知れぬ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

さあ、ディオが動き始めました(笑)結構これ、冒険活劇風?になる予定なんですが。

まだ仲間らしい仲間が居ないので…。予想できるとは思いますが、治癒の少女は勿論…。

早く本格的な旅に出したいものです。(じゃあ早く書けよ自分)

 

 2007・7・23 月堂 亜泉 捧

 

 

 

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