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人探しの基本はやはり、情報収集だ。

何せ顔はおろか、名前すら分からない人物を探さなければならないのだから。

 

 

 

酒場に入ると独特の雰囲気がどこか心地いい。

まだ昼過ぎな為人はまばらだが、夜は既に出来上がっている者も多く、

情報収集には適さないだろうとディオは読んだのだ。

 

 

ディオの来訪に気付いた店主が、軽く手を上げ挨拶する。

 

 

「おっ、こんな時分に珍しいじゃないか、ディオ。今日は何にする?」

「悪ぃ、オヤジ。今日は飲みに来たンじゃねぇんだ。ちょっと聞きたい事があってさ。」

 

カウンターに腰掛け、真剣な表情を向けるディオに、店主も少し表情を改める。

 

「何だい、改まって。こないだの王宮に入った賊の話とかか?

 悪いがそいつに関しては情報が皆無といってもいいくらいだ。」

「そいつの事も関係してるといえばそうなんだが…今日はちょっと違う話が聞きたくてな。

 …治癒の力を持つ伯爵家の令嬢の情報、何かないか?」

「あぁ…噂は聞いた事あるが…何せ俺らのような低い身分じゃなぁ…。」

 

 

クランブール国は厳格な身分制度がある。

王族から貴族、騎士、一般民、商職人、奉公人、奴隷と段階がある。

多くは生まれにより決定するが、稀に能力のあるものは身分を引き上げられたりもする。

元は一般民であったディオがいい例だ。

無論、その逆もよくあるのだが。

 

そして、身分は通常生活でも必要なものとなる。特に会話だ。

 

商人、または緊急時など特殊な例でない限り、身分が下の者から上の者へと

最初に声をかけてはならないというものだ。

唯一、酒場だけはその例外が通じるのは、身分制度には一際五月蝿い貴族は来ない故だ。

よって、伯爵家という貴族に対する情報はなかなか酒場では手に入らないのが実状だ。

 

「そっか…ダメ元で来たけど、やっぱりオヤジでも無理だったか」

「悪いなぁ。その代わりといっちゃ何だが、今日の酒代はこっちで持つさ」

 

あからさまに肩を落としたディオを見て、店主は励ますようににかっと笑って見せた。

 

(オヤジの情報にも詳しい事は引っ掛かっていない…

 なのに何故、先生は知っていたんだ?)

 

基本的に王宮は閉鎖された空間だ。

ましてや、王宮付きの医師は表に出る必要がない為世事に疎くなる傾向にある。

ディオが疑問に思うのも当然の事だった。

 

(なら、その情報の出所は何処から…。)

 

ディオが思案していると、隣に人の気配がした。

 

「お隣り、いい〜?お兄サンっ。」

 

にこやかに笑いながら隣にいたのは、中性的な面立ちをした…おそらく女性だろう…

人物がいた。

 

「別に構わないが…まだ他にも席は沢山あるだろ?」

「あははっ、まあそうなんだけど。でも何だか楽しそうな話してたからさ。」

 

ディオにとっては楽しくも何ともない、極めて切実な問題なのだが、

彼女は何故か満面の笑顔でディオの隣に座る。

 

「さてと。カティーナ嬢の何を聞きたいのかな?」

「!?」

「治癒の力を持つ貴族の娘をお探し、なんでしょ。」

 

彼女はにこやかな表情を崩さぬまま、グラスの林檎酒をこくりと飲む。

一方のディオはやっと掴んだ手掛かりに必死で、グラスのルートビアが零れそうだ。

 

「あんた、知ってるのか!?」

「まぁ、知ってるのかと聞かれれば。…そう慌てずに、とりあえず名前を教えてよ。」

「あ、あぁ…俺の名はディオ…位は、セカンドパラディン(準騎士)だ。」

「へぇ、王の側近軍の一員なわけだ。凄いねぇ。」

「俺も元はパブリック(一般民)の出だ…セカンドパラディン(準騎士)の位にいるのは

 王のお陰なだけだ。…それより、あんたの名は?」

 

ディオが聞くと、彼女は僅かに微笑み

 

「私の名はミシアン。位は…アークメイジ。」

 

小指に嵌められた身分証を見せてミシアンが笑むと、ディオは目を丸くした。

 

「っ…!な、神術官がどうしてこんなところに…」

 

「んー、好奇心?それに私は師匠みたいに王の星見なんかはしないもの。

 あ、出来ないって言う方が正しいかな。」

 

あっけらかんと笑うミシアン。

 

神術官は星見をしたり魔術を扱う人達であり、その特殊さ故に貴族に準じる位置にある。

公になかなか姿を見せないものだからこそディオは驚いたのだ。

 

「王の星見をしているのは西の孤島にいる神術官だったな。その弟子なのか?」

「ピンポーン。」

 

そのお茶目な言い方にディオの力が抜ける。

彼の神術官のイメージは、神秘的で寡黙、そして冗談など通じない人間、だったからだ。

 

「…ま、まぁいいや…ところでミシアンさん。」

「ぷっ、あはは、さん付けなんていらないよ。

 どうせアークメイジなんて位は私には大仰なんだよ〜。」

 

ひらひらっと手を振って表情豊かに笑むミシアンに、ディオはまた驚く。

 

「さて、話が逸れたね。ディオはカティーナ嬢の話が聞きたいんでしょ?」

「あぁ、その人は治癒の力を持ってるんだろ?何処に住んでいるんだ?」

「カティーナ嬢はキンデリン伯爵家の一人娘だよ。

 治癒の力は幼い頃から少しずつ発現してはいたけれど、強くなったのはここ最近だね。」

「へぇ…なら、どんな病気でも治せるのか?」

 

ディオの質問に少し目を見張ってから、少し興味深そうに相手の様子を見て

 

「そこまでは分からないけどね。…にしても、どうしてそんなに必死なのかな?」

 

ミシアンの問いに、少し表情を曇らせるディオ。

 

「…俺の親友が、変な妖術にかかったんだ。俺が考え無しだったせいで、あいつが…。」

「…なるほど、美しい友情だね〜。にしても、妖術かぁ…少し興味が沸いちゃうなぁ。」

「興味…?」

「そ。私は知識と見分を広げるためにわざわざ島から出て来たんだもん。」

 

にっこりと八重歯を覗かせて笑うミシアン。

何だか、ディオはカンに障った。

 

自分は必死に親友を助けようとしているのに。

 

それなのに、知識の吸収だと楽しげに笑って見せる相手が、許せなかった。

 

「情報には礼を言う。」

「あっ、ちょっ、ちょっと待ってよディオ。キミ、一人で行く気?」

「…当然だろ、これは俺の問題なんだからな。」

 

苛立ちが口調に出てしまっているのはディオも気付いている。

それでも止められないのは彼の性分である。

ミシアンの手を振り解こうとしたそのとき、ミシアンの口元が微かに動いた。

すると、ディオの身体は全身を緊縛されたように動けなくなってしまった。

 

「っ!な、何をした、ミシアン!?」

「ちょっとばかり魔法で金縛りになってもらうよ。でないと話を聞かなそうだし。

 『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』…遠い東の島国の格言さ。ディオ、

 キミが親友の仇を取りたいと焦る気持ちも分かる。でもね、何も知らないまま

 突っ込んでいっても返り討ちで親友の二の舞だよ。」

「……。」

「というわけで、私も連れていってよ。」

「は!?」

 

ディオはミシアンに驚かされっぱなしだ。

ディオが予想だにしないことを、予測できないタイミングで発してくる。

 

「だって、その方がいいじゃない?カティーナ嬢と私は面識があるし、同行すれば

 ディオの話も通しやすい。そして私はディオの親友がかかった妖術に興味がある。

 お互いにとって悪くない話だと思うけどなぁ〜…。」

 

ミシアンはかなり突飛な性格だ。このわずかな間の会話でさえ分かるのだから、

その変わり者ぶりは半端ではない。

それと同時に、頭が切れるのも確かである。

 

「……分かったよ、ミシアン、ついてきてくれ。」

「やったぁ♪ディオ、話が分かるぅ〜。ささ、まずはカティーナ嬢に会いにいこ!」

「…そうしたいのは山々なんだが…。」

「へ?」

「いい加減、術を解いてくれ…。」

「あぁっ!?ご、ごめん、すっかり忘れてたよ。…【ken】!」

 

不思議な発音の呪文らしきものを唱え、ミシアンの指が空を切る。

 

「っはぁ…何なんだよ…。」

「まぁまぁ。これで私も使える人物っていうのが身に染みて分かったでしょ?

 さぁ、日が暮れないうちにカティーナ嬢の元へ急ぐよ〜。」

 

 

 

 

 

こうして酒場で出会った奇妙な神術官、ミシアンを引き連れ、

 

ディオは一路、キンブリン伯爵邸へ向かう事となった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

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後足掻き

まず出てきました、一人目の仲間は魔法使いですね。いやぁ、とんだ伏兵が。

八重歯やら突拍子も無い性格やらは月堂がモデルだったりします(笑)

そんなわけで、これからどうなっていくのか!それは月堂も謎です(オイ)

 

  2007・12・26 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

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