ティースプーンいっぱいの愛を

 

 

今日は、家に誰もいない。

別段珍しい事ではない。だが、今日は少しだけ勝手が違う。

10月4日の、今日。

 

 

 

 

 

「帰れ。」

 

俺の発した第一声は、自分でも笑ってしまうくらいの酷い声。

よりによってこの俺様が、風邪をひいた姿を見られるなんて、冗談じゃねぇ。

とくに、こいつには。

 

「うっさい、風邪っぴき。せっかくちゃんが看病しに来てやったんだから。

 ほらほら、どいたどいた。」

「誰が入っていいっつったキサマ…ゲホッ、ゴホッ!!」

「あーはいはい、とにかくあんたはベッドにもどんなサイ。」

 

強引に押しのけて入ってくる、こいつは 

テニス部に入り浸り、いつのまにかマネージャーとして迎え入れられたこいつは、

女らしい可愛さが無い。不遜な言葉遣いなんか憎憎しいばかりだ。(←自分棚上げ)

ったく、黙ってりゃいい女に見えんのによ…。

 

「えーっと、これは樺地から、メロンね。向日からは雑誌、忍足からはヒーリングCD、

 ジロちゃんは安眠枕貸し出してくれるってさ。で、これは宍戸から、水不用シャンプーに、

 長太郎からはミニ加湿器…。」

 

のカバンから、次々とさまざまなものが出てくる。

 

「おい、…。」

「あ、私はここに来たからなしという事で。」

「…話を聞きやがれ。」

「何よ?」

「樺地はどうした。」

「樺地は用事があるからNG。私で残念でしたねぇ。」

 

腹は立つが、いい返す気も無い。

 

「で、熱はよ?」

「あん?んなもん知るか。」

「つか知れ!体温計どこだ!」

 

バタバタと一階に駆け下りていく

 

「あのバカ。」

 

俺の枕もとに体温計。

これでちっとは静かになるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼとっ

 

「んっ…?」

 

いつのまにか寝入っていたらしい。そして、すぐ横を見ると、湿ったタオルが落ちている。

ヒーリングCDが邪魔にならないぐらいのボリュームで流れ、加湿器がしゅうしゅう音を

立てる。枕も、ジローのだという枕に変わっている。

 

「あいつ…。」

 

起き上がると少し眩暈がするが、だいぶすっきりした。

 

「あ、起きた。ちょうどいいタイミングねぇ。」

 

の片手には皿、その上にメロンが乗っかっていた。

 

「食べる?…というより、何も食べてなさそうだから無理にでも食べなさい。」

 

ぽふぽふと枕を叩き、俺の背に当て、座りやすいようにする。

こいつ、妙に看病し馴れてやがるな。

はメロンをティースプーンに載せ、俺の顔の前に持ってきて、

 

「はい、あーん。」

「ア〜ン?」

「『ア〜ン?』じゃなくてあーん。」

 

バカかこいつ、と思って口を開いた瞬間。

 

「!」

「樺地がせっかく買って来たんだからねー。」

「っ…っ…だからって、口へ突っ込むな……自分で食える。」

 

甘いメロンの果汁が、がさがさの喉に絡み付く。

 

「ゴホッ、ゴホッ…。」

「ああああ、もー、何やってんの?」

「…っ、てめーのせいだろ!!」

「エキサイトしないの。」

「……。」

 

ますます体調が悪くなりそうだ。俺はため息をつく。

 

「お前帰れ…。」

「うーん、そうね。うっかり風邪もらうとまずいしね。」

「何とかは風邪ひかねぇって言うから、平気だろうよ。」

「ああ!そっかぁ。じゃ、もう少しいようかな〜。」

帰れ。」

「へいへい、わーかりやした。じゃ、絶対治して月曜日には来るんだよー?」

 

俺はかったるくなって、あっちいけの手振りをして、布団にもぐり込む。

 

「あ、起きてこれるようになったら、冷蔵庫の中見てよ。」

 

 

 

 

冷蔵庫の中?

 

しばらくしてから俺は起きあがり、窓際に向かう。

が玄関から出ていったのを確認してから、冷蔵庫へ向かう。

 

ガパッ。

 

 

「……あのバカ。」

 

冷蔵庫には大きめの箱。どう見ても、ケーキの箱。

そして、封筒に入ったバースディカード。

 

 

『15歳おめでとう景吾。今日は熱でてて大変だろうけど、早く元気になって、

 私の手作りケーキを食べなさい!残したらマジ怒るからね!』

 

と、封筒からコトンと何かが落ちる。

小さな、ティースプーン。可愛らしくリボンの飾られたスプーン。

 

 

 

「ちっちゃなティースプーンはね、幸運を運んでくれるっていう言い伝えがあるのよ。

 だからね、私は好きになった人に、幸運を運んでもらおうと思うんだ。」

 

 

 

前に、そんな事をは言っていた。

 

「…可愛くねぇ女。」

 

くっ、と笑ってから、俺はそのティースプーンを枕元において、眠りに落ちた。

 

そのときの夢ははっきり覚えていない。

 

 

それでも、

 

 

たまらなく幸せだった、そんな感覚だけを、残した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

ハッピーバースデー跡部ー!!というわけで誕生日ドリを書いてみました。はい。

ちなみに、ティースプーンの話はたしか本当。どこかの国の迷信だったはず。(適当)

私も持ってました。小さなティースプーンを。人形遊びに使ってましたけど(笑)

今回は「はい、あーん。」で、「ア〜ン?」ときりかえす跡部さんを書きたかったので、

かなり満足です。というか、樺地はメロン買ってきちゃうんですね。

お金持ちは羨ましいぞ、ちくしょう。でも、私メロン嫌いなんですけどね(大爆笑)。

感想、苦情どんとこい(笑)

 2003・10・4 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

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