結局、中学3年間「彼」には勝てずに。

けれど、その屈辱は俺に、膨大な量のデータを与えた。

そう、様々な、大量のデータを。

 

 

廃れぬもの

 

 

俺も部活を引退し、テニス部に関係のあるデータのコピーを後輩に託してきた。

受け取った後輩は、俺の持っているうちの一部でしかないそれを見て驚いていた。

俺はもっと多くのデータを集めた。

もうそれは、執念と言った方がいいのかもしれない。

 

と、薄暗かった部屋がパッ、と明るくなる。

 

「電気つけなよね。それ以上に目悪くしてどうするのよ。」

。」

 

 。俺と同じ3年で、現在生徒会会計を務めている。

しっかりしていて尚且つ明るい性格で、先生からも生徒からも信頼されている。

会計の仕事はよくパソコンを使用するため、視聴覚室で出会う事が多かった。

 

「…またデータとってたの?」

「ああ…。データは日々更新されるからね。特に、うちの部員は。」

「あー、凄いよね、全国で…新聞にも載ったし。」

 

俺の隣のパソコンデスクに座り、電源を入れる。

ブウン…と起動する時の音が、エアコンの空調音まで聞こえる静かな部屋に響く。

 

は、会計の仕事が残ってるのかい?」

「来年の子に渡すための会計報告の整理。会長はいないし、副は逃げたし…私一人で

 やらなきゃならないのよ?あと何ヶ月もないのに。」

「それにしては楽しそうだけどな。」

「まあね…パソコンとか機械いじるの好きだし。」

 

リズミカルにキーボードの上で踊る白くて細い指。

まるで催眠術でもかけられているような心地がして、すっと目を逸らす。

 

「乾も。でしょう?」

「?」

「データ集めるの好きでしょ?まあ、好きなテニスのためだって言うのはあるだろうけど。

 でもさ、好きじゃなきゃデータなんてかったるい物集めないよね。」

 

好き…?どうなんだろう。そういった感覚でデータを取ったことなんてなかった。

 

「進路、乾は残り組だっけ。私は情報システム系があるところへ行くから、外部組

 なんだよね。寂しいよ〜?外部組少ないからね。」

 

が外部受験する事はデータとして収集済みだ。

のデータなら、テニス部員のデータ並に揃っている。

 

俺は、彼女に惚れていたから。

 

の事を知りたくて。

そうしたらいつのまにか、データノート一冊は軽々埋まっていた。

 

「でもさ、ちょっとだけ優越感ってのがあるんだ。」

「優越感?」

 

の言葉にふと我に返り、聞き返す。

 

「うん。私はこれをやるんだぞーって、胸張って言えるものがあるって、凄い事だと

 思わない?私はパソコン関係をずっとやっていきたい。それを極めたい。

 何となくカッコイイじゃない。」

 

パソコンの画面からは目を離さず、彼女は言葉を紡いでいく。

けれど、その言葉には確かに『力』があった。

 

「だからね?私はあえて乾と離れ離れになるのですよ。」

「俺と…?」

「そっ。大好きな人と離れるって、女としては結構辛いんだぞっ。」

 

俺はついに耳まで悪くなったのかとまで思った。

自分に都合のいい台詞が、自分の脳内に響くなんて。

 

「聞いてた?乾??」

「え、あ…。」

「ちょっと、乙女の一世一代の告白を無下にする気?あーもう、ホントにテニスデータ

 バカなのね、乾は。」

 

いつも通りの口調だが、声が上擦っている。

の緊張している時の癖だ。

 

俺は、の事なら何でも知っている。

何故なら…。

 

「好きだ、。」

「へっ?」

 

思わず手を止めて、こちらを向く

俺は眼鏡を外し、をそっと抱き寄せた。

眼鏡をしたままじゃ、の赤い顔をしっかり見てしまう。

そうしたら、こっちが赤面してしまうに違いないから。

 

「好きだ。」

「乾…。」

「行くな、とは言わない。…けど。

 必ず、俺のところに戻ってきて欲しい。」

「大丈夫…。絶対、離れてあげないから。」

 

最初は、「勝つ」為だけのデータノートだったかもしれない。

だが今、俺にとってこのノートは無くてはならないものとなっている。

ずっと、この先も俺はデータを取っていくことになるだろう。

 

テニスも、データを取ることも好きなのだと、が教えてくれたから。

そして、そう気付い手から初めてのデータは、に関してのデータ。

 

のデータに、新しく項目が付け足された。

―――誰よりも大切な、俺の彼女、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

乾さんです。キモくない乾さんを目指しました。どうなんでしょう??

乾さん好きなんだけど、どうも文章に起こすと変になるなあ…頭の中ではばっちり

シーンが浮かぶんですけれども。そして、何より。

 

眼鏡を外させたい。

 

ひたすら外させたい。

 

だめ?乾。(即答で『ダメ』とか言いそう…。)何はともあれ。

もっと修行しないとですね。ハイ、精進します。

 2002・12・14 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

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