慣れ親しんだ東京から離れ九州へ来てから、もう二週間が経とうとしている。

いつもとは違う環境になれてきたものの、どこか空疎を感じていた。

 

 

君の姿と声を届けて

 

 

ドアを開けると、ひらりと落ちてきた紙。

宅急便の通知だった。電話をかけると、近いところにいるので戻って届けるとの事だった。

着替えてしばらく待つと、インターフォンが鳴る。

 

「…母さんからか。」

 

封を切ると、手紙が入っていた。

 

『国光、元気でやっているかしら。こっちは相変わらずよ。

 今日の小包みの中身はね、テレビ電話なのよ。ちゃんが懸賞で当てたからって、

 うちにくれたのよ。ちゃんのうちはもうテレビ電話があるから。

 二つ頂いちゃったから、国光にも送るわね。ちゃんにお礼の電話かけてあげてね。

 じゃあ、体に気をつけて。電話もしてきてね。』

 

とは幼馴染で、家族ぐるみの付き合いをしている。

中学も一緒だったこともあって、いまだに付き合いがあった。

 

そう言えばは昔から懸賞やくじが当たりやすい。

不思議と何でも手に入れてしまうのだ。

 

ふと懐かしくなって、電話をしようと思う。

がさがさと電話を取りだし、接続をはじめる。

 

 

ツー…ツー…。

 

接続が正しく行われている証拠に、電子音が受話器から流れる。

手帳から番号を探したのは、

何故か、の姿が見たかった。

いつもは何気なくダイヤルを押していたのに、妙に手が震える。

重大なことでもないはずなのに、心臓が高鳴る。

 

『はい、です。』

 

ふっ、と映し出されたのは、紛れもなくの顔。

たった二週間だと言うのに、顔を見るのがひどく懐かしい気がする。

 

『あれっ!?国光!!電話してきてくれたんだー。』

「…ああ。」

『うんうん、元気そうで良かったよ☆』

 

変わらない、

その明るい声も、優しい笑みも。

それが妙に嬉しく感じて…甘酸っぱいような気持ちを覚える。

 

「すまないな、テレビ電話なんて送ってもらって…。」

『うん?いいのいいの!だって家に三台もあったって使わないし。それに、いつも国光に

 お世話になってるでしょ?だから。』

「ほう、お世話になってるという自覚はあったのか。」

『何それっ!私が無神経みたいな言い方!』

「違ったか?」

『もーっ!!』

 

すねた表情を隠そうともせずにこちらに見せてくる。

その素直さに、俺もつい顔がほころぶ。

 

『あ、やっと微笑った。』

「?」

『国光ってば、テレビ電話なのに全然表情が変わらないんだもん。画面に写真貼り付けてる

みたいだよ?』

 

悪かったな、表情が変わらなくて。

だいたい、楽しくもないのになぜ笑ったり出来る?

そう言うとまたは、「素直じゃないなぁ。」と言うのだろうが。

 

『ちょっと動いてごらん?』

「??」

 

わけも分からず体を左右に揺らすと、

 

『あははははははは!!!そうじゃ、なくって!あはは!』

 

受話器から聞こえる笑い声と、床を叩く音。

画面からは見えないが、恐らく床で笑い転げているのだろう。

 

何が面白いんだ…。

 

 

『はー、はーっ…おもしろーい。国光、もー最高ー。』

「訳が分からない。」

『だからさ、テレビ電話なんだからさ。表情変えようよ。』

は変わり過ぎだと思うがな。」

『そう?…えーと、どうすれば表情が変わるかな。』

 

真剣に考え込み始める。

そろそろ切ろうかと考え始めた頃。

 

『そう…だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ずっと、好きだったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと、貴方のことだけ見てた。』

 

 

 

「っ……。」

 

いつもの、得意の冗談だ。

そうに決まっている。

そう分かっているくせに、俺は自分の顔が熱くなるのがわかった。

慌てて顔を隠す。

 

『あはっ、大成功!顔赤くしちゃって、かーわいい、国光ちゃん☆』

「うるさい。」

『やん、怒らないで〜♪』

 

喜んでいるらしいを諌めようと画面を見やる…と。

…気のせい…じゃない。

かすかに、の頬が赤く染まっている。

まさか…。

 

『そうそう、今度お祭があるから、できたら帰っておいでよ。』

「…。」

『何?』

「……さっきの言葉は、本当か?」

『へ?』

「さっきの言葉は、単なる冗談だと、言うのか?」

『…え…っと…その、あのー、ね?国光、落ち着いて。』

 

俺はいたって落ち着いているぞ?

もつくづく分かりやすいやつだ、と思う。

 

「俺は、さっきのを本気と取った。」

『国光…。』

「…だから、俺は本気の答えを…返す。」

 

姿が見えているだけで、まるで本当に対面している気がするのはなぜだろう。

ドクドクと早鐘を打つ心臓を気にしながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺は、お前が…好きだ。

 

 

 ずっと昔から…のことを想っていた。」

 

 

 

 

 

 

 

『国光…。』

「返事は、返さなくていい。」

 

分かってしまったから…などと言うのは、勘違いか?

 

…いや、間違えるはずはない。

お前を誰よりも見てきた俺だ…。

今まで気づかなかったとしても、あの言葉が本気だと言うことくらい、分かる。

 

 

「また…電話してもいいか?」

『……うん。』

「そのときは、返事をもらうからな。」

『う…うん!』

 

 

 

受話器を置いてから、思いきりため息をつく。

一気に疲れが出た感じだ。

 

 

 

 

 

 

だが…悪くない。

 

 

 

 

 

 

本当に、は何でも手に入れてしまうな。

 

 

 

俺は、受話器の向こうの彼女に、そっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

手塚です。はい。何でまたこんなのになったかと言うと。テレビ電話って動いてなんぼ(?)

のもんじゃないですか。表情が動かなくっちゃ意味がないって言うか。で、手塚は、表情が

動かなさそうだったので。ちょっと面白いかなと思って書いてみました。左右に揺れる

国光さん…ちょっと萌えません?起きあがりこぼしみたいな。はい、そんなんで。

もっといい文書けよ、自分…。ではでは☆

 2003・7・19 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 


 

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