TOKYO 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

さっきもあのストリートミュージシャンの前を通った気がする。

なんだか居心地が悪いけど、仕方なくそそくさと前を通り過ぎる。

 

大きいキャリングケースを引きずり、中から地図を取り出す。

 

「この地下道を通ってすぐって聞いたんだけどなぁ…。」

 

地下道はまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされていて、

どうなっているのかがさっぱり分からない。

一度地上に出て確認もしてみたけど、やっぱり地下に入ると訳が分からなくなる。

 

「はぁ、これじゃ辿りつくのがいつになるやら…。」

 

歩き過ぎて、おろしたてのスニーカーが足に痛い。

これだったらぼろでも古い方のスニーカーを履いてくれば良かった、なんて後の祭。

 

 

 

 

 

だって、ここは東京。

 

 

 

 

私の田舎な故郷とは遠く離れた、都会の地。

お洒落はしないけど、すこし良い服だって着て来た。

 

だってここには、彼がいるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁぁ…ここだぁ〜。」

 

 

やっと目的の場所を見つけてへなへなと脱力する。

 

「駅から徒歩10分なんて嘘だよ…。」

 

腕時計が差している時刻は11時過ぎ。

東京に着いたのは10時半前だったはずなのに。

 

「これだから東京は嫌いだっ。」

 

昔、親に連れられて幼馴染と一緒に東京に来た事がある。

 

元々親は東京出身だったが、祖母が体調を崩すと同時に空気の良い田舎へ移り住んだ。

私は幼いながらに、ここはなんて所だろうと思った。

 

 

 

土や緑がなくて、周りは高いビルで。僅かに見える空までくすんだ灰色だった。

 

空気や水は美味しくなくて、海はゴミで汚れていた。

 

人はいっぱい居るのにどこか静かで孤独で。

 

 

 

なぜ、こんなところに皆が憧れるのか、分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ…。」

 

これから私の部屋となる場所には、山積みになったダンボール。

宛名のところには見なれた母の文字。

何だか、不意に寂しくなってしまう。

 

(だめだ、1日目からこんなホームシックじゃ…)

 

気を取り直して荷物を整理しようとダンボールを開ける。

 

「大変そうですね。お手伝いしましょうか?」

 

後ろからそう声がかかる。

 

「あ、いえ、だいじょう…。」

 

大家さんの声かと思って振りかえる。と。

 

「んふ…僕の声を忘れたんですか??」

「えっ…えぇっ!?は、はじめ!?」

 

ビックリして思わず大きな声で呼び指を差す。

 

幼馴染の観月はじめが、楽しそうに肩を揺らして笑いながらそこにいたから。

 

「どうしてそんなに驚くんですか?今日引越しだとメールをくれたのはでしょう?」

「いや、そうだけど…どうして場所がわかったの?」

「おば様から聞いたに決まっているじゃないですか。

 方向音痴の田舎者のではしっかりとした場所を解答できないと思いまして。」

「う…どうせっ、田舎者ですよーだっ。」

 

イーッと歯を出して文句を言うと、ますます楽しそうにはじめは笑う。

少し背が伸びて、私より高くなってる。

方言を隠すための敬語も、私にはすっかり耳に馴染んでいる。

何だか嬉しくなって、私ははじめに近寄り、手を繋いだ。

 

「えっ、な、何ですか突然!?」

 

今度ははじめが驚く番だった。

私はついつい緩んでしまう顔を少し引き締めながら

 

「昔はこうして手繋いでたじゃん?」

「昔って、まだ本当に小さな頃でしょう?」

「今だって子供なんだし、いいじゃん、ちょっとくらい。」

 

指を組んで繋いだ手は、やっぱり少し私より大きくなっていて。

おっきくなったねぇ、なんて何だか久しぶりに会う親戚のおばさんみたいな考えになってしまう。

 

「そういえば、はじめは寮で生活してるんだよね?」

「ええ。も希望すれば寮に入れたと思うんですが。」

「うん、それは知ってるんだけど。だってなんか寮って規則厳しそうだからさ。

 だったら一人気ままの方がいいかなって。」

「良く言いますね。寂しがりやのが。」

「そっ、そんな事ないモンっ!」

 

こういう言い合いも、何ヶ月ぶりだろう。

嬉しくて、でも何だかむず痒くて、不思議な感覚。

 

「…でも、そうですね。が寮に入っていたらちょっと困った事になりましたね。」

「え?」

「だってこうして、気軽に二人きりで会えないじゃないですか。」

 

 

 

ドクン。

 

心臓が、ビックリするくらい大きな音を立てた。

だって、それって。

 

二人きりで、会いたいって。

 

そう聞こえたから。

 

「そっ、そうだよね。寮同士だとあんまり行き来できないよね。」

「でしょう?」

 

ドキドキしている心臓の音が聞こえてしまいそうな気がして、必死で取り繕う。

 

?」

「あ、えっと…荷物整理しなくちゃね。」

 

慌てて後ろを向き、荷物のダンボールを開ける。

 

「…酷いですね。」

「え?」

 

振り向く前に、その行動は中断した。

だって、はじめが。

 

後ろから私を、抱きすくめたから。

 

「ちょっ…はじめ?」

「僕は今日を心待ちにしていたんですよ。また、と一緒に居られると。

 …大好きなが、またすぐ近くに居てくれると。」

「は、はじめ…いま、何て…。」

 

頭が混乱し過ぎてパンクしそうだった。

はじめが私の事を…大好きだ、って……?

 

 

 

夢……じゃない。

 

 

 

だって、抱きすくめられた温もりも、

腕の強さも、

頬に触れるくせっ毛のくすぐったさも、

 

本物だから。

 

「はじめ……。」

 

 

甘い、甘い、蜂蜜のような夢。

いつか見た夢。

それが今、現実になる。

 

 

「ずっと、一緒だよ…はじめ。」

…」

「私もね…はじめの事、好きだから。」

 

 

蜂蜜の香りに包まれたような、甘い幸せな気分で1日を過ごす。

このまま、この香りに包まれていたい。

 

東京は、相変わらずのそっけなさで日々が過ぎていくけれど、

私の隣にはいつも、彼が居るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

はい、久しぶりの観月です。う、腕落ちてる…。すいません(謝)

これはチャットモンチーの「東京ハチミツオーケストラ」を元に書きました。

上京、というのをする若い夢見る乙女な感じが好きで書いちゃいました。

いい曲なんで聞いてください。(宣伝!?)曲に比べてこれは駄作だなぁ…(泣)

  2006・12・18 月堂 亜泉 捧

 

 

 

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